著者
嶌本 樹 古川 竜司 鈴木 圭 柳川 久
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 = Mammalian Science (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.201-206, 2014

タイリクモモンガPteromys volansは,フィンランドやエストニア,韓国などでは森林分断化の影響による個体数の減少が危惧されている.北海道の十勝地方においても,過去の森林分断化によって生息地が減少した上に,現在でもさらに生息地の分断化・減少が進行している.本種に対する森林分断化の影響を評価するには,生息確認方法を確立し,生息状況をモニタリングする必要がある.本研究では,糞による簡便かつ効率的な生息確認方法を確立するために,糞が頻繁に発見される場所の特徴や糞の発見効率を検討した.11ヶ所の樹林地(面積0.42–13.69 ha)において,それぞれ10 mの調査ラインをランダムに12本引き,両側4 m(片側2 m)の範囲で糞の有無を確認した.全ての樹林地で本種の糞が発見され,1ヶ所の樹林地あたりの発見糞塊数は平均9.7個,発見ライン数は平均6.2本であった.糞は胸高直径が太い樹木の近くでよく発見され,胸高直径24 cm以上の樹木から20 cm以内の範囲で糞を探すことが効率的であることがわかった.一方で,樹林面積は糞の発見ライン数に影響しなかった.そのため,樹林面積の大きさによって,調査努力量を変える必要はないと考えられた.本調査の結果から,面積に関わらず1ヶ所の樹林地につき5本程度のラインを引いて糞を探すことで,簡便かつ効率的に本種の生息を確認できることがわかった.
著者
嶌本 樹 古川 竜司 鈴木 圭 柳川 久
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.201-206, 2014 (Released:2015-01-30)
参考文献数
25

タイリクモモンガPteromys volansは,フィンランドやエストニア,韓国などでは森林分断化の影響による個体数の減少が危惧されている.北海道の十勝地方においても,過去の森林分断化によって生息地が減少した上に,現在でもさらに生息地の分断化・減少が進行している.本種に対する森林分断化の影響を評価するには,生息確認方法を確立し,生息状況をモニタリングする必要がある.本研究では,糞による簡便かつ効率的な生息確認方法を確立するために,糞が頻繁に発見される場所の特徴や糞の発見効率を検討した.11ヶ所の樹林地(面積0.42–13.69 ha)において,それぞれ10 mの調査ラインをランダムに12本引き,両側4 m(片側2 m)の範囲で糞の有無を確認した.全ての樹林地で本種の糞が発見され,1ヶ所の樹林地あたりの発見糞塊数は平均9.7個,発見ライン数は平均6.2本であった.糞は胸高直径が太い樹木の近くでよく発見され,胸高直径24 cm以上の樹木から20 cm以内の範囲で糞を探すことが効率的であることがわかった.一方で,樹林面積は糞の発見ライン数に影響しなかった.そのため,樹林面積の大きさによって,調査努力量を変える必要はないと考えられた.本調査の結果から,面積に関わらず1ヶ所の樹林地につき5本程度のラインを引いて糞を探すことで,簡便かつ効率的に本種の生息を確認できることがわかった.
著者
古川 竜司 嶌本 樹 鈴木 圭 柳川 久
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

&nbsp;気温が低い冬季にひとつの巣場所に複数の個体が営巣する集団営巣という行動はタイリクモモンガ <i>Pteromys volans</i>やアメリカハタネズミ <i>Microtus pennsylvanicus</i>といった齧歯類の仲間で知られている.これまでヒメネズミ <i>Apodemus argenteus</i>も巣箱で 3頭から 9頭の集団営巣が観察されているが,その詳しい生態は調べられていない.また,タイリクモモンガとヒメネズミは両種とも樹洞を繁殖や休息の場として利用する.しかし樹洞は数少ない資源であるため,これら 2種間で樹洞をめぐる競合が生じる可能性がある.本発表ではヒメネズミの集団営巣とタイリクモモンガとの樹洞を介した干渉について,ビデオカメラによる撮影で確認した事例を報告する.2013年 4月上旬に北海道十勝地方にある6林分(合計 26.3 ha)でヒメネズミの営巣が 3個の樹洞で確認された.それらの樹洞ではそれぞれ,10頭と 5頭の集団営巣と単独営巣が確認された.ヒメネズミの出巣開始時刻は平均で日没後 53分だった.出巣開始時刻が最も早いもので日没前 4分,もっとも遅いもので日没後 93分だった.統計解析の結果,集団営巣を行っている樹洞では,遅くに出巣する個体のほうが出巣前に顔を出して外の様子をうかがっている時間が長かった.出巣順番が臆病さや慎重さに関わっているのかもしれない.4月の間は出巣開始時刻は日没時刻が遅くなるのに同調して遅くなっていたが,5月以降はその傾向が弱まり出巣開始時刻が日没時刻に近づく傾向が見られた.本発表では,さらに出巣開始時刻に関わる環境要因について調べた内容を報告する.また,ヒメネズミが営巣している樹洞を 47回観察した結果,タイリクモモンガによる樹洞への接近が 13回,そのうち樹洞を覗き込む様子が 8回観察された.しかし撮影時間内では樹洞の中に入り込んでヒメネズミを追い出す直接的な排除行動は観察されなかった.
著者
鈴木 圭 佐川 真由 保田 集 嶌本 樹 古川 竜司 柳川 久
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

&nbsp;餌動物の捕食者認識能力は,彼らが持つ生態的特徴によって様々に変化する.本研究ではこれまで研究されてこなかった夜行性,樹上性および滑空性という生態的特徴を持つタイリクモモンガ <i>Pteromys volans</i>の捕食者認識能力を,視覚と聴覚に注目して調べた.捕食者の存在が本種の出巣に要する時間を変化させると考え,33個のねぐらで以下の 5実験を行い,出巣に要する時間の変化を調べた.1) 視覚実験: 本種の営巣樹洞木から約1m の距離に,捕食者であるフクロウの剥製を置いた ( N=19)2)視覚実験対照区 : フクロウの剥製の代わりにプラスチックケースを同様の方法で置いた ( N=7).3)聴.覚実験 : 本種が巣から顔を出した際にフクロウの声を聞かせた ( N=18).4)聴覚実験対照区 : フクロウの声の代わりに本調査地に普通に生息するカッコウの声を同様の方法で聞かせた ( N=7)5) 通常行動 : 剥製やプラスチックケースを置かず,いずれの声も聴かせなかった ( N=22).出巣に要し.た時間に影響を与える要因を調べるために,一般線形混合モデルよって解析し,多重比較検定によって群間の差をみた.その結果,本種が出巣に要した時間は,フクロウの声を聞かせた時 (平均 1446秒)に,他の実験に比べて長くなった.それに対し,通常行動 (55秒),カッコウの声を聞かせた時 (275秒),フクロウの剥製(58秒)やプラスチックケース (108秒)を置いた時の 4実験の間で時間に違いはみられなかった.つまり本種は聴覚によって捕食者認識を行い,捕食者と非捕食者の区別も可能であった.それに対し,視覚はほとんど役立っていないことがわかった.本種の様な滑空性リスは樹上性リスから進化し,現存する樹上性リスは視覚および聴覚の両方で捕食者を認識できる.夜行性になったことや滑空能力の獲得に必要な立体視に伴って視野が狭くなったことが,滑空性哺乳類の視覚による捕食者認識能力を低下させるのかもしれない.