著者
藤田 幸一
出版者
日本南アジア学会
雑誌
南アジア研究 (ISSN:09155643)
巻号頁・発行日
vol.2019, no.31, pp.6-46, 2021-03-31 (Released:2021-09-10)
参考文献数
20

順調な経済成長を遂げてきたバングラデシュでは、農村住民にとって有利な非農業就業機会が確実に増え、労働市場が逼迫し、実質賃金の高騰が農業にも及んでいる。こうした中、従来あまり目立たなかった土地貸借市場の拡大が起こっている。本稿は、ボグラ県とタンガイル県の2つの調査村の1992年と2009年の全世帯データに基づき、土地貸借市場の拡大を確認し、その実態を明らかにし、さらに拡大をもたらした要因分析を行う。土地貸借市場の拡大が、2つの村で異なる形で起こっているにもかかわらず、伝統的富農層の大規模直接経営からの撤退、土地なしや零細土地所有世帯による小作の増加など、共通する現象が確認された。土地貸借市場の拡大は、労働者の雇用経費の高騰により、伝統的富農経営が成り立たなくなりつつあること、ビジネス、給与所得職、海外出稼ぎ等の有利な非農業就業機会が拡大していること、農業機械化による賃耕市場の発展など機能的土地なし層の小作経営を可能にする条件が整ってきたことなどが、その背景要因として重要であること、などが明らかになった。
著者
藤田 幸一 今村 真央
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

大きく2つの成果が上がった。第1に、京都大学東南アジア地域研究研究所に「ゾミア研究会」を立ち上げ、2年の研究期間内に内外の研究者を招へいして計24回の研究会を開催し、研究ネットワークの構築を行った。「ゾミア研究会」は東南アジア学会の学会員などに広く知れ渡り、また海外にもよく知られる存在となり、今もなお他財源を利用して継続している。第2にまだ予備的段階にとどまっているが、中国、ミャンマー、インドの3つの異なる国家領域に分かれて住むカチン族の社会経済的現況、その形成に至った歴史的背景、今後の発展の展望等を、現地実態調査に基づき明らかにした。
著者
藤田 幸一
出版者
京都大学東南アジア地域研究研究所
雑誌
東南アジア研究 (ISSN:05638682)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.241-268, 2021-01-31 (Released:2021-01-29)
参考文献数
15

The development of the Para rubber sector in Myanmar was slow for a long time from the early 1960s, mainly due to policy failures under the “Burmese Way to Socialism.” However, with the rubber boom around 2005–12, the sector started developing rapidly, as in other Asian tropical countries. The development of the sector is expected to be an important base for economic development in Myanmar through industrialization. This paper, based on information and data collected in Mon State in 2013 and 2014, clarifies the current status (with historical background) of various actors—including rubber estates (both private and government), smallholders, traders/processors, and tire factories—and investigates major problems they face. The rapid expansion of rubber plantation by smallholders in Mon State is particularly noteworthy, based on the study of two villages. It is found that the smallholders’ major source of investment is remittances from migrants working in the rubber sector in Southern Thailand. The migrants’ work experiences in Thailand, which expose them to technology and knowledge about supporting institutions, are expected to offer good potential for the future development of Myanmar’s rubber sector.
著者
高田 峰夫 藤田 幸一 長田 紀之 Srawt Aree 竹口 美久 和田 理寛 山本 真弓 森本 泉 小島 敬裕
出版者
広島修道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

タイの南アジア系移民3集団(1.北タイ在住バングラデシュ系ムスリムの子孫、2.「ネパリ」、3.南アジア系子孫であるビルマ系ムスリム)の調査を行い、南アジアと東南アジアとのつながりを探った。1に関しては移動ルートと祖先の出身地等を明らかにすることができた。また、2については、内部のサブ・グループの存在やタイへの移入時期の違い等を明らかにした。3についてはミャンマーの政治的事情により十分に調査できなかった。また、ミャンマー人移民労働者の調査からは、大規模・継続的に国境地帯から離れたタイ内部へ出稼ぎに出ている実態が判明し、従来の国境地帯中心のミャンマー系移民労働者研究のバイアスが明らかになった。
著者
大野 昭彦 藤田 幸一 三重野 文晴
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

農家家計費調査(N=1100)および信用組合の財務調査(N=103)に基づいて、発展の程度に対応して貯蓄および借入動機が変化することを指摘している。特に貧困地域の信用組合の役割は、疾病治療を中心とする保険組合であり、生産向上を目的とする借入は限定的である。また、余裕金問題の発生も確認した。日本やタイの信用組合運動との比較もなされ、信用組合運動にも地域差があることが指摘されている。そして、その主要因として、地主の役割が挙げられている。またワークショップを開催して、中央銀行を含むラオスの信用組合担当者に研究成果を開示した。
著者
藤田 幸一 遠藤 環 岡本 郁子 中西 嘉宏 山田 美和
出版者
京都大学東南アジア研究所
雑誌
東南アジア研究 (ISSN:05638682)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.157-210, 2013-01-31

The Thai economy is supported by a large number of unskilled migrant workers from the neighbouringcountries, especially Myanmar, since the late 1980s. However, the Thai government's system of receivingmigrants has been largely defective, due to internal inconsistencies and conflicts among the differentagencies of the government. Based on recent household-level surveys on Myanmar migrants in Ranong,southern Thailand, we delineate their work and living conditions-how they work hard for wages lowerthan the minimum wage that leave them with no surplus for remitting to their home country yet a largeamount of debt, as well as the harassment and abuse they suffer in the hands of Thai government officials,etc. We also show the actual situation of Myanmar sex workers, including the serious problem of humantrafficking they face. By interviewing various government agencies (including the police, labour department,hospitals, etc.), business associations, and NGOs, we show how the "structure" in which the Myanmarmigrants are situated has emerged and is maintained.
著者
藤田 幸一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

1990年代以降、最近まで15~20年間のバングラデシュ農村経済の変容を、異なる地域の2つの農村の再調査によって明らかにした。変化を生み出した主な原動力は、管井戸普及による農業集約化、農村内および周辺地域における非農業部門(特に第3次産業)の発展と雇用吸収、ダッカなど都市への出稼ぎの増大、海外出稼ぎの増大などであった。こうした農村経済の発展に伴って所得分配は悪化した形跡があるが、貧困削減は着実に進み、最近の農村では労働力不足の兆候さえ見られるようになった。
著者
岩本 純明 大鎌 邦雄 坂下 明彦 松本 武祝 加瀬 和俊 坂根 嘉弘 藤田 幸一 生方 史数 仲地 宗俊 杉原 たまえ
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

共有資源の管理システムを、林野・漁業・水利に焦点を当てて比較制度論的に検討した。調査地は、海外 8 カ国、国内 12 カ所で行った。主な知見は以下の通りである。(1)共同体をベースにした共有資源管理制度は、市場経済の浸透のもとでもまだ広汎に残っている。(2)しかしながら、共同体的関係の弛緩とともに、従来は内部で吸収できていたコストが顕在化している。(3)資源管理に関わる技術革新も制度変容の重要な要因となっている。