著者
倉部 慶太
出版者
The Linguistic Society of Japan
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.161, pp.119-137, 2022 (Released:2022-05-20)
参考文献数
51

鼻音と子音の連続(NC連続)は,分離可能性,音節化,分節音性などの観点から様々な構成を示しうる。東南アジアでは語頭のNC連続が語族を越えて広く観察されるが,従来の多くの研究ではその音韻構成が充分に検討されてこなかった。本稿では,ジンポー語(シナ・チベット語族:ミャンマー北部)に観察される語頭のNC連続を検討し,様々な音韻的・非音韻的現象をもとに,この言語のNC連続が異音節クラスターであることを示す。具体的には,話者の直感,聞こえ度,有声性,声調付与,形態構造,単音節標的型接辞,部分重複,並列複合語の語順,挿入型ルドリング,韻文の音節調整,歌詞とメロディーのアラインメントなど様々な現象において,語頭のNC連続が異音節クラスターとして振る舞うことを指摘する。明瞭な異音節クラスター型のNC連続を持つジンポー語から得られた議論は,異なるタイプのNC連続を持つほかの言語の分析にも示唆を与える。