著者
前畑 明美
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.344-359, 2011 (Released:2018-01-23)
参考文献数
67
被引用文献数
2

In Japan, more than one hundred islands have been connected to the mainland by bridges since the period of high economic growth beginning in the late 1950s. This has been aimed at bringing the economic levels of the islands up to that of the mainland. But, although reliable transportation routes to the mainland have been secured, a diversified life space has yet to come into existence on the islands. Indeed, the functioning of the communities on the islands has weakened.The objective of this paper is to understand the present status of the social and functional decline on these bridged islands. Here our example is Kouri-jima in Okinawa, where a fixed link to the mainland was completed in 2005. We consider the influences of the sea bridge from the perspective of the social experiences of the inhabitants.Analysis reveals that the fixed link has certainly brought some merits to the island, in terms of saving time, labor, and transportation costs, as well as the reliability of the route. In fact, the new route has brought convenience and flexibility to some of the island’s inhabitants. On the whole, however, these effects have been restricted to a narrow range of the island’s livelihood. In addition, the effects of the fixed link on transportation have brought disadvantages to many aspects of everyday life, causing the inhabitants mental, physical, and economic burdens at the levels of the individual, the family, and the community. As a result, close social connections between the inhabitants, on which the traditional community was based, have weakened considerably, bringing changes to the “island lifestyle” that depended on the sea that surrounded it.The influences of the fixed link have resulted from essential differences between land transportation and marine transportation. Three factors have compounded the negative influence of the fixed link: first, the loss of the functions of marine transportation, which had complemented and maintained the restrictive and cooperative characteristics of the community; second, the independence and reliability of land transportation; and third, the increase in strong influences from the mainland. The results of this study suggest that characteristics of a “non-island community” have emerged here, with the new land transportation route and its emphasis on convenience causing an imbalance in the transportation system and a disruption of the cooperative and symbiotic nature of the community.
著者
前畑 明美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.184, 2005

1.研究目的 日本は、周囲を海洋に囲まれた世界有数の島嶼国である。その広大な本土とは対照的に、小島嶼では第二次世界大戦以降、本土との隔絶から派生する「後進性」の改善が要請され、国による「離島」振興が推進されてきた。特に1960年代からの「架橋時代」、島々は本土からの莫大な投資により近代化・資本主義化を進め、急速にその孤立性を喪失したといわれる。しかし現在も、それら多くの島嶼では後進性からの脱却は果たされていない。人口減少と高齢化、地場産業の衰退、共同体の消滅によって社会的存続の危機にある。今や日本の島々は、縁辺地域として固定化され、最も生活空間の様相が変質し地域社会の衰退が顕著な地域となってきている。本報告では、沖縄の浜比嘉島を事例とし、"架橋化"という島の大近代化事業を通した「島社会」の変容とそのしくみを、"島嶼性"を考慮しながら総合的に検討してみたい。2.島嶼の架橋化 島嶼地域の架橋化は、事実上、海上交通から常時陸上交通システムへの移行を意味する。それは島嶼の特性である海による本土からの隔絶性を除去し、自然の制約を越えた人と物の自由な往来を可能とする。これまで「離島」振興においては、この隔絶性の解消こそが島の抱える社会・経済問題を解決すると考えられてきた。広域化・大規模化・高速化へと進む現代社会にあり、生活や生産・流通にもたらす橋のプラス効果は絶大、かつ人口減少を抑制するとみなされている。いわば後進性脱却への最終手段である架橋化は今日まで諸島嶼で進められ、現在120橋を数える。3.対象地と方法 浜比嘉島は、沖縄本島中部東海岸の太平洋上に浮かぶ、面積が約2㎢の島である。農業に加え、沖縄屈指の広大なイノー(サンゴ礁の浅い礁池)を背景に漁業を基幹産業としている。琉球開闢の神が渡来した島として知られる浜比嘉島もまた、戦後に人口が減少の一途をたどり(1997年の架橋の前には、40年間に国勢調査人口は1372人から421人へと約70%減少)、過疎が進行していた。 用いるデータは、島での面接による聞き取り・参与観察に拠るもの、そして各種の統計である。これらを基に、島の内情についての価値判断に重点をおき、架橋化に伴う生活の質的変化をみていく。その際、様々な要素から成る「島社会」を捉えるには多面的な考察が必要となる。本研究では、人口・産業・共同体の三つの側面から変容の全体像にせまり、それをふまえそのしくみについて明らかにする。4.結果の概要(1)架橋後の島では、交流人口が増加したにもかかわらず、人口再生産はなお縮小し、引き続き人口の減少傾向がみられる。(2)産業も、その再編過程においてモズク養殖への特化に至り、全体として縮小・不安定化している。(3)共同体は内部の個別化・孤立化を受けて急速に弱体化し、解体へと向かっている。(4)日々の生活や産業、共同体の複合体として成立する「島社会」は、存立基盤そのものを喪失しつつある。その結果、本島への依存性が強まる中、受動的変化を遂げながら「島社会」は著しく衰退してきている。しかしこうした島の動静は、島嶼の人々の人間関係や人と島との関係における現代社会特有の変容ともまた別言される。(5)近年の島の変容は、架橋化のもたらした輸送や心理の効果が、海に基づく「人の繋がり」や「多様な暮らし」を包括していた伝統的「島社会」に対し限定的に、同時にマイナスとしても全般的に働いた帰結である。先行研究では人口面での架橋効果が示されているが(宮内・下里,2003)、島の統計人口を扱う際の問題、さらに「島社会」全体のプラス面を上回るマイナス面の影響にも留意していく必要があると考える。島嶼地域の架橋化は、確かに海上交通にはない利便性を島にもたらす。しかし事例を通しては、島独自の社会生活の向上、および社会的存続という点では、その効果が島嶼の特性に十分に反映されず、一定以上の効果を生み出すのは難しいといえる。