著者
内山 千鶴子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.1-10, 2020-03-31 (Released:2021-04-01)
参考文献数
22

書字と図形の模写困難が主訴の初診時 5 歳 4 ヵ月男児の視覚認知と書字の関連を報告した。本児は顕著な知的,言語発達の遅れはないが,フロスティッグ視知覚発達検査 (DTVP) の知覚指数は 70,特に空間関係の視知覚年齢は 3 歳 8 ヵ月で,視覚認知が問題だった。本児の視覚認知能力の問題を明確にするため,アイ・トラッカーで視線の注視点を計測した。本児と同年齢の典型発達児 10 名に異同弁別課題を実施した。本児は典型発達児と異なり,図形の全体注視が少なく,注視点の位置も限定されていた。この特徴を改善するため,画面全体にランダムに示された図形や数字を指示通りに探すなど,広範囲から目的とする刺激を探索する課題を行った。6 歳 3 ヵ月時に DTVP は知覚指数が 95,空間関係の視知覚年齢が 5 歳 3 ヵ月に改善し,図形と文字の模写が可能となった。本児の模写困難は視覚的な探索行動に問題があり,図形の正確な形態把握が困難であったためと考えられた。