著者
佐野 理
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

1.粒状体中に空洞のような不均一な領域があると,そこに流れが集中して力学的な平衡状態が壊れ,流動化する可能性がある.本年度は,これまでの2次元の空洞相互作用の実験を再現する数値シミュレーションを行い,空洞崩壊の進行速度や崩壊領域の成長について実験との定性的な一致を得た.現在,これをさらに3次元空洞に拡張している.これらの素過程の土砂崩れ発生機構の解明や地下水による汚染物質の異常拡散の予測,あるいは肝臓等における腫瘍近傍に発生する血管新生の問題への応用について国内外の学会で発表した.2.粒状体界面の粒子が流れによって運ばれ,巨視的な界面が変形する過程の長時間観測を行った.とくに,流れ場と界面形状の時間変化を定量的に明らかにし,乾燥地域の拡大や海浜浸食などに伴う環境予測への応用も含め,関連学会の原著論文2編および研究所報1編で公表した.3.渦輪は運動量やエネルギーを携えながら粒子のように個性を保ったまま移動する流体運動であるが,これが粒状体の表面に衝突すると,渦輪の崩壊や界面の変形を起こす.本年度は,渦輪の強さと界面切削パターンの関係を定量的に観測した.渦輪を崩壊させる技術として,あるいはまた海底堆積物の撹拌による生物活駐化技術などへの応用が期待される.4.粒状体薄層を鉛直に加振すると,条件によっては層全体に弾性体の撓み波や流体的なさざ波が観測される.これはエネルギー散逸の大きな系でありながら粒子の配置変化と排除体積効果によって長距離秩序の現れる特異な挙動であり,ミクロな粒子間相互作用とマクロな流動を結びつけるメソスコピック物理構築の鍵となる現象である.本年度はとくに波長や加振条件,粒子の材質などを含む普遍的な関係式を模索し関連学会で発表した.