著者
加藤 弘徳 千木良 雅弘
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.140-150, 2009-08-10
被引用文献数
1 3

四国中部において東西方向の中央構造線南側に平行する法皇(ほうおう)山脈には山体重力変形が生じている.変形は同構造線に沿う約20kmの区間にわたって断続的に発生しており,そのうち複数の区間では山上凹地の発達が認められる.中央構造線側の山脈北側斜面には脆弱な泥質片岩が流れ盤構造をなして分布し,中央構造線の南側の相対的な隆起運動に伴い,この流れ盤斜面が重力作用により不安定化し,斜面が全体的に北に移動するように変形している.一方で,一般に高角断層とされてきた中央構造線は山体変形箇所の下方で特徴的に南緩傾斜となっている.これは,山体変形に起因する荷重が作用した状態で南側隆起の断層運動が生じ深部の高角断層が地表付近で緩傾斜化して出現し,衝上断層となっているためと推定される.このように,山体重力変形と中央構造線の断層運動およびそれに伴う山体の隆起は相互に関係している.山上凹地の内部に分布するかつての湖沼堆積物の構造および年代測定結果から,山体変形は今から5万年以上前にはすでに発生し,山上には湖沼が形成されたが,今から4.5万〜2.4万年前の間に湖沼は決壊し,現在の地形が形成されたことが明らかになった.