著者
野口(相田)真希 千葉 早苗 田所 和明
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.43-57, 2018-01-15 (Released:2018-03-13)
参考文献数
81
被引用文献数
2

北太平洋における10数年規模の気候変動に関連した海洋生態系の変化について,これまで多くの研究が行われてきた。その代表的な事例として,1976/77年に発生した気候シフトに関する研究が挙げられる。これらの研究では,観測や数値モデルによって,1976/77年に発生した気候シフトがプランクトンから魚類に至る海洋生態系に大きな影響を与えたことが示されている。また,ここ約半世紀の間,北太平洋の広域で表層の栄養塩濃度の減少トレンドも示しており,動植物プランクトンの生産への影響を示唆している。このように,海洋環境の変動に関連する海洋生態系の変化について多くの知見が得られている。一方,生態系構造には未だ不明な点が多く,物理環境-栄養塩-生態系に至る一連の変動プロセスについて定量的に理解することができていない。そこで本総説では,観測と数値モデルから得られた北太平洋域の一次生産者と動物プランクトンの10年規模変動を概説し,海洋生態系の変動メカニズムの解明のために今後の研究展開を提示する。
著者
千葉 早苗 本多 牧生 笹井 義一 笹岡 晃征
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

(長期生態系変動)西部北太平洋における過去数十年の海洋環境と生態系変動の関係についてレビューした結果を論文にまとめ出版した(Chiba et al.2008&2009)。特に十年規模周期の水温偏差に応じた親潮域における生物生産タイミングの経年的変化や(温暖期:早い,寒冷期:遅い),温暖性種の分布の南北移動について報告した。(衛星データによる生物季節的変化の検知)1998-2007年の衛星海色データを用いて北太平洋の基礎生産の季節変動パターンを明らかにした。その結果、水温の上昇が基礎生産に正に働く海域(ベーリング海・親潮混合域)と負に働く海域(アラスカ湾・黒潮海域等)が見られた。また同じく海色衛星データを用いて、西部北太平洋亜寒帯域における植物プランクトンブルームのタイミングの経年変動を調べた結果,十年間でブルームのピークが約一ヶ月遅くなっていることが分った。海洋研究開発機構が同海域で実施している時系列観測の結果では,1998-2007年の間に水深5000mにおけるオパールのフラックスの割合が減少傾向に有り,表層のプランクトン群集組成の変化が示唆されている。本研究の結果から,経年的な環境変化に応じた表層生態系の生物季節的変化が,主要プランクトン種の変遷を招き,結果として海域の生物ポンプ機能に影響を与えていることが推測された。(動物プランクトンによる炭素の鉛直輸送)2006-2008年に調査船「みらい」により採集した表層の動物プランクトンの群集/サイズ組成から摂餌率/排泄率を求め,基礎生産量および亜表層への炭素の鉛直輸送効率との関係について調べた。しかし夏季の高生物生産季においては,それらの間に明確な関係は見られなかった。今後は低生産季について同様の見積をし,その季節変動について明らかにしていく。