著者
佐藤 久友 淵岡 聡 黒川 洋輔 高山 竜二 大野 博司 佐浦 隆一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Aa0136, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 股関節浅層にある殿筋群などは股関節作動筋として股関節の運動に関与する。一方、股関節深層にある短外旋筋群は力学的支持器や深部知覚の感覚器としての機能を持つことから、歩行の安定性向上に寄与すると考えられているが、その詳細な働きは明らかではない。そこで、本研究では股関節外旋筋群の機能を明らかにするために股関節外旋筋群を疲労させることで一時的な筋力低下を生じさせ、筋力低下の出現前後での歩行に関する空間的、時間的パラメータの変化を生体力学的手法によって測定し、股関節外旋筋群の筋力低下が歩行に与える影響を検討した。【方法】 健常成人18名(平均年齢25.7歳)、男性10名、女性8名を対象とした。なお、重篤な内部疾患や神経筋疾患、姿勢制御に影響を与える下肢・体幹の整形外科疾患の合併や既往のあるもの、股関節伸展0°位での内外旋可動域の差が15°以上あるものは、研究対象から除外した。測定する下肢側は無作為に決定した。被験者を体幹直立位で股関節および膝関節を90°屈曲位の端坐位とし、体幹を固定するために両手でベッド端を把持させた姿勢で、短外旋筋群を疲労させるための運動を行わせた。運動負荷強度は股関節外旋筋力の最大値の30%とし、セット間に15秒の休息を設けながら、30秒間の等尺性収縮を10セット行った。なお、この強度と頻度で運動させた場合には運動後に股関節外旋筋力が有意に低下し、短外旋筋群が選択的に疲労することをあらかじめ先行研究で確認した。歩行解析は短外旋筋群を疲労させる筋疲労誘発運動の実施前後で快適歩行速度下にて3回実施した。赤外線反射マーカーを身体セグメント35か所に貼付し、3次元動作解析装置(VICON 460)と床反力計(AMTI)を用いてマーカーの時間的な変位や軌跡から空間的、時間的パラメータを算出した。解析するパラメータは歩行速度、立脚時間、両脚支持時間、ケイデンス、ストライド長、1歩行周期における立脚相の割合とした。立脚時間は測定側の下肢が床反力計に踵接地してから足先が離地するまでの時間とした。また、両脚支持時間は、接地から立脚前半の床反力鉛直成分の最大値までを立脚前半、立脚後半の床反力鉛直成分の最大値から足先が離地するまでを立脚後半と規定した。統計解析は対応のあるt-検定を用いて行い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 この研究は大阪医科大学倫理委員会と大阪府立大学倫理委員会に承認されている。また、研究を行うにあたり、対象者に本研究の主旨を文書および口頭で説明し、文書にて研究参加への同意を得た。【結果】 筋疲労誘発運動前後での立脚時間は、運動前0.617秒から運動後0.608秒(p = 0.015)へと有意に短くなり、立脚前半の両脚支持時間も運動前0.143秒から運動後0.139秒(p = 0.038)へと短縮した。また、立脚後半の両脚支持時間は運動前が0.146秒、運動後は0.142秒(p = 0.058)と有意差は認めなかったが短縮する傾向にあり、結果としてケイデンスも運動前116.8steps/min、運動後118.0 steps/min(p = 0.080)と増加傾向を示した。一方、歩行速度は運動前1.197m/sec、運動後1.198 m/sec、ストライド長は運動前1.241m、運動後1.230m、1歩行周期における立脚相の割合は運動前60.00%、運動後59.66%であり、いずれも疲労誘発運動前後で有意な変化を認めなかった。【考察】 通常、加齢や下肢の障害により立位時の支持性が低下すると歩行速度は遅くなり、それに伴い立脚時間や両脚支持期が延長するので、ケイデンスは低下すると考えられる。しかし今回の検討では疲労誘発運動前後でケイデンスは低下しなかった。これは、対象が健常者であり、短外旋筋群の疲労による一時的な筋力低下を股関節浅層の筋群などで代償することにより、疲労誘発運動後でもケイデンスを増加させ、歩行速度や1歩行周期における立脚相の割合を一定に保つことが可能であったと推測される。しかし、疲労誘発運動後には下肢の支持性の指標である立脚時間や両脚支持時間が短縮したことから、股関節深層にある短外旋筋群が下肢の支持性に大きく関与している可能性が示された。【理学療法学研究としての意義】 股関節の短外旋筋群は歩行時の下肢の支持性に寄与していることが明らかとなった。下肢疾患を有する患者や高齢者の歩行の安定性を改善するためには、短外旋筋群の筋力強化が重要である可能性が示唆された。
著者
二階堂 泰隆 佐藤 久友 高山 竜二 大野 博司 佐浦 隆一
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.549-553, 2011 (Released:2011-09-22)
参考文献数
27
被引用文献数
2

〔目的〕パーキンソン病(Parkinson’s Disease: PD)の症状のひとつである前屈姿勢は動作の自由度を制限し転倒リスクを増加させる.近年,後進歩行運動によるPD患者の姿勢や前進歩行能力の改善が報告されているが,その効果の詳細は不明である.本研究の目的はPD患者に対する後進歩行運動後の即時的な姿勢及び姿勢制御の変化を明らかにすることである.〔対象〕前屈姿勢を呈するPD患者1名(Hoehn & Yahr重症度分類III)とした.〔方法〕課題は静止立位とFunctional Reach Test (FR),Cross Test (CT)とし,5分間の後進歩行運動前後に三次元動作解析装置と床反力計を用いて課題中の姿勢と重心の変化を測定した.〔結果〕後進歩行運動後の静止立位では身体重心,足圧中心の後方移動を認め,即時的に前屈姿勢が軽減した.また,FRでは足関節戦略による姿勢制御の割合が増加し,CTでは前後方向,特に前への身体重心,足圧中心移動距離の増加を認めた.〔結語〕後進歩行運動は前屈姿勢の軽減と足関節を主とした姿勢制御能力を向上させ,安定性限界の範囲を拡大させる可能性がある.