1 0 0 0 仮面症候群

著者
岩田 大樹 北市 伸義 石田 晋 大野 重昭
出版者
医学書院
雑誌
臨床眼科 (ISSN:03705579)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.1650-1655, 2010-10-15

はじめに 仮面症候群(masquerade syndrome)とは,原疾患の症状・所見が他の疾患に類似している場合に用いられる一般的な名称で,原疾患が仮面の下に隠されているという意味である。非炎症性疾患が続発性に炎症症状を引き起こし,あたかも原発性眼炎症性疾患であるかのような所見を示す場合や,非炎症性疾患の臨床像が炎症性疾患に類似している場合に用いられる。本稿では外眼部の仮面症候群には触れず,眼内の仮面症候群について記載する。 ぶどう膜炎様症状は軽度の虹彩毛様体炎から汎ぶどう膜炎までさまざまである。原疾患の頻度としては悪性腫瘍が多い。悪性腫瘍(癌)は死亡原因として最も多く,診断の遅れは重篤な結果となることがある。 今日,癌研究は大きな進歩を遂げているが,その最大の契機となったのはわが国の山際勝三郎・東京帝国大学教授と当時研究生であった市川厚一(のち北海道帝国大学教授)による人工タール癌の作製である。両氏は1914(大正3)年にウサギ(家兎)の耳にコールタールを塗布して皮膚癌を発生させることに成功した(図1)。これは世界初の人工癌であり(「山際・市川のタール癌モデル」),煙突の石炭灰掃除夫に皮膚癌や陰囊癌が多発する臨床的事実を裏付けるものでもあった。発癌契機として化学物質説を主張する両氏と,寄生虫説を主張するデンマークのFibiger教授との間の論争は,Fibigerが1926年にノーベル賞を受賞するという決着になった。しかし,現在ではFibigerのモデルは癌ではなかったことが明らかになっており,山際・市川のタール癌モデルが初の人工癌として世界中の教科書に必ず記載されている。 仮面症候群の原因疾患の頻度は成人では悪性リンパ腫と転移性腫瘍が多く,小児では網膜芽細胞腫と白血病が多い。眼症状が初発症状となることも多いが,悪性腫瘍は診断が遅れることで生命予後に重大な影響を及ぼす。鑑別診断は非常に重要である。
著者
北市 伸義 大野 重昭 南場 研一 吉田 和彦 大神 一浩
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究ではぶどう膜炎における疾患感受性遺伝子や再発など予後に影響を与える遺伝子を検索した。まず世界14ヵ国25施設のベーチェット病臨床像をまとめ、地域による症状や予後の違いを明らかにした。日本では同病の視力予後は依然として不良で、小児発症例が少ないことも明らかとなった。並行して各国からベーチェット病や原田病、尋常性白斑などの遺伝子サンプルを収集・検討し、ベーチェット病と原田病の間で再発に関与すると考えられる遺伝子に差異が見られた。