- 著者
-
加藤 國安
- 出版者
- 名古屋大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2009
子規文庫の漢籍や自編漢詩集の調査から、子規が生涯を通して深く漢文と関わり、その豊富な漢詩理解から自作の漢詩が創作され、また近代俳句が醸成されたことが明確となった。また『中等教科漢文読本』を中心に調査した結果、明清の散文を入り口とするという基本的な方針のもとに編集されていることが分かった。それは齋藤拙堂-三島中洲-簡野道明という、江戸後期から明治期へという一連の人脈を通して踏襲されていること。また時代が明治に変わっても、高い学識でもって古今の漢文を厳選し、これにより近代的な国民教育を実践し、すぐれた人材の育成に資せんとする顕著な意図があったこと等を論証した。以上を総合して、明治の社会が観念的な近代西洋文学の直輸入に覆い尽くされたわけではなく、長年にわたり培ってきた豊富な漢文力の土壌の上に、東洋の豊かな人間観や調和的な自然観と親密な関係性を保ちながら、三千年の言語的文化遺産に深く.がっていたこと。そしてそこから生まれてきた東西文化の高度な融合文芸や、国際的な運用にかなう道義・見識の形成に大きく寄与したこと、またそれゆえに文化的様性のもつ資源力のきわめて重要なことについて述べた。