著者
朱 祐珍 渥美 生弘 瀬尾 龍太郎 林 卓郎 水 大介 有吉 孝一 佐藤 愼一
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.7, pp.304-308, 2012-07-15 (Released:2012-09-17)
参考文献数
8
被引用文献数
1

アクリルアミドは様々な用途で使用されるが,長期の曝露によって末梢神経障害を主症状とする慢性中毒を起こすことが知られている。今回我々は,アクリルアミドによる急性中毒を来した症例を経験したので報告する。症例は23歳の男性。自室にて自殺目的にアクリルアミドを水に溶かした溶液を内服し,嘔吐を認めたため救急外来を受診した。来院時意識清明,血圧117/53mmHg,脈拍数101/分,SpO2 99%(室内空気下),呼吸数24/分,体温36.7℃であった。身体所見や血液検査では異常を認めず,輸液にて経過観察をしていたところ,内服8時間後より徐々に不穏状態となった。その後も幻視や幻聴などの中枢神経症状が持続するため緊急入院となった。内服9時間後より全身の硬直,著明な発汗が出現し,内服11時間後より乳酸値の上昇,血圧低下を認めた。輸液負荷を行ったが反応せず,カテコラミンを投与し気管挿管を行った。その後も循環動態は安定せず,肝機能障害,腎機能障害が出現し,血液透析を施行したが,血圧が保てず約1時間で中止した。乳酸値の上昇から腸管虚血を疑い造影CTを施行したところ,著明な腸管壁の浮腫と少量の腹水を認めた。腸管壊死の可能性はあるが,全身状態から外科的処置は困難と判断した。その後も乳酸値の上昇,血圧低下,全身痙攣が続き,アクリルアミド内服40時間後に永眠された。アクリルアミドによる慢性中毒や亜急性中毒の報告はあるが,今回の症例のように急性中毒による劇的な経過で死に至った例は少ない。内服後数時間は症状が出現せず重症化を予測しにくいが,その後劇的な経過で死に至る場合があるため,慎重な経過観察が必要と考えられた。
著者
古橋 眞人 永原 大五 百石 雅哉 大友 透 佐藤 愼一郎 西宮 孝敏 安藤 政克
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.209-214, 2000-03-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
9

症例は39歳男性,元相撲力士で推定体重200kg以上.呼吸困難,全身浮腫を主訴に当院救急外来を受診し,精査加療目的に入院となった.現症では,血圧112/56mmHg,脈拍96/分で整,心雑音聴取せず,全身浮腫を呈し,両下腿には腫脹とチアノーゼおよび潰瘍を認めた.検査では,著しい低O2・高CO2血症を認めたが,評価できる胸部X線像は得られず,心電図では低電位を呈した.経胸壁心エコーでは何も描出されなかったが,経食道心エコーで右房に血栓ともやもやエコーを認め,右心系の拡大と左心系への圧排を呈していたことより,下肢深部静脈血栓症に引き続いた肺血栓塞栓症と診断し,ヘパリンおよびtPA製剤を開始した.一時血液ガスおよび血行動態の改善を認めたが,2日後より瞳孔不同を呈し,その後徐々に血圧も低下し永眠となった.病理所見では,両側肺動脈,肺動脈幹,右室および右房内に連続する血栓を認めた.また,右室肥大および肺動脈粥状硬化症を認め,組織学的には肺内小動脈における中膜平滑筋の肥厚,陳旧性血栓およびその再疎通像を呈し,下肢静脈の遊離血栓による年余にわたる病態と考えられた.著しい肥満体型のために胸部X線像,経胸壁心エコーでは評価できず,肺シンチグラフィ,肺動脈造影やCT・MRI検査などの施行も不可能で,診断および治療効果判定に経食道心エコーが有用であった1例を経験したので報告する.