著者
妹尾 春樹 佐藤 岳哉 今井 克幸 佐藤 充
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

北緯80度に位置するスバルバール群島(ノルウエー領)にて、知事の許可を得て、以下の哺乳類および鳥類を捕獲して肝臓を、高速液クロによるビタミンAの分析、および形態学的手法(塩化金法、ビタミンAの自家蛍光観察のための蛍光顕微鏡、透過型電顕、石井-石井鍍銀法、アザン染色、HE染色、Sudan III脂肪染色)によって解析した。捕獲した哺乳類は北極グマ(3頭)、北極キツネ(8匹)、ヒゲアザラシ(6匹)、ワモンアザラシ(6頭)、スバルバールトナカイ(7頭)であり、鳥類はシロカモメ(22羽)、ウミガラス(4羽)、ニシツノメドリ(6羽)である。高速液クロによる分析では、北極グマ肝臓が最も高濃度にレチニルエステル(23,300nmole/g wet weight)を貯蔵しており、ついで北極キツネ(18,439±2,314)、ヒゲアザラシ(5,956±5,857)、ワモンアザラシ(1,551±2,486)、スバルバールトナカイ(921±264)であり、鳥類ではシロカモメ(4,710±3,164)、ウミガラス(1,589±225)、ニシツノメドリ(1,183±589)であった。塩化金法では肝臓星細胞が特異的に黒染し、蛍光顕微鏡下にこれらの細胞の脂質滴から強いビタミンAの自家蛍光が発していた。北極グマおよび北極キツネ、ヒゲアザラシの肝臓ではHE染色、Sudan III脂肪染色でも容易に星細胞の脂質滴が認められた。また、これらの動物は自然のなしたビタミンA過剰症といえるが、肝臓には線維化などの病理学的所見は見られなかった。透過型電顕を用いたモルフォメトリーでは、星細胞の数はヒトやラットを含む他の動物と差は無かった。しかし、透過型電顕で星細胞に含まれる脂質滴の占める面積は北極グマおよび北極キツネ、ヒゲアザラシでは有意に大きかった。北極グマおよび北極キツネ、シロカモメ、ヒゲアザラシなど北極圏における食物網(food web)の上位に位置する動物は大量のレチニルエステルを肝臓星細胞に貯蔵している。モルフォメトリーでは、これら動物においては星細胞の数は他の動物と差は無かった。しかし、各細胞に含まれる脂質滴の占める面積が有意に大きかった。すなわち、各々の星細胞のビタミンA貯蔵能が高いことが示唆された。北極圏の食物網の上位に属する哺乳類と鳥類は星細胞にヒトやラットなどの動物の20-100倍高濃度のレチニルエステルを貯蔵していた。さらに興味深いことに北極キツネでは肝臓からビタミンAが溢れ出し、腎臓に貯蔵されていた。このことは内分泌かく乱物質による汚染を示唆している。
著者
斎藤 将樹 佐藤 岳哉
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.153, no.3, pp.117-123, 2019 (Released:2019-03-12)
参考文献数
64

一次繊毛は細胞膜が突出して形成される不動性の繊毛で,一細胞につき一本のみ形成される.当初は細胞外に突出しているだけの静的な細胞小器官だと思われていたが,種々の研究成果により,細胞周期に依存して形成と短縮・消失を繰り返すダイナミックな性質をもつことが明らかとなってきた.一次繊毛は非常に短く表面積も小さいにもかかわらず,一次繊毛膜上には特異的に分布するGタンパク質共役型受容体,増殖因子受容体やイオンチャネルがあるため,選択的な生理活性物質や機械刺激を受容するシグナル受容器として働く.そのため,一次繊毛の形成異常や機能破綻は,小頭症,嚢胞腎,内臓逆位や多指症に代表される種々の臓器形成不全等を所見とする,先天性の遺伝子疾患「繊毛病」の発症につながる.繊毛病に対する有効な治療法は開発されていない.近年,一次繊毛の形成や機能の分子制御機構が解明されるにつれて,多種多様の分子が巧妙な機構によって一次繊毛の形成,シグナル伝達や短縮・消失のサイクルを制御することが明らかになり,一次繊毛の特殊性と重要性が理解されてきた.しかし,それら分子制御機構の全容解明には遠く及ばないのが現状である.繊毛病の病因解明のため,分子制御機構がさらに解明されることが必要であり,また将来,有効な治療法が薬理学研究を中心として開発されることが期待される.