著者
及川 輝樹 中野 俊 荒井 健一 中村 圭裕 藤田 浩司 成毛 志乃 岸本 博志 千葉 達朗 南里 翔平
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

飛騨山脈南部の岐阜県・長野県県境に位置する乗鞍火山の最近約1万年間の噴火史を,テフラ層序とAMS 14C年代測定を基に明らかにした.なお本報告は,乗鞍岳火山防災協議会が行った調査を基にして,その後検討を加えたものである.かつて乗鞍火山における最近1万年間の活動中心は,火口縁に最高峰の剣ヶ峰(3026m)がある権現池火口の他,恵比須岳火口にもあるとされていた.しかし,恵比須岳火口起源のテフラとされていた噴出物は,年代や記載岩石学的特徴から,その火口起源のものではないことが明らかとなった.そのため,最近1万年間の活動中心は権現池火口周辺に限られる.最近1万年間における乗鞍火山の噴火活動は,テフラ層序に基づくと,少なくともマグマ噴火を2回,水蒸気噴火を10回行っている.マグマ噴火は,いずれも水蒸気噴火に始まるが,その後火山灰を放出する噴火とスコリアを放出する噴火がそれぞれ発生した.スコリアを放出する噴火は,その初期に小規模な火砕流も発生した.総テフラ噴出量は数100~1000万/m3オーダである.なお,権現池火口周辺から流れ出た溶岩のうち,保存のよい微地形が残存する溶岩も3ユニットあることから,溶岩を流す噴火も完新世に3回発生した可能性がある.また,個々の水蒸気噴火の総噴出量は,数10~数100万m3オーダとなる.最新の噴火は,約500年前に発生した水蒸気噴火である.およそ7300年前に降下した鬼界アカホヤ火山灰より上位のテフラユニットの数から算出した噴火頻度は,800年に一回となる.近隣の焼岳火山(100~300年/回)と比べると噴火頻度は少ないが,桁違いに少ないわけではない.
著者
南里 翔平 鈴木 毅彦
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

群馬県中部に位置する赤城山は周囲約25 kmに及ぶ大型の成層火山である.守屋(1968)はこの発達史をはじめて体系的にまとめた.その中で約4.4万年前に噴出した赤城鹿沼テフラ(Ag-KP;青木ほか,2008)の上位に足尾帯由来のチャートや頁岩からなる降下火砕物があることを報告し,これを水沼石質降下火砕岩層(CLP)とした.本研究では守屋(1968)ほかで詳細に明らかにされてこなかった,CLPの分布,層序,構成岩種,噴出量,噴火様式,前後の噴火史を明らかにすることを目的とした.赤城山東麓の桐生市黒保根町下田沢を流れる清水用水沿いの露頭(赤城山山頂から南東約10 km)では,下位から榛名八崎テフラ(Hr-HP),Ag-KP,CLP,赤城小沼(この)石質降下テフラ(Ag-KLP)がそれぞれ観察できる.この地点におけるCLPは岩相から4つの噴火ユニットに分けることができ,下位から1L,2P,3P,4Lとした.このうち1L,4Lは足尾帯由来と考えられる堆積岩・火成岩(たとえばドレライトなど)の亜角礫が主体である.1Lは平均粒径13 mmの火山豆石を含む単層と,その上位に堆積する平均粒径32 mmの亜角礫層からなる.このことから1Lはマグマ水蒸気爆発の堆積物であると考えられる.2Pは発泡の悪い黄色軽石火山礫からなる.この軽石火山礫の火山ガラス部の主成分化学組成は,下位のAg-KP中のそれらとは明らかに異なり,SiO2の重量%がAg-KPのそれよりも高いことがわかった.このことから,この軽石はAg-KPの噴火以後,赤城山のマグマだまり内部で結晶分化作用が進行した結果生成されたマグマに由来するものであると考えられる.守屋(1968)はCLPを水蒸気噴火の堆積物としたが,本研究では2Pの存在からこれをマグマ噴火であると考えた.また,2Pは給源から東方に約50 km離れた日光市や鹿沼市など広域に分布していることが確認されたので,プリニー式の噴火であった可能性が高い.3Pは2P中の軽石と同じ組成を持つ軽石と,堆積岩の亜角礫層との互層からなることから,このユニットに関しても2Pに引き続くプリニー式のマグマ噴火であったと考えられる.4Lは層厚9 cmの細粒火山礫層と,その上位に堆積する亜角礫層とからなることから,マグマ水蒸気噴火の堆積物である可能性が考えられる.CLPは赤城山の類質物や異質物からなる堆積岩主体の堆積物であると考えられてきたが,以上のようにマグマ噴火による本質軽石を伴うことがわかったので,新たに赤城清水石質テフラ(Ag-SLT)の名称を用いることを提案する.Ag-SLTは総噴出量約6 km3に達する.この値はVEI=5に相当し,富士山の宝永噴火(1707年)に匹敵するレベルのプリニー式噴火である.鈴木(1990)はAg-KPの主体をなす降下軽石堆積物直上に降下火山灰を認めたが,それを覆うCLPまで含めて一連の噴火による堆積物と解釈した.本研究では清水用水の露頭においてAg-KPの降下軽石堆積物直上の降下火山灰層をAg-KP(a) とあらためて定義し,灰噴火に由来すると解釈した.またこれと区別するため,従来の赤城鹿沼テフラ(Ag-KP)と呼ばれている降下軽石堆積物をAg-KP(p) と再定義した.ところでAg-KP(a)/ Ag-SLT(1L)境界付近を詳しく観察すると,有機物に富み,層理が不明瞭で,淘汰が悪い層厚12 cmの地層が存在する.このことから,Ag-KP(a)/ Ag-SLT(1L)間にはロームが存在すると考えられる.つまり,Ag-KP(p) のプリニー式噴火後は引き続きAg-KP(a)の灰噴火が発生したが,Ag-SLTの噴火までには,わずかではあるが噴火の休止期があった可能性が示唆される.引用文献青木ほか(2008)第四紀研究,47,391-407.守屋(1968)前橋営林局,p64.鈴木(1990)地学雑誌,99,60-74.