著者
内原 脩貴 多胡 憲治 多胡 めぐみ
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.153, no.4, pp.147-154, 2019 (Released:2019-04-11)
参考文献数
27
被引用文献数
1 2

BCR-ABLは,慢性骨髄性白血病(CML)や急性リンパ芽球性白血病(ALL)の原因遺伝子産物であり,転写因子STAT5やキナーゼAktの活性化を介して強力な形質転換能を示す.BCR-ABLを標的とした分子標的薬イマチニブの開発により,CMLやALLに対する治療効果は劇的に改善された.しかしながら,イマチニブの継続的な投与により,bcr-abl遺伝子にイマチニブ耐性を示す二次的な突然変異が生じることも報告されている.これまでに,イマチニブ耐性CMLやALLに対する第二世代のBCR-ABL阻害薬として,ニロチニブやダサチニブが開発されているが,BCR-ABLのATP結合領域に存在するT315I変異は,これらの第二世代のBCR-ABL阻害薬に対しても抵抗性を示すため,薬剤耐性を克服した新規の白血病治療薬の開発が望まれている.我々は,ヒノキ科ヌマスギ属の針葉樹であるラクウショウの球果から抽出されたアビエタン型ジテルペン化合物であるタキソジオンが,細胞内の活性酸素種(ROS)を産生することにより,BCR-ABL陽性CML患者由来K562細胞のアポトーシスを誘導することを見出した.タキソジオンは,ミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅲの活性を阻害することにより,ROSの産生を誘導した.また,タキソジオンは,ROSの産生を介して,BCR-ABLやその下流シグナル分子であるSTAT5やAktをミトコンドリアに局在させ,これらの分子の活性を阻害するというユニークな機序により,BCR-ABL陽性細胞のアポトーシスを誘導することを新たに見出した.さらに,タキソジオンは,T315I変異を有するBCR-ABL発現細胞に対しても強力な抗腫瘍活性を示すことが明らかになった.我々の研究成果は,タキソジオンがBCR-ABL阻害薬に耐性を示すCML,ALLの新たな治療薬として応用できる可能性を示すと共に,BCR-ABL以外の原因遺伝子に起因する様々な腫瘍性疾患に対する治療薬開発においても重要な手掛かりとなると期待される.
著者
内原 脩貴
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.312_1, 2021 (Released:2021-04-01)
参考文献数
2

博士課程在学中は長井記念薬学研究奨励支援事業よりご支援いただき,心より感謝している.私が研究者,なかでもアカデミアを志し,博士課程への進学を決意したのは修士課程の頃だった.当時の私はうつ病に関する研究に従事しており,進学後は少し異なる領域に挑戦したいと考えていた.このような背景から,研究時間を十分に確保することは非常に重要であり,生活費等を稼ぐために時間を使うことを避けたいと考えていた時に出会ったのが貴事業である.幸運なことに採択いただき,慶應義塾大学薬学部の多胡めぐみ准教授(現・同大学教授)指導のもと,がんの発症機序や薬理学的研究に存分に取り組むことができた.博士課程における成果を論文としてまとめることができたのは,ひとえに貴事業のご支援の賜物だと思っている.学位取得後は,がん治療時に細胞で生じる現象を詳細に理解するための研究を行いたいと考えた.現在は,群馬大学未来先端研究機構の柴田淳史准教授のもと,細胞レベルでDNA修復機構やDNA損傷に関連する免疫応答制御についての研究に従事している.これまでの経験から私が重要だと考えることは,時間への配慮と環境変化への適応である.その点を意識しつつ,今後も細胞レベルでの疾患や治療の根源的な理解を通じて,究極の生命システムである人間にとって最適な薬の創生に貢献できるよう精進したい.