- 著者
-
藤原 英司
- 出版者
- 独立行政法人農業環境技術研究所
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2004
核実験等由来の人工放射性核種のうち代表的なものとしてCs-137が挙げられる。日本におけるCs-137降下量は1990年代を通して低水準で推移したが、2000年代に入ると増大し、2002年には北日本や日本海側地域において顕著な降下が認められた。この現象は黄砂飛来と関係があるとみられているが、Cs-137を含む砂塵の起源は不明である。そこで地上気象観測データにもとづいて近年の砂塵発生範囲を推定したところ、2002年には中国北部の草原域において砂塵発生が顕著であったと示された。しかし当該地域について核実験や原子力関連施設の立地に関する情報が存在せず、Cs-137の放出源を特定できなかった。このため現地調査を実施し表土試料を採取してCs-137の分析をおこなった。その結果、草原表土からCs-137が検出され、その放射能濃度は6.5〜83.5mBq/gと高かった。しかし砂漠表土では不検出となり、畑地表土では不検出〜13.4mBq/gと低かった。Cs-137が検出された試料について、さらにSr-90も測定し、これら核種の放射能濃度比を求めたところ、表土のCs/Sr濃度比は草原で8.3±2.0と高く、畑地では3.7±0.8と低くなり、明瞭な傾向が認められた。一方、Cs-137およびSr-90の日本における降下量データから、近年の降下物のCs/Sr比は、Cs-137降下量の多い北日本や日本海側地域において高く、それ以外の地域で低いことが明らかになった。このことから飛来する砂塵のCs/Sr比は高いと認められ、その起源として大陸の草原が考えられた。これまで大陸の草原表土にはグローバルフォールアウトに由来するCs-137が保持されていたが、近年の砂漠化進行とともに砂塵が飛散しやすい状況になったとみられ、この草原におけるCs-137の再浮遊が日本でのCs-137降下量増大の原因として考えられた。