- 著者
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中村 好一
伊東 剛
千原 泉
定金 敦子
小谷 和彦
青山 泰子
上原 里程
- 出版者
- 日本公衆衛生学会
- 雑誌
- 日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
- 巻号頁・発行日
- vol.57, no.9, pp.807-815, 2010 (Released:2014-06-12)
- 参考文献数
- 25
目的 警察のデータを用いて栃木県の自殺の実態を明らかにし,自殺対策を進める上での要点を示すと共に,警察データの利点と問題点を検討する。方法 栃木県警察本部から提供を受けた2007年,2008年 2 年間の自殺データ(小票)を集計解析した。結果 栃木県における観察した 2 年間の自殺は1,166件(男865件,女301件)であった。人口あたりの自殺件数は全国と比較して高い傾向にあった。男では50歳代が最も多かったのに対して,女では30歳代から70歳代までほぼ同じ人数であった。20歳代,30歳代で人口あたりの件数が全国よりも高い傾向が観察された。平日の早朝や午前10時台に多い傾向が観察された。自殺場所は自宅が最も多く,手段は縊死が最も多かった(いずれも全体の約 6 割)。自殺の原因・動機(1 件の自殺について 3 つまで選択)では健康問題が最も多く(61.3%),次いで経済・生活問題(22.7%),家庭問題(17.3%)であった。健康問題では身体疾患と精神疾患がほぼ半数ずつを占めていた。経済・生活問題は20~60歳代の男で圧倒的に多く,中でも多重債務が多かった。約 3 分の 1 の者が遺書などを残していた。15.9%は自殺未遂の経験があった。以上のような結果をもとに検討した結果,栃木県の自殺対策を推進する上で,(1)学校保健や職域保健のさらなる充実,とくに20歳代および30歳代男への対応,(2)自殺のリスクが高い者に対して,家族への指導などにより常に他者の目が届くようにしておくことの重要性,(3)自殺未遂経験者へのハイリスク者としての対応,(4)相談窓口(とくに多重債務)の充実と住民への周知,(5)身体疾患をもつ患者の心のケアの充実,(6)精神疾患をもつ患者の治療を含めた管理の充実,の 6 点が重要であることを示した。さらに,警察データにおける原因・動機は,現場を捜査した警察官が判断しているために,心理学的剖検と比較すると情報の偏りが大きく妥当性は落ちるが,全数を把握しているために選択の偏りはなく,この点は心理学的剖検に勝るものであることを議論した。結論 警察のデータを用いて栃木県の自殺の実態を明らかにし,栃木県での自殺対策を進める上での要点を提示した。利点と問題点を理解した上で利用すれば,警察のデータも自殺予防対策に有用な情報を提供することを示した。