著者
塩川 徹也 佐藤 淳二 中地 義和 月村 辰雄 田村 毅 菅野 賢治 岩切 正一郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1994

古典修辞学がヨーロッパの知的世界においてはたしてきた役割については、近年わが国においても理解が深まりつつあるが、各種教育機関におけるその実際の教育法や、また修辞学と文学との関わりについては、欧米の研究者間でも未だよく認識されてはいないのが現状である。本研究は、その対象がフランスに限定されてはいるものの、とりわけ実際の学校教育で用いられた修辞学教科書の収集とその分析を通じて、各時代の修辞学教育が提示したディスクールの規範型(パラダイム)の抽出に務め、一定の成果を挙げた。その結果、各時代の修辞的な規範型と実際の作品との対比的な検討によって、フランス文学における文学的創造のひとつのメカニスムを明らかにし得たのである。とりわけ中世ラテン語詩論書にみられるエロ-ジュ・パラドクサルの典拠の探求、および、俗語フランス文学中に見られる各種の風刺的類似例との関係性についての考察、19世紀における中等教育機関での修辞学的教育の数次にわたる改革と複数の文芸思潮との関係を歴史的に考察することに成功するという業績を得ることができた。この結果については、最終報告書の刊行により広く共有できるものとして公開されている。修辞学という広い視点からも、プル-ストと絵画との関係を視覚の修辞学的観点から研究した吉川一義(研究補助者)の大部の論考が同報告書に公表されている。