著者
関戸 英紀
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.7-14, 2001-03-31

「いってきます」「ただいま」「ありがとう」(以下、あいさつ語とする)の自発的表出に困難を示す、CA13歳0か月、MA3歳9か月の自閉症男児に対して、「買い物」ルーティンを用いて、あいさつ語の自発的表出を目的とした指導を約3か月間(31セッション)行った。その結果、あいさつ語の自発的表出が可能となり、またある程度の日常場面での般化および指導終了5か月後の維持が確認された。以上のことから、対象児にとって、"出かける""帰宅する""物をもらう"という3つの場面の文脈の理解が可能になったこと、あいさつ語の習得には聴覚的プロンプトの提示よりも視覚的プロンプトの提示のほうが有効であったこと、文脈の理解と言語の表出との間に相互に関連する傾向がみられたことなどが検討された。
著者
佐竹 真次 関戸 英紀 長崎 勤
出版者
山形県立保健医療大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究では、ダウン症児や自閉症児などの発達障害児へのスクリプトによるコミュニケーション指導の体系性と実用性を、スクリプト指導の系統性とターゲット言語行動の般化、スクリプト指導と学校教育の教育課程との関連性に焦点を合わせて実験・調査することにより明らかにした。佐竹、長崎、関戸をはじめ、多くの事例研究により、スクリプトの体系の、発達の経過にそった「継時的側面」については、乳幼児期の儀式化されたフォーマットに始まり、幼児期の日常生活スクリプト、ならびに、ごっこ遊びやゲームなどの構成されたスクリプト、児童期におけるそれらのレパートリーの拡大と支援の連携の拡大、さらに、自分の気持ちや意志などの内的状態を表現したり、他者の気持ちや意図や信念を理解し適切な応答を行うためのスクリプト、思春期以降における社会生活スクリプトなどへと発展していく筋道が明らかになった。それをターゲット言語行動から見ると、当初は、物の要求、行為の要求、教示要求、あいさつ、報告、感想などの実用的な言語行動が優先され、次に、身体の調子や自他の内的状態の叙述、時間・空間に関する叙述などの習得の方向へ発展していき、命題的な叙述や構文の洗練といった要請はあとになることが示された。一方、同時代の広がりである「共時的側面」については、教育現場で実際にスクリプトがよく利用されている日常生活指導や学級活動、調理学習などの領域と、利用される見込みは高いがあまり利用されていない生活単元学習や作業学習などの領域とが、宮崎による養護学校からの実践報告や、佐竹によるコミュニケーション指導に関する実践研究のレビューによって、相当程度明らかにされた。今後は、生活単元学習、作業学習、その他の領域における指導のスクリプト化に焦点を当てた実践研究の蓄積を目指していく必要がある。
著者
関戸 英紀
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.35-45, 2004-05-30
被引用文献数
1

通常学級に在籍する自閉的傾向と知的障害のある小学校5年生の男児に対して、(1)対象児に対する個別的な支援、(2)学級担任に対するコンサルテーション、(3)全校の教師の対象児に対する理解の促進、(4)学級の他の児童の対象児に対する理解の促進、という4つの観点から約9か月間(24セッション)支援を行った。その結果、対象児と支援者との間で、交渉的なやりとりや役割交代が成立するようになり、学習態度の形成も可能となった。学級担任も、対象児の実態に基づいた、一貫性のある対応が可能になった。また、対象児の所属学年にかかわりのある教師の問でも、対象児への対応が統一されていった。さらに、学級の他の児童の対象児に対する対応も、肯定的になってきた。以上のことから、共感的関係を基盤にしながらやりとり行動を形成していったことの妥当性、巡回指導および小・中学校と関係機関とが連携・協力することの有効性、校内支援体制を構築することの必要性などが検討された。
著者
関戸 英紀
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.29-37, 1998-06-30

質問に対してエコラリア(誤答)で応じるCA12歳5カ月の自閉症男児に対して、「買い物・トーストづくり」ルーティンを用いて、五つの型(Who型,Yes-No型,AorB型,Whose型,How型)の質問に対する適切な応答的発話の習得を目的とした指導を約8カ月間(23セッション)行った。その際に、スクリプトの獲得を評価するために、適切な応答的発話のバリエーションと獲得した応答行動の日常場面での般化を指標として新たに設定した。その結果、Who型、Yes-No型、Whose型の質問に対して適切な応答的発話が習得された。またAorB型、Which型、What型においてバリエーションが、Yes-No型において般化がみられた。以上のことから、次のことが検討された。(1)視覚的な手がかりが弁別刺激となり、対象児に対して適切な応答的発話の表出を促進した。(2)ルーティンを繰り返すことにより、それに含まれる言語・非言語を問わず行為の系列を再現できるようになったが、その意味や伝達意図の理解が可能になるまでには至らなかった。
著者
関戸 英紀
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.41-47, 1996-03-30

電話の使用をスクリプトに組み込んで指導することによって、その応答の獲得が促進されるのではないかと考えた。また、獲得したスクリプトを累積的に発展させることによって、より高次の行動や新たな行動の獲得が可能になるであろうと考えた。そこで、16歳の自閉症男児に対して、「おかわり」、「報告」、「応答」の三つのルーティンのスクリプトを用いて約5ヵ月間指導した結果、校内電話をかける、自宅の電話をかける・受ける技能の獲得が可能になった。以上のことからスクリプトを利用したことによって、文脈の理解に対する認知的な負荷が軽減され、またスクリプトにおいて電話の使用が手順の一部になっていたために対象児は言語に注意を集中することができ、その結果応答の獲得が促進されたこと、スクリプトの行動手順を遂行していくなかで対象児なりにその意味の生成がなされ、その過程は語用論上の誠実性原則に反するものではなかったことが検討された。
著者
関戸 英紀
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.95-102, 1994-03-31

質問に対してエコラリアで応じる14歳の自閉症男児に対して、明確な順序性をもち、動機づけの高い共同行為ルーティンを設定し、その文脈を用いて対象児の認知的発達水準を考慮しながら、適切な応答的発話の習得を目的とした指導を約3か月間行った。その結果、4セッションめでエコラリアが消失し、18セッションめで指導目標とした4つの質問すべてに正答できた。また、日常場面においても応答的発話に変化がみられた。以上のことから、場面文脈を対象児の認知的発達水準に近接させていくことによって文脈の理解がされ、このことがエコラリアの消失を促進したと考えられること、また場面文脈および質問の意味の理解を促進するためには最小限必要な要素から構成される、単純化された場面を設定し、しかもスクリプトの主要な要素から指導を開始することの重要性が検討された。
著者
関戸 英紀
出版者
横浜国立大学
雑誌
横浜国立大学教育紀要 (ISSN:05135656)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.235-247, 0000

本研究では,質問に対してエコラリアで応じるCA12歳5ヵ月の自閉症男児に対する言語指導について報告する。対象児は,「買い物・トーストづくり」ルーティンの文脈を用いて,五つの型の質問に対する適切な応答的発話の習得を目的とした指導を受けた。「買い物・トーストづくり」ルーティンは,"導入","買ってくる物を決める","買い物をする","トーストを作る","トーストを食べる"の五つの場面から構成された。対象児のほかに,3名の精神遅滞児と1名の指導者がこのルーティンに参加した。その結果から,次のことが検討された。1)ルーティンのスクリプトの理解が深まるにつれて,言語の理解と表出が促進された。2)対象児は,標的行動とした五つの応答的発話のうち三つを獲得することができた。この結果から,応答的発話に困難を示す自閉症児に,共同行為ルーティンの文脈を用いた言語指導を行うことによって,質問に対して適切に応答できるようになると考えられた。3)質問に対してエコラリアを示す自閉症児の適切な応答的発話の習得過程は,最初にエコラリアが消失し,その後誤答をへて,正答が表出されるようになる可能性が示唆された。4)What型,Which型,(Where型),Who型,Whose型,およびHow型の質問に対する応答的発話の習得の順序性に関しては,自閉症児と健常児は同様であると考えられた。