著者
岸 玲子 伊東 一郎 石津 澄子 原渕 泉 三宅 浩次
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.241-250, 1991-07-20
被引用文献数
5

メチルブロマイド(MB)の人体に対する影響についての報告は少なく,特に長期暴露の影響を適当な対照と比較して調べた報告はほとんど見られない.本研究は現場での健康管理やスクリーニングに役立たせる目的でMB作業者の自覚症状についてのケース・コントロール研究を行った.対象は某MB製造工場でMB取扱い歴のある者全員(56名)である.対照は同工場内に暴露歴のない作業者が少なかったため国鉄および関連企業の170名の中から性・年齢(±3歳以内)で1対1にマッチさせ選んだ.自覚症状77項目についてサインテストによりMB群と対照の比較を行った.作業者のMB取扱い歴は6.7±7.4年(Range:1〜25年)であった.MB作業者の平均年齢は40.6±14.0(Range:18〜62年)であった.サインテストによる対比較で有意の差が認められた質問項目別に訴え率をみると,作業中(当日や翌日)に見られた症状では「手がかゆい」,「刺激で鼻がつんつんしたり鼻水が出る」,「手に水疱ができたり赤くはれたりする」の各項目の訴えが多かった.最近(6か月以内)またはそれ以前の症状では「身体がだるい(最近)」,「立ち上がるとフラフラすることがある(以前)」,「食欲がない(以前)」,「いやな夢をよくみる(最近)」,「めまいがしたりぐらぐらする(以前)」,「指先や足裏の感じが鈍い,しびれる(最近・以前)」等の訴え率が高かった.現在MB取扱い者(37名)と過去にMB取扱い歴のあった(19名)を比較すると大きな差は認められず,同様の傾向を示したが,作業中の自覚症状では,「現在MB取扱い者」では前掲の3症状がいずれも対照に比べ有訴者が多かったものの,「過去取扱い者」では「手がかゆい」の項目のみ有意差が見られた.普段の症状では,逆に「現在取扱い者」のほうが有意差のあった項目が少なく,「めまいがしたりぐらぐらする(以前)」のみ有意であった(p<0.02).「過去取扱い者」では「つまずきやすい(最近)」,「いやな夢をよくみる(最近・以前)」,「身体がだるい(最近)」,「指先や足の裏がしびれる(最近・以前)」,「身体の感覚がおかしい(以前)」,「暗いところでは見づらい(最近)」の各項目でMBを以前に使用していた者のほうに強く症状が見られた.ケース群とコントロール群の病名の頻度に大きな差異はなく,年齢も±3歳以内でマッチしているので本調査で認められた自覚症状の出現頻度の差は,基礎疾患による差異や年齢による差とは思われず,MB長期暴露による影響の現われと思われる.現在MB取扱い作業者の尿中Br濃度は18.9±10.4μ9/mlであった.尿中Br濃度と暴露年数の間には関連は見られなかったが,暴露年数と自覚症状の間では有意の関連が認められた.
著者
岸 玲子 原渕 泉 池田 聰子 三宅 浩次
出版者
社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.101-113, 1986
被引用文献数
1

有機溶剤トルエンの中枢神経系への急性影響を「濃度・暴露時間積と生体のパフォマンス変化」の面から明らかにすることを目的として行動中毒学的手法を用いて検討した. Wistar系ラットを光警告つき条件回避反応で訓練し,一定の回避成績を示すようになった時点でトルエンに125~4,000 ppmの6段階の濃度におのおの4時間単回暴露し,暴露前後7時間のレバー押し数,回避数,有効回避率,光刺激に対する反応潜時を測定した.<br>得られた結果は以下のとおりである.<br>1) トルエン125, 250, 500 ppm暴露では,暴露開始後20分間は有効回避率の有意の減少が見られた. 125 ppm暴露では暴露240分目の有効回避率が対応コントロールに比べて低かった.<br>2) トルエン1,000 ppmと2,000 ppmでは濃度と暴露時間に比例してレバー押し反応数の顕著な増加と有効回避率の低下が認められた. 2,000 ppm 4時間目には反応数は暴露前の150%を越え,有効回避率は暴露前のパフォマンスの70%に低下していた. 1,000 ppmおよび2,000 ppmトルエン暴露時には,いずれも暴露後2時間目以降は光刺激に対する反応潜時の有意の短縮も認められた.<br>3) 4,000 ppm暴露の場合は,最初の40分間は反応数の著しい増加を示すが,その後次第に麻酔性の行動抑制を示し, 8匹中6匹のラットは痙攣および運動失調を呈した. 4,000 ppm暴露終了後は全ラットの反応数は増加し興奮状態を示した.有効回避率は暴露打ち切り2時間後も回復しなかった.<br>低濃度および高濃度トルエン暴露の行動影響について,考察を加えるとともに,方法についての検討を行って,有機溶剤の中枢神経系への影響を明らかにするうえでラットの弁別条件回避行動の有用性を示した.