著者
千田 若菜 岡田 智
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.57-66, 2021-03-25

ASDのある人のメンタルヘルスにおける、不適応の予防的観点から、過剰適応の概念に着目する必要性を整理することを目的に、わが国におけるASDの過剰適応について報告した文献を概観した。過剰適応はわが国に特有の概念と考えられており、海外では類似する概念としてperfectionism(完璧主義)やburnout(燃え尽き)、camouflage(カモフラージュ)が、ASDのメンタルヘルスに関わる要因として指摘されている。特にカモフラージュは、近年のASD研究で注目されており、実証研究を通じ有用な知見が見出されている。過剰適応もカモフラージュも、社会的状況で生じ、従事している間は外見上問題がないように見えるが、従事した結果の悪影響があることは共通している。一方で、臨床家から過剰適応として指摘されている現象の中には、カモフラージュでは説明しきれない特徴や変数が存在する。ASDのある人への不適応の予防的支援に向け、過剰適応と他の類似する概念の整理が研究上の課題となっている。
著者
加藤 弘通 太田 正義 水野 君平
出版者
北海道大学教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
no.8, pp.1-12, 2016

本研究の目的は、通常学級と特別支援学級に分け、いじめ被害の実態と被害者が援助要請行動を生起させる要因を教師の指導と生徒との関係性から検討することであった。公立小中学校41,089名を対象に質問紙調査を行った結果、以下のことが明らかとなった。1つは、過去3ヶ月のいじめ被害の実態は、通常学級の小学校で42.7%、中学校で31.5%、特別支援学級の小学校で45.5%、中学校で30.9%であった。2つは、いじめ被害にあった者のうちで「先生に知らせた」とする者の全体の児童生徒に占める割合を算出したところ、通常学級では小学校で約25%、中学校で約15%であり、特別支援学級では小学校で約50%、中学校で約42%であった。3つは、いじめ被害者の教師への援助要請行動を生起する要因としては、学校種、および通常学級と困難学級では異なる結果が得られた。以上をふまえ、学校種・学級種に応じた対応の必要性を論じた。
著者
岡田 智 田邊 李江 飯利 知恵子 小林 玄 鳥居 深雪
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.23-35, 2015-03-25

本研究では、WISC-IVの解釈にかかわる実践的課題を概観し、検査の測定値の解釈を裏付けるため、そして、検査の測定値にあらわれない特性や状態を把握するための検査行動のアセスメントの構築が必要であることを示した。これまで作成されたアセスメントツールを参考にしつつ、さらに、発達障害の特性の把握の視点も新たに取り入れ、検査行動チェックリストを作成した。事例研究では、2事例のみであったので一般化することには限界があるが、検査行動アセスメントの臨床的有用性について確認ができた。しかし、検査行動チェックリストを臨床適用するためには、その尺度自体の精度について検討する必要がある。今後の課題として、臨床的有用性を重要な観点としつつ、「セッション内妥当性」「セッション外妥当性」を検証していくことが挙げられた。
著者
土田 幸男 室橋 春光
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.47-55, 2017-03-15

目標指向型の記憶であるワーキングメモリには制限された容量が存在し、学習を始めとする各種認知機能と関係する。本論文では、ワーキングメモリ容量についての基礎的研究を概観し、中央実行系を中心としたワーキングメモリの役割について検討した。また、ワーキングメモリが学習方法においてどのように関与しうるのか、認知負荷理論における効果とワーキングメモリの関係について概観した。最後に、ワーキングメモリという観点を踏まえた上で、今後の教育に望まれる学習方法について考察した。
著者
市原 純
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.67-80, 2021-03-25

市原(2016)は、若者たちへの継続的なインタビュー調査の結果から、保育職志望を断念していく過程と、そこへ影響を与えた各要素について分析している。市原(2016)では、保育者養成校の進学断念や中途退学、保育職への就職活動の失敗、保育職就労開始前の妊娠による就労断念といったケースを取り扱っている。保育職志望の若者の「学校から仕事へ」の移行過程を考える上では、いずれも重要なケースだったが、市原(2016)では保育職就労後の若者たちの経験を、取り扱うことができていない。本稿では、移行過程の只中にいる若者たちが保育職就労後に出会う経験として存在する、「新卒保育者の早期離職」に着目し、保育学・保育者養成分野での先行研究を調べてみたい。
著者
飯利 知恵子 岡田 智
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.31-34, 2014-03-25

2011年に国際的に最も頻繁に活用されている心理検査であるWISCの第4版(以下WISC-IV)が出版された。本稿では、自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorders:以下ASD)のWISC-IVプロフィールをADHDの重複の有無に焦点を当てて検討した。結果、本研究では従来報告されていたものとは異なるプロフィールが得られた。データ収集の際のASD判断基準の曖昧さなどいくつか課題も見られ、今後追って検討していくことが必要であった。また、ASDをはじめとする発達障害のある子どもを理解するためには、検査における各臨床群に特徴的な認知プロフィールとともに、日常場面や検査場面での行動観察や聞き取り等、質的なアセスメントも含めて幅広い観点から捉えること、WISC-IVの解釈システムの構築が必要であることが議論された。
著者
加藤 弘通 太田 正義 松下 真実子 三井 由里
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.21-30, 2014-03-25

本研究の目的は、思春期における思考の発達過程を明らかにすることと、こうした思考の発達が、自尊心の低下や大人への反抗といったこの時期の諸問題とどのように関係するのかを明らかにすることである。そのために中学生468名を対象に、批判的思考態度、自尊心、親との関係、教師との関係を含む質問紙を用いて、2年間で5回の縦断調査を行った。その結果、思考の発達を示す批判的思考態度は、2年生の後半あたりから上昇する傾向にあることが分かった。また批判的思考態度の発達の状況により生徒タイプを分類し、その後の自尊心などの発達的推移を検討した結果、中学入学時の段階で思考の発達がより進んでいる者ほど、より早く自尊心の低下や大人との関係の良さの低下が生じることが示された。
著者
岩田 みちる 草薙 静江 橋本 竜作 柳生 一自 室橋 春光
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.49-55, 2015-03-25

読みにおける障害は2010年に診断基準が規定されたが、個別に適した教育的支援方法に関する情報は不足しているのが現状である。本稿では、児童の諸検査の結果や心理的な負荷に合わせて実施した読み書きに対する比較的包括的な支援方法を試みた。その際、学習の経過や、その際に現れた特徴、支援に対する反応を検討し、個人に合わせて支援を改良した経過を紹介する。
著者
岩田 みちる 下條 暁司 橋本 竜作 柳生 一自 室橋 春光
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-4, 2015-03-25

Rey複雑図形検査は近年、学習障害の認知能力を評価する課題として注目されているが、実際の書字との関連性は検討が少ない。そこで本稿では文章の書き写し速度、Rey複雑図形の成績、読み時間との関連性を発達性ディスレクシア児と非ディスレクシア児の間で比較した。その結果、両群ともにRey複雑図形検査の直後再生課題と書き写し課題の文字数に相関の有意傾向が認められた。また、ディスレクシア群でのみ読み時間と書き写し課題に負の相関を認めた。最後に臨床的な示唆と本稿の限界について述べる。
著者
岩田 みちる 柳生 一自 横山 里美 室橋 春光
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.57-62, 2015-03-25

発達障害や学習障害のある場合、不登校や対人関係・社会的行動面のトラブルなど二次障害を併発しやすいことが指摘されている。特に読み書きに困難がある場合は周囲から理解されづらく、学校だけでなく家庭でも怠惰やケアレスミスとして叱責の対象になりやすい。本稿では反抗挑戦性障害と注意欠陥・多動性障害を疑われて受診した読み困難児に対する家庭、学校、専門機関と医療の連携による包括的支援を行った事例を紹介する。また、学習障害の見つかりにくさについて医療の観点から記述する。
著者
日置 真世
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター = Research and Clinical Center for Child Development, Faculty of Education, Hokkaido University
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
no.4, pp.21-34, 2010

子ども家庭を取り巻く社会問題が深刻化を見せているなか、2008年4月からスクールソーシャルワーカー(以下、SSWとする)が文部科学省のモデル事業として全国で導入された。日本社会において学齢児の子どもたちへ大きな影響力を持つ学校(教育分野)にソーシャルワーク(福祉分野)の専門職が導入されたことで困難な状況に置かれている子どもが支援につながる機会が拡大し、学校が地域の支援機関との連携を強めるなど様々な意味で大きなチャンスといえる。しかし、現実ではそれぞれの現場は直面する事態の対応に追われたり、世間やマスコミから過剰な攻撃や追及の矢面に立たされたりなど安心して本来の力や役割を発揮できない状況もあり、教育と福祉という異分野の連携はSSWが導入されたからといって、簡単に効果が上がるようなものではない。本論文は筆者がSSWの一人として1年半余り札幌市において取り組んできた支援実践を支援を受ける側の立場に立った問題意識に基づき振りかえることで、子どもたちや家庭とそれを取り巻く学校や関係機関の支援の現状をまとめ、これからの子ども家庭支援の在り方について提言を試みるものである。
著者
加藤 弘通 太田 正義 水野 君平
出版者
北海道大学教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.1-12, 2016-03-31

本研究の目的は、通常学級と特別支援学級に分け、いじめ被害の実態と被害者が援助要請行動を生起させる要因を教師の指導と生徒との関係性から検討することであった。公立小中学校41,089名を対象に質問紙調査を行った結果、以下のことが明らかとなった。1つは、過去3ヶ月のいじめ被害の実態は、通常学級の小学校で42.7%、中学校で31.5%、特別支援学級の小学校で45.5%、中学校で30.9%であった。2つは、いじめ被害にあった者のうちで「先生に知らせた」とする者の全体の児童生徒に占める割合を算出したところ、通常学級では小学校で約25%、中学校で約15%であり、特別支援学級では小学校で約50%、中学校で約42%であった。3つは、いじめ被害者の教師への援助要請行動を生起する要因としては、学校種、および通常学級と困難学級では異なる結果が得られた。以上をふまえ、学校種・学級種に応じた対応の必要性を論じた。
著者
栁内 景太 関 あゆみ
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.23-31, 2023-03-24

書字困難児に対して不適切な対応が為されると、書字への抵抗が強まり学習意欲の低下を引き起こすことがある。そこで、本研究では小学生の書字困難児4 名を対象に、書字困難児の認知行動的特徴と経過との関連について検討した。その結果、共通する認知行動面の困難としてワーキングメモリ、巧緻性、目と手の協応、視覚認知の困難と不注意が認められた。また、共通する経過として、学習する漢字がより複雑になり、自己客観視が可能となる小学3 年時頃より、自尊心が低下し、学習意欲が低下することが認められた。加えて、行動面の困難として多動と対人関係にも困難を有すると、不適応の原因を見極めることが難しく、書字への支援が遅れ、学習意欲の改善が著しく困難になることが示唆された。従って、多動と対人関係の困難が目立つ場合でも、書字困難への対応を後回しにしないことが重要と思われる。
著者
鈴木 修斗 加藤 弘通
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.33-40, 2023-03-24

本論文では、従来の集団外成員の排除に焦点化した仲間集団の排他性について、その概念を見直し、排他的なグループにおけるグループ外の者との関係を阻害する2 つの要因について検討する。一つ目は、グループ外の者がグループ内に入ることを阻害する要因「内関係阻害」、二つ目はグループ内の仲間がグループ外の者と関係をもつことを阻害する要因「外関係阻害」である。排他的な友達グループには内関係阻害と外関係阻害の2 つの阻害要因が関係していると考えられるが、外関係阻害については十分な検討がされていない。そこで本研究では、仲間集団の外関係阻害に関する暫定尺度を開発し、友達グループの外関係阻害の実態を示すことを目的とする。そのために、①項目を作成し、因子構造の検討を行い、②自由記述調査をふまえ、さらにその項目内容について検討した。