著者
千田 若菜 岡田 智
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.57-66, 2021-03-25

ASDのある人のメンタルヘルスにおける、不適応の予防的観点から、過剰適応の概念に着目する必要性を整理することを目的に、わが国におけるASDの過剰適応について報告した文献を概観した。過剰適応はわが国に特有の概念と考えられており、海外では類似する概念としてperfectionism(完璧主義)やburnout(燃え尽き)、camouflage(カモフラージュ)が、ASDのメンタルヘルスに関わる要因として指摘されている。特にカモフラージュは、近年のASD研究で注目されており、実証研究を通じ有用な知見が見出されている。過剰適応もカモフラージュも、社会的状況で生じ、従事している間は外見上問題がないように見えるが、従事した結果の悪影響があることは共通している。一方で、臨床家から過剰適応として指摘されている現象の中には、カモフラージュでは説明しきれない特徴や変数が存在する。ASDのある人への不適応の予防的支援に向け、過剰適応と他の類似する概念の整理が研究上の課題となっている。
著者
横田 圭司 千田 若菜 飯利 千恵子 斉藤 由美
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.566-576, 2018-11-01 (Released:2020-02-28)
参考文献数
19
被引用文献数
1

知的障害と発達障害のトランジションについて述べるために,成人期の適応に強い影響を及ぼし得る,愛着の問題,教育の枠組み,自閉症スペクトラム障害 (ASD) における過剰適応の問題を中心に,学齢期から成人期における医療の役割を論じた。それぞれに特徴的な精神症状がみられ,これら精神症状が認められたケースを中心に,学齢期の早期に精神科医療へ移行することが望ましいと考えられた。ただし,現実的には知的障害や発達障害の対応に精通した精神科医は多くはなく,移行の時期は地域の医療資源に左右されざるを得ないと結論付けられた。学齢期以降の精神症状が成人以降の精神疾患に関連することもあるため,児童精神科医や小児科医と成人期を担う精神科医とが症例検討などを通して精神症状を共有することは,トランジションを円滑に進めるだけではなく,精神疾患の予防に寄与する可能性がある。