著者
高野 仁孝 小栗 幸男 加藤 寿郎
出版者
日本農薬学会
雑誌
日本農薬学会誌 (ISSN:03851559)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.575-582, 1983-11-20

S-3308の抗菌作用機作について, トウモロコシ裸黒穂病菌(Ustilago maydis)を用いて検討した.本菌を液体培地で振とう培養すると小生子の状態で増殖するが, S-3308(2ppm)含有培地で培養すると小生子数および菌体乾重の増加は強く抑制され, 分岐やくびれなどの特有の形態変化が認められた.これらの形態異常は, 本菌にトリアリモールを処理したときのものと酷似していた.ところで本剤は, タンパク質および核酸の生合成にはほとんど影響を与えなかったが, 100ppm処理によって呼吸阻害を引き起こした.しかし本剤の抗菌活性は, 呼吸阻害が認められない低濃度区においても認められたことから, 呼吸阻害作用のみで本剤の抗菌性を説明することは困難と考えられた.一方本剤は, 2ppmで本菌のエルゴステロール生合成を強く阻害した.すなわち, 本剤処理によってエルゴステロールの相対量が低下し, その前駆体で14位にメチル基を有する24-メチレンジヒドロラノステロール, 14α-メチル-&lrtri;^<8, 24(28)>-エルゴスタジェノールおよびオブツシホリオールの蓄積が認められた.また, ^<14>C-アセテートの脂質画分への取込み実験においても, 同様の結果が得られたことから, 本剤の抗菌活性は, エルゴステロール生合成系における14位の脱メチル化反応の阻害に起因するものと考えられた.
著者
加藤 寿郎 山口 昭
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.117-123, 1971-03-30

オオムギ斑葉モザイクウイルス(BSMV)に感染したオオムギ(品種・横綱)の粗汁液(15,000×g, 30分上清)をポリアクリルアミドゲルを支持体とする電気泳動にかけると, 健全対照には見られない2群のバンド(SA 1, SA 2)が得られた。これらのバンドに含まれる物質は, 105,000×gの遠心によっても沈でんしない。また, これらの物質は, 葉緑体中のfraction Iたんぱくよりも易動度が小さく, SA 1, SA 2ともBSMV抗血清と反応する。BSMVたんぱくの電気泳動によって, SA 1およびSA 2に相当するバンドが得られる。SA 1をとり出して再び電気泳動するとSA 2が分離してくる。したがって, ウイルス感染によって生じたこれらの可溶性抗原は, ウイルスたんぱくが種々の程度に凝集したものと考えられる。感染が進むとfraction Iたんぱくは減少する。接種した第1葉では, えそ斑点が現われる接種後3日めに可溶性抗原が検出されるが, 感染が進むにつれて減少し, 接種後8日には認められなくなる。これに反して, 第2葉では, 葉基部にmosaicが見えはじめる接種後4 ,5日めにはじめて可溶性抗原およびウイルスが検出され, その後感染の進行にともなって両者とも増加する。ウイルス合成における可溶性抗原の意義については結論が得られなかったが, 第1葉と第2葉での可溶性抗原の消長の違いは, 両者での病徴の型およびウイルス含量の差と関係があるものと思われる。