著者
別部 智司 佐藤 恭道 森田 武 戸出 一郎 雨宮 義弘
出版者
日本歯科医史学会
雑誌
日本歯科医史学会会誌 (ISSN:02872919)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.241-245, 1995-07-25

今回,報告するBuschの風刺画は,19世紀中期における歯科医師の抜歯に関するものである.当時ドイツは歯科医療が大道香具師から歯科医師の手に移行しつつある時代であったDer hohle Zahnは1860年に漫画新聞Munchener BilderbogenのNr.330, 38版に掲載された連載こま割り漫画で,その後1900年に漫画単行本の一部としてBraun&Schneider社から出版された.この風刺画は,歯痛に苦しむ平凡な農夫と尊大な歯科医師の姿をさり気なく対比させることによって,見るものに滑稽さと一抹の哀愁を感じさせるものである.小市民的な自己満足や偽善をあばき,笑いものにすることによって何かを訴え続けたBuschの精神が,この風刺画にもよく表れている.本画は当時の歯科医療に関する世相を知る上で一つの資料になるものと考えられた.
著者
佐藤 恭道 大熊 毅 別部 智司 戸出 一郎 雨宮 義弘
出版者
日本歯科医史学会
雑誌
日本歯科医史学会会誌 (ISSN:02872919)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.87-92, 1999-09-30

ボーイスカウト運動の創設者, R.S.S. Baden-Powell (以下,B-P)が著した"Scouting for Boys"の初版(1908年・改訂成本版)の「歯」に係わる項目について考察した.内容は,ユーモアを交えて書かれた,歯が悪いために採用されなかった志願兵の話,具体的な歯磨きの習慣について,詳細な図で説明された房楊枝に似た小枝を利用した歯ブラシ,ボーア戦争当時,歯が悪いために本国に送還された兵士の話,また歯ブラシに対するカウボーイやアフリカに住む白人の話などが認められた.これらの記述はB-Pのインド,アフリカにおける軍隊生活における経験のみならず,19世紀後半から20世紀にかけて,歯科医学の進歩に裏打ちされたものであると考えられた.また20世紀初頭における少年向け書籍の中で歯口清掃の啓蒙と野外で応用できる歯ブラシの作成法は特筆すべきものであり,当時の口腔衛生に関する世相を知る上で一つの資料になるものと考えられた.
著者
佐藤 恭道 大熊 毅 別部 智司 戸出 一郎 雨宮 義弘
出版者
日本歯科医史学会
雑誌
日本歯科医史学会会誌 (ISSN:02872919)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.61-64, 1998-04-20

7世紀中ごろ唐の孫思〓によって編纂された『備急千金要方』(以下「千金方」)における口臭治療について検索した.処方は33方と比較的多く記載されている.この中には口臭を消すだけでなく,芳香にする処方や,衣服の臭いや体臭を消す処方まで記載されている。構成生薬は香料や芳香性の強い健胃薬など多岐にわたっている.これらは概ね陶弘景の「集注本草」に基づいているが,後代の「新修本草」や「開宝本草」「証類本草」から記載されているものも認められた.口臭除去は古代から相変わらず香料に依存しているところが大きい.社会環境の変化とは無関係に古代から口臭が人々の大きな悩みであったにもかかわらず根本的な治療法がないまま,それぞれの時代で主に香料のマスキング効果に頼って来たように感じられた.しかし「千金方」における口臭症治療は,多くの処方を記載し,後代の「外台秘要方」「太平聖恵方」などにも影響を与えたものと考えられた.