著者
内田 毅
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

鉄はすべての生物において必須の元素である。本研究課題では、病原菌の鉄の獲得を阻害することで、新規な抗菌剤の開発につながることを期待する。病原菌の主な鉄源はヘムであり、ヘムを取り込み、分解し、鉄を取り出す。そこで、これらに関するタンパク質の機能について検討した。ゲノム配列からコレラ菌のヘム獲得に関するタンパク質 (Hut:Heme utilization) と推定されていたが、実験的証拠はなかった。そこで、Hutの一つであるHutBの発現系を構築し、発現・精製した。HutBの全長タンパク質は多量体を形成したが、N末端の22残基を削除すると単量体として精製されたことから、N末端はシグナル配列であり、ペリプラズムへの移行シグナルとして、使用されていることが示唆された。また、吸収スペクトルと変異体の解析から、TyrとHisがヘムの配位に関係していることがわかった。これは、緑膿菌のヘム輸送タンパク質であるHasAと同じ構造であることから、HutBがペリプラズムでヘムの輸送に関連していることがわかった。次に、ヘム分解酵素であるHutZの酵素機構について、検討した。HutZのヘム分解機構はヒトのヘム分解酵素であるHOと同一であることは初年度に明らかにしていたが、ヘムの配位子であるHis170とその近傍にあるAsp132との水素結合がHutZに特有であることから、この役割について検討した。この水素結合により、His170は負電荷を帯びるため、ヘムの分解過程には不利に働くと考えられたが、この水素結合はヘムの取り込みに関与しており、切断するとヘム分解活性が消失することがわかった。His170とAsp132は酸化酵素と異なり、異なるサブユニットに存在しており、サブユニット間の相互作用を変化させることにより、水素結合の強度を変化させ、酵素活性を調節するという新規なヘム分解機構を見出した。
著者
内田 毅
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、シトクロムcという原核生物から真核生物までほぼすべての生物が有するタンパク質の成熟化を行うタンパク質群であるCcm(Cytochrome c maturation)の作用機構を明らかにすることを目的としている。シトクロムcはミトコンドリアの呼吸鎖における電子伝達タンパク質と機能する他、細胞死であるアポトーシスの引き金となるタンパク質であることから、生成及びその品質管理を理解することは重要であると共に、CcmはC型ヘムを有するタンパク質を大腸菌や無細胞系で発現させる時には必須である、その効率の点で未解明な部分が多く、Ccmの理解はタンパク質工学的にも重要な課題の一つである。本研究の共同研究者であるOxford大学のFerguson教授らの研究により、8個存在するCcmタンパク質の中でもCcmEがヘムをシトクロムcに引き渡し、チオエーテル結合の形成という翻訳後修飾を行うことが生化学的に報告されていた。我々はこの機構を詳細に検討することを試みた。Ferguson教授らは細菌(Hydrogenobacter thermophilus)由来のシトクロムcを用いていたが、今回、ホ乳類であるウマ、及び酵母であるSaccharomyces cerevisiae由来のシトクロムcを用い、翻訳後修飾過程を検討したが、翻訳後修飾は形成されなかった。これは、CcmEによるシトクロムcの選択性を表している。CcmEとこれらのシトクロムcの相互作用を表面プラズモン共鳴装置により解析したが、全く相互作用しなかった。以上のことから、CcmEはシトクロムcのある特定の部位を認識し、ヘムの受け渡しを行っていることがわかった。今後はH. thermophilus由来のシトクロムcの認識部位を明らかにすることを試みる。それにより、CcmEを利用したより広汎なC型ヘムをもつタンパク質の翻訳後修飾につながり、外来タンパク質の発現における有用な情報が得られると期待される。
著者
内田 毅
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は病原菌の一つであるコレラ菌が増殖に必要とする鉄を獲得する機構を明らかにすることを目的とした研究である。主要な鉄源は血液中のヘモグロビンに存在するヘムがであることから、ヘモグロビンからのヘムを獲得とそれを分解し、鉄を取り出す一連のタンパク質を網羅的に解析した。その結果、VCA0907がヘム分解酵素であり、その酵素活性は活性中心に存在する水素結合の強度により、制御されることがわかった。また、基質であるヘムはVCA0908から受け取ることがわかった。ヘムを分解し、鉄を取り出す過程は病原菌の増殖に必須の過程であることから、新たな病原菌増殖剤の開発につながら可能性を見いだすことができた。
著者
内田 毅彦 小林 宏彰 石倉 大樹 虞都 韻 村上 哲朗 中野 壮陛
出版者
Society for Regulatory Science of Medical Products
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.211-217, 2015

世界の医療機器マーケットは拡大し続けているが,日本の医療機器産業はあまり活発ではなく,毎年7000億円もの貿易赤字を作り出している.しかしながら,技術力があり,モノづくりが匠で,医療水準が高い日本は本来であれば世界の医療機器産業を牽引していても不思議ではない.日本の医療機器産業が世界をリードするようになるために,幾つかのポイントが考えられる.米国のオバマケア,費用対効果,リバースイノベーション,国際共同治験,デジタルヘルスといったキーワードを踏まえた上で,日本のベンチャー企業が医療イノベーションを作り出そうとする際に,これからはよりグローバルな視点で事業化を行っていく必要があると考える.