著者
及川 智博
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.126, pp.75-99, 2016-06-30

本研究は,幼児期における仲間関係に関する先行研究について整理し,現状および課題とその背景を明らかにすることを目的とした。本研究では,仲間関係に関する先行研究について,(1)個体能力論に沿う研究,(2)関係論に沿う研究の,2つの軸によって概観した。その結果,以下のことが示唆された。第1に,幼児個々の社会的発達から,仲間関係の形成を説明する議論や,その循環関係に関する議論は多数行われてきたものの,仲間関係から幼児の社会的発達を説明可能とする議論はほとんど見出されておらず,研究間の共通認識に留まっていることが示唆された。第2に,仲間関係の形成から幼児の発達について説明する際には,仲間関係の形成それ自体に,発達の契機を見出す必要性が示唆された。その際には,仲間関係の形成や変容について,幼児の参加する活動や,その前提となる幼稚園の教育的意図や活動文脈を含み込んで分析する必要性が示唆された。
著者
及川 智博
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.48-66, 2022-03-30 (Released:2022-03-30)
参考文献数
30
被引用文献数
5

幼児は1人から2人,そして複数人のグループへと仲間関係を形成していく。しかし,時に幼児はそのプロセスで課題を抱え,“ひとりぼっちの幼児”となったり,それ以上は仲間関係が広がりにくい“親密すぎる二者関係”を形成したりすることがある。本研究は,そうした課題を抱えた仲間関係の変容を促す保育者の援助の実践知を検討した。保育者30名に対して“ひとりぼっちの幼児”と“親密すぎる二者関係”及びその両方が登場する3つの架空の事例を提示し,援助プロセスを尋ねる半構造化面接を行った。語りはグラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析された。結果,6つの援助プロセスを伴う計16のカテゴリーが導出された。次に,各カテゴリーと援助プロセスを共通性に注目し統合することで,保育者の実践知に関する仮説モデルを生成した。この仮説モデルから,保育者は課題に直面した際,5段階の援助プロセスにより幼児たちの遊びを育てることで,仲間関係の変容を促そうとしていることが考えられた。最後に,従来のSSTに関する諸研究および実践記録・研究の知見と比較しつつ,仲間関係の援助に関する保育者の専門性について論じ,課題と展望を述べた。
著者
及川 智博
出版者
心理科学研究会
雑誌
心理科学 (ISSN:03883299)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.31-51, 2018 (Released:2018-10-02)
参考文献数
56
著者
及川 智博 川田 学
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.37-47, 2015-03-25

本研究は、運動会活動初期における遊戯の練習場面の、幼児―教師間および幼児同士の相互作用の形態に着目し、従来の保育における研究では十分検討されてこなかった、保育実践における規範を幼児や教師が形成していく仕組みと過程を明らかにすることを目的とした。ある幼稚園の年長学年が毎年運動会で行なう遊戯 <よさこいソーラン> の練習場面を対象として参与観察を行った。結果、遊戯の練習場面における規範を形成・共有する以下の2つの仕組みを見出した。第1に、教師の特定の働きかけの継続により、判断基準やその到達点が曖昧な、踊りの上達に関する規範が学年内に形成されたこと、第2に、規範における行動の参照点を見出すために、幼児たちがクラス間の関係性を変容させることで、規範が共有・維持されていったこと、である。また、運動会当日へ向けて練習が継続していくなかで、これらの仕組み、および規範が変化していったことが示唆された。