- 著者
-
冨山 誠彦
- 出版者
- 弘前大学
- 雑誌
- 奨励研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 1999
筋萎縮性側索硬化症(ALS)における運動ニューロンの選択的脆弱性とグルタミン酸による興奮毒性の関係を,脊髄神経細胞におけるグルタミン酸受容体発現の違いの観点から検討した.グルタミン酸受容体は代謝型受容体とイオンチャネル型受容体に大別されるが,代謝型受容体の1-5型(mGluR1-5)mRNAの発現ををヒト正常脊髄で,イオンチャネル型受容体のうちAMPA型受容体サブユニット(GluR1-4)mRNAの発現を正常者とALS患者の脊髄で,in situ hybridization法を用いて検討した.代謝型受容体の正常脊髄での検討では,mGluR1とmGluR5 mRNAの発現が脊髄後角に豊富で,運動ニューロンでは低いことが示された.mGluR1とmGluR5に選択性のある作動薬は脊髄運動ニューロンに対し保護作用があることが示されている.従って,運動ニューロンにおけるmGluR1とmGluR5 mRNAの発現が相対的に低いことは,運動ニューロンは他の脊髄神経細胞に比べmGluR1とmGluR5を介した神経保護作用が少ない可能性を示しており,運動ニューロンの選択的脆弱性と関係しているかもしれない.一方,正常者とALS患者の脊髄でAMPA受容体サブユニットmRNAの発現をflip型,flop型を別個に検討した.Flip型は遅い再分極を,flop型は速い再分極を有するAMPA受容体を形成することが知られている.Flip型は後角に優位に分布し,flop型は灰白質にびまん性に分布していた.ALSの前角では正常者に比べ,flop型のmRNAの減少が著明に認められ,Flip型のmRNAは保たれていた.この結果はALSの前角においてはFlip型AMPA受容体が相対的に増加している可能性を示し,ALSの運動ニューロンは正常者の運動ニューロンに比べ再分極の遅いAMPA受容体をより多く有していることを示唆している.再分極の遅いAMPA受容体は作動薬に対してより強い毒性を介するとされている.従って,今回の研究の結果は,AMPA受容体刺激に対して,ALSの運動ニューロンは正常者の運動ニューロンよりも脆弱であることを示している.