著者
呉 宣児
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.132-145, 2000-10-20 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
1

本研究では, 日常生活の文脈で個々人が抱く原風景はどのようなものなのかを口述の調査方法で調ベ, 探っている。本研究は, 原風景を説明していくための概念の産出や概念間の関係を明らかにして構造化していく, 仮説理論生成型の研究であろ。調査対象者である語り手は, 韓国済州道で生まれ育った41歳の男性であり, 間き手は筆者である。主に語りの逐語録を用いて分析した結果, その叙述内容に基づいて3種類の語りを見出し, それぞれを風景としての語り, 出来事としての語り, 評値としての語りと命名し検討した。また, 叙述様式として使われる5つの語りタイプを見いだし, それらを風景回想タイプ, 行為叙述タイブ, 説明演説タイプ, 事実説明タイプ, 評価意味づけタイプに命名し検討した。さらに, これら語りの種類と語りタイプの間に一定の関係があることを見いだし, 原風景の構造化を行った。結果の考察から, 1) 日常生活の中で原風景は物語りとして現れること, 2) 原風景の内容は風景的・出来事的・評価的要素で構成されること, 3) 原風景を語る際の場面の状況や叙述内容によって, 叙述様式 (語りタイプ) が変わりうることを生成された仮説として提示した。
著者
呉 宣児 大沼 久夫 徐 相文
出版者
共愛学園前橋国際大学
雑誌
共愛学園前橋国際大学論集 (ISSN:2187333X)
巻号頁・発行日
no.17, pp.71-90, 2017-03-31

植民地期(日帝強占期)に、日本人が韓国に渡って集住し、日本人町を形成していた。植民地解放(終戦)後、日本人は突然日本に戻ることになり、そこには韓国人が入り住むことによって、日本的な雰囲気は自然に色褪せたかわざと壊してきた経緯がある。しかし、近年韓国では「暗い歴史も歴史として直視する」という考え方を持ち、かつての日本人集住地区や日本的な建築物を修理・復元して観光や教育の素材として活用する動きが出てきた。代表的には、西海岸の群山市と東南部海岸の浦項市の九龍浦地域である。本研究ノートでは、1)慶尚北道の浦項市の九龍浦地域を取り上げ、フィールドワークによって見えてきた現況を整理し、2)かつての日本人集住地区・建築物の再整備について現地の行政と住民が考える意味や議論されている内容を考察することを目的とする。これらの作業は、かつての日本人居留地である九龍浦に住んでいた人々(日本人と韓国人)や現在そこに住んでいる人々にとっての原風景を検討していくための準備過程として意義がある。研究ノート
著者
呉 宣児 高木 光太郎 榊原 知美 余語 琢磨 伊藤 哲司 奥田 雄一郎 竹尾 和子 砂川 裕一 崔 順子 片 成男 姜 英敏 周 念麗 渡辺 忠温
出版者
共愛学園前橋国際大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

日本の大学と中国、韓国、ベトナムの大学がペアになり交流授業を行い、集団間の異文化理解が起こりやすい授業の方式や素材の検討を行った。授業の素材としては、映画、イラスト-によるストーリ、公的な場所での規範・ルールなどが有用であることを確認した。また異文化理解へのプロセスを検討する分析概念として 「歪んだ合わせ鏡」「対の構造」「対話の接続と遮断」「情動反応」などの用語が有効であることが示された。
著者
呉 宣児 竹尾 和子 片 成男 高橋 登 山本 登志哉 サトウ タツヤ
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.415-427, 2012

本稿では,日本・韓国・中国・ベトナムの子ども達のお金・お小遣いをめぐる生活世界を捉える。経済的な豊かさの異なる状況のなかでの.子ども達の消費生活の広がり,お金使用における善悪の判断・許容度の判断,お金をめぐる友だち関係や親子関係の認識などを明らかにし,子ども達の生活世界の豊かさと貧しさという視点から考察を行うことが本研究の目的である。4か国で,小学校5年生,中学校2年生,高校2年生を対象とする質問紙調査を行い,また家庭訪問による小・中・高校生にインタビュー調査も行った。分析の結果,国の一人当たりのGDPの順である日韓中越の順に子どもの消費の領域が広がっていること,友だち同士のおごり・貸し借りに関しては日本が最も否定的に捉える傾向があり,韓国やベトナムでは肯定的に捉える傾向があること,日本の子どもは自分が手にしたお小遣いは自分のお金であるという認識が強く,反対にベトナムは自分のお金も親のお金という認識が強いことが明らかになった。これらの結果の特徴をもとに,それぞれの社会における「個立型」,「共立型」という視点から生活世界の豊かさについて考察を行った。