- 著者
-
川野 健治
余語 琢磨
- 出版者
- 国立精神・神経センター
- 雑誌
- 萌芽研究
- 巻号頁・発行日
- 2001
本研究では、高齢者介護において社会資源を導入する際の、利用者と家族による情報編集の過程の検討を通して、生活者の側から介護保険制度を吟味する。栃木県の伝統的城下町をフィールドした聞き取り調査を行なってきた。最終年度にあたる本年は、補足情報の収集、および理論的欠損事例を加え、ナラティブ・アナリシスを用いて全体的な考察を行なった。後者については、主に介護サービス提供者からより多くの支援を必要としていると思われる介護家庭の情報収集を含む。結果として、利用者と介護者による情報編集は、以下の3つのフェイズによって理解することが適切と解釈された。すなわち、(1)社会資源との相互作用、(2)個人資源との相互作用、(3)介護への意味づけ、が相互に連関しながら情報編集が進行する。例えば介護初期には、高齢者の体調の変化に応じて、まず家庭における状態の見立てと家庭の諸事情(e.g.田植え、連休など)など個人資源が考慮される。次に、社会資源としての役場、ホームドクターとの接触が起こり、そこから介護保険情報が収集され、医療措置が施される。家族は医療施設と家庭との「対比」によって要介護者の新たな側面に気づき、リハビリの様子を「観察」することで適切な介護への考え方を得る。また、病院の利用制限情報が提供され、「家庭介護信念」、また受療と帰宅の『交換性概念』(治らないと家に帰れない)を生成する。これらの介護への意味づけがさらに、社会資源、個人資源との接触に影響する。この3つのフェイズを支える資源分布は同一行政区域内においても偏りがあり、利用可能なサービス内容を限定するだけでなく、生活者の利用を動機づけるものであると考察された。したがって、生活者の介護サービス利用状況を理解し、また必要に応じて促進するためには、地域特性を考慮しつつ3つのフェイズの連鎖から情報編集過程を検討することが有効であると示唆された。