- 著者
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呉 宣児
- 出版者
- 一般社団法人 日本発達心理学会
- 雑誌
- 発達心理学研究 (ISSN:09159029)
- 巻号頁・発行日
- vol.11, no.2, pp.132-145, 2000-10-20 (Released:2017-07-20)
- 被引用文献数
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本研究では, 日常生活の文脈で個々人が抱く原風景はどのようなものなのかを口述の調査方法で調ベ, 探っている。本研究は, 原風景を説明していくための概念の産出や概念間の関係を明らかにして構造化していく, 仮説理論生成型の研究であろ。調査対象者である語り手は, 韓国済州道で生まれ育った41歳の男性であり, 間き手は筆者である。主に語りの逐語録を用いて分析した結果, その叙述内容に基づいて3種類の語りを見出し, それぞれを風景としての語り, 出来事としての語り, 評値としての語りと命名し検討した。また, 叙述様式として使われる5つの語りタイプを見いだし, それらを風景回想タイプ, 行為叙述タイブ, 説明演説タイプ, 事実説明タイプ, 評価意味づけタイプに命名し検討した。さらに, これら語りの種類と語りタイプの間に一定の関係があることを見いだし, 原風景の構造化を行った。結果の考察から, 1) 日常生活の中で原風景は物語りとして現れること, 2) 原風景の内容は風景的・出来事的・評価的要素で構成されること, 3) 原風景を語る際の場面の状況や叙述内容によって, 叙述様式 (語りタイプ) が変わりうることを生成された仮説として提示した。