著者
前島 正義 小鹿 一
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

マラリアは、マラリア病原虫プラスモディウム属がハマダラカを媒体として伝染し、ヒトの肝細胞・赤血球に寄生することによる疾患である。本研究は、マラリア原虫がもつH^+輸送性ピロホスファーターゼ(H^+-PPase)に焦点をあて、この酵素に対する特異的阻害剤の探索を通して、抗マラリア特効薬を見出し開発することを目的とした。1.阻害剤に関する研究成果(新規阻害剤の発見)沖縄の海洋に生息する生物のうち,軟サンゴから得られた成分がもっとも強い阻害活性示した。その成分の化学構造を決定したところ分岐したアシル基をもつアシルスペルミジン類縁化合物であることが判明した。基質加水分解・プロトン輸送活性を強く阻害した(50%阻害濃度1μM)。さらに生きた植物細胞においてもH^+-PPaseを阻害し,その生理機能を強く抑制することが証明された。2.H+-PPaseに闘する研究成果・新知見(1)植物H^+-PPaseの遺伝子破壊株の解析により遺伝子欠損は生育の著しい抑制をもたらすこと,すなわち本酵素が植物体の正常な生育に不可欠であることを明らかにした。(2)ヤエナリH^+-PPaseの構造・機能協関の解析により,少なくとも2つの細胞質側親水性ループが基質結合・触媒部位を形成し,その中の保存性の高いアミノ酸残基が基質加水分解を司っていることを明らかにした。(3)変異導入とそれに引き続く機能検定のやりやすい大腸菌発現系の確立を目的に,放線菌H^+-PPaseを対象に解析を進めた。実験系の確立に成功し,放線菌H^+-PPaseの固有の性質を明らかにした。(4)H^+-PPase機能の直接測定のためのパッチクランプ法を世界に先駆けて開発し,H^+-PPaseの特質,分子活性をもっとも精度の高い方法で明らかにした。
著者
前島 正義
出版者
名古屋大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010

気孔開閉調節に関わるタンパク質PCaP1およびCO_2透過性アクアポリンPIP1に焦点を当て、生理機能の作動機構を明らかにし、高濃度CO_2下での両分子のCO_2供給システムにおける役割とそれに関わる量的・機能的調節を解明する。新規のCa結合タンパク質であるPCaP1は細胞膜に局在し、情報伝達にかかわるカルモジュリンとホスファチジルイノシトールリン酸(PtdInsPs)と結合する。PCaP1は孔辺細胞にも発現し、その遺伝子欠失株の葉では気孔の閉口ができないという表現型を観察してきた。本年度、PCaP1が孔辺細胞に発現していることを確認し、PCaP1のタンパク質化学的な特性として、CDスペクトル解析により、Ca結合による構造変化、ITC法によるCa結合のキネティクスを明らかにすることができた。なお、気孔以外での役割の一つとして、PCaP1は病理応答にも関わっていることを明らかにすることができた。さらに、PCaP1のT-DNA挿入遺伝子破壊株では、暗所での気孔閉口が不完全となること、野生株と比べて、暗所下および高濃度CO_2条件での生育が良いことを見出した。これらの結果は、生育環境が悪いときPCaP1は生育を抑制するブレーキ役を果たしている可能性を示唆している。多様なアクアポリン分子種の中でも細胞膜局在性のPIP1は複数の植物でCO_2透過性が認められており、申請者らはPIP1の量の減少がCO_2固定能の低下をもたらすことを見出した。高濃度CO_2に対するPIP1の応答を解析し、組織内CO_2供給システムの解明とモデルの提案を目指し、CO_2濃度の影響が高温環境で変化するか否かも解析の準備を進めた
著者
吉田 久美 前島 正義 近藤 忠雄
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

花色発現には種々さまざまな液胞膜輸送が重要な役割を果たしている。そこで、この観点から、花色の解明を目指した。1)アサガオの開花に伴う花色変化の機構と液胞膜輸送開花時に液胞pHが上昇するのは、表層の着色細胞だけであることから、花弁の短時間の酵素処理により着色プロトプラストだけを調製し、これから、着色細胞だけの液胞膜を単離した。これを用いて、pH制御に関わると推測される輸送タンパク質の解析を行った。開花に向けてV-ATPse、V-PPaseの活性が協奏的に上昇した。ナトリウムープロトン交換輸送体(NHX1)は、開花最終ステージで劇的に発現量が上昇し、活性が上がった。同時に、PM-ATPaseの発現量と活性も上昇することがわかった。以上より、これらプロトンポンプ類およびNHX1の働きが、花色の青色化(即ち液胞pH上昇)をもたらすことを明らかにした。さらに、開花にともないアサガオの花弁の表層細胞の体積は数倍に増加し、この現象と花色の青色化、およびK^+量の増加同調していることがわかった。即ち、アサガオ開花時の液胞膜上のプロトンポンプ、NHX1および細胞膜上のプロトンポンプの発現量の増加と活性上昇は、液胞内へK^+を輸送して細胞を伸長生長させるために必須の装置ではないかと考えられる。2)その他の花の花色発現機構アジサイ、ファセリア、チューリップなどの液胞内成分を明らかにし、青色発色機構の化学的な解明を行った。
著者
前島 正義 中西 洋一
出版者
名古屋大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

本研究は,新規プロトンポンプとしての液胞型H^+-ピロホスファターゼ(H^+-PPase)に焦点をあて,その分子構造と酵素機能の作動機構を解明し,分子構築と反応機能に関する明確なモデルを提案すること,ならびにH^+-PPaseの細胞生物学的機能解明を目的とした。この目的のために種々の先端的解析手法を用いた。一次構造上の特定アミノ酸残基の機能上の役割を明らかにするために、分子生物学的手法により特定部位に変異を導入し,基質加水分解,活性発現におけるK^+要求性,基質分解とH^+輸送との共役反応に対する影響を検討し,精密な膜内配向構造を明らかにし,かつ基質分解に関与するアミノ酸残基を特定した。これらの結果は,膜トポロジーモデルとして論文発表し,多様な生物のH^+-PPaseを理解する基本構造として認知された。本研究ではH^+-PPaseの高次構造を直接観察する結晶解析を推進してきた。現時点では,まだ十分なサイズの結晶を得ることに成功していない。しかし,結晶形成に最適な,活性型酵素のみを認識する抗体断片の調製に成功し,これを用いて,高純度の活性型^+-PPaseを大量精製するステップまで到達した。現在,これを試料として結晶形成の条件検討を進めている。さらに,H^+-PPaseのプロトン輸送能を直接測定するため,酵母へのH^+-PPase遺伝子導入,酵母巨大化,巨大液胞を用いたH^+-PPase機能のパッチクランプによる測定,という実験システムを確立した。また,H^+-PPase遺伝子の欠失株を取得し,詳細に分析をしたところ,変異株は小さいのみならず,液胞膜H^+-ATPaseが活性化されていることも見出した。これはH^+-PPase欠失を補完する植物のしなやかな応答であると推定される。
著者
前島 正義 中西 洋一
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

二年間での本研究プロジェクトは,液胞膜のイオン輸送システムに焦点を充て,カチオン/H+交換輸送体,亜鉛輸送体,プロトンポンプを具体的な研究対象とし,次の成果を得た。(1)液胞膜カチオン(Ca^<2+>)/H^+交換輸送体(CAX1a):イネには5種のアイソフォームが存在し,一次構造,金属イオン選択性,発現細胞において明確な特徴をもつことを明らかにした。その中でもCAX1aは液胞膜に局在し,どの器官においても発現が観察されるが,とくにカルシウムが集積し高濃度になる細胞での遺伝子発現が顕著であった。したがって,液胞へのCa^<2+>の備蓄という役割に加えて,過剰Ca^<2+>を液胞に排除する機能をもつと推定した。また,システインスキャニング法によりCAX1aの膜内分子構造を明らかにし,部位特異的変異導入法によりイオン選択性に関わるアミノ酸を同定し,分子モデルを提案し,世界的に認められるに至った。(2)液胞膜亜鉛輸送体(MTP1):植物液胞膜の亜鉛能動輸送体としてMTP1分子を同定した。MTP1遺伝子欠失株は,高濃度(0.2mM)の亜鉛に対して感受性となり,根の伸長阻害,葉肉細胞の壊死など著しい障害を受けることを明らかにし,亜鉛を液胞へプールする役割と共に高濃度亜鉛障害を回避する役割を担っていると判断した。MTP1は液胞膜でのH^+勾配を利用するZn^<2+>/H^+交換輸送体であることを生化学的手法で明らかにし,さらに輸送機能に関わるアミノ酸残基も特定した。(3)液胞膜プロトンポンプ(H^+-PPase):液胞膜H^+-ピロホスファターゼは液胞の酸性pHを維持し,液胞膜プロトン勾配を形成する酵素である。その遺伝子欠失株が,生育不良を生ずることを明らかにし,正常な植物の成長に不可欠であることを明らかにした。その分子構造,膜内配向性を解明して分子モデルを提案し,世界的に受け入れられるに至った。