著者
山ノ内 崇志 倉園 知広 黒沢 高秀 加藤 将
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1924, (Released:2020-05-15)
参考文献数
53

2011年 3月に発生した東北地方太平洋沖地震の津波被災地では新たに形成された湿地に希少な湿性植物の出現が見られたが、その後の復旧工事などで消滅した生育地も少なくない。特に多くの沈水植物がみられた宮城県野々島において小規模な湿地の沈水植物相を調査するとともに、地形や津波前後の土地利用を調査した。 2015年 8月には、沈水植物として沈水生維管束植物 4種、車軸藻類 1種を確認した。空中写真、衛星画像および都市計画図の判読から、この湿地は海岸浜堤の後背に位置し、少なくとも 1950年代から津波を受ける 2011年までの間は水田または休耕地であった。この湿地は 2016年までに復旧・復興事業にともなう埋立てにより消失した。災害復旧には迅速性が求められるため、災害後に出現した希少種の保全策を検討する時間を確保することは容易ではない。そのため攪乱後の希少種の出現傾向を予測し、災害に先だって情報提供や注意喚起を行うことが必要である。地形情報や土地履歴などの地理情報を活用した希少種の出現の予測は、災害やその後の復旧・復興事業に先だった情報提供・注意喚起の手段として検討の価値があると考えられる。
著者
倉園 知広 角野 康郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.141-151, 2012-08-28 (Released:2017-03-25)
参考文献数
22

モウコガマが日本にも分布することは既に指摘されていたが,その実態については情報がなかった.本稿では,今まで「モウコガマ」とされてきた兵庫県産植物の再検討を通じて,日本産モウコガマについて考察した.兵庫県小野市産「モウコガマ」1集団とヒメガマ16集団,最近,秋田県から報告されたモウコガマ1集団について5形質を比較した結果,兵庫県産「モウコガマ」はヒメガマの変異に含まれた.一方,秋田県産モウコガマは葉身の長さと幅で「モウコガマ」とヒメガマから明瞭に識別された.モウコガマとヒメガマの識別形質とされる雌花の小苞片の有無を確認した結果,秋田県産モウコガマの雌花に小苞片は無く,「モウコガマ」とヒメガマには小苞片があった.花粉サイズを比較した結果,秋田県産モウコガマの花粉は「モウコガマ」とヒメガマの花粉よりも有意に大きく,「モウコガマ」とヒメガマの花粉サイズには差がなかった.これらの観察結果より,兵庫県産「モウコガマ」はヒメガマの変異形であり,秋田県産モウコガマは真のモウコガマであると結論した.近年,モウコガマを外来植物とする文献があるが,本種は在来種であり,絶滅危惧種として検討すべきことを指摘した.
著者
倉園 知広 角野 康郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 : bunrui : 日本植物分類学会誌 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.141-151, 2012-08-28
参考文献数
22

モウコガマが日本にも分布することは既に指摘されていたが,その実態については情報がなかった.本稿では,今まで「モウコガマ」とされてきた兵庫県産植物の再検討を通じて,日本産モウコガマについて考察した.兵庫県小野市産「モウコガマ」1集団とヒメガマ16集団,最近,秋田県から報告されたモウコガマ1集団について5形質を比較した結果,兵庫県産「モウコガマ」はヒメガマの変異に含まれた.一方,秋田県産モウコガマは葉身の長さと幅で「モウコガマ」とヒメガマから明瞭に識別された.モウコガマとヒメガマの識別形質とされる雌花の小苞片の有無を確認した結果,秋田県産モウコガマの雌花に小苞片は無く,「モウコガマ」とヒメガマには小苞片があった.花粉サイズを比較した結果,秋田県産モウコガマの花粉は「モウコガマ」とヒメガマの花粉よりも有意に大きく,「モウコガマ」とヒメガマの花粉サイズには差がなかった.これらの観察結果より,兵庫県産「モウコガマ」はヒメガマの変異形であり,秋田県産モウコガマは真のモウコガマであると結論した.近年,モウコガマを外来植物とする文献があるが,本種は在来種であり,絶滅危惧種として検討すべきことを指摘した.