著者
西尾 翼 高田 まゆら 宇野 裕之 佐藤 喜和 柳川 久
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.301-310, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
46
被引用文献数
2

本研究では,北海道十勝地域において頻繁にロードキルが発生しているアカギツネVulpes vulpes(以下キツネ)を対象に,北海道開発局が収集した国道におけるロードキルデータを用いて,その発生数が道路の交通量や道路周辺の景観構造およびエゾシカ(Cervus nippon yesoensis,以下シカ)の駆除・狩猟から受ける影響を検討した.2000~2009年のキツネの国道におけるロードキルデータを2つの季節に分け,国道を2 km毎に区切ったトランセクト内のロードキル発生数を目的変数とした一般化線形モデルによる解析を行った.考慮した影響要因は,トランセクト内の平均交通量,トランセクトの中心から半径1 km内に含まれる市街地,草地,農耕地,森林の面積率,河川総延長,景観の多様度指数,シカの平均駆除数,平均狩猟数,シカの平均生息密度指標である.その結果,産仔・育仔期(3月~8月)のキツネのロードキル発生数は局所的な交通量とともに増加したがある一定の交通量を超えると減少し,さらに道路周辺に草地が多くシカの狩猟数が多い場所で多くなった.分散・交尾期(9月~2月)のキツネのロードキル発生数は景観の多様度指数が高く,かつシカの密度指標が低い場所で多かった.本研究により,十勝におけるキツネのロードキル発生数と関係のある要因は季節によって異なることが示され,またキツネと景観の多様度との関係性やキツネによるシカ狩猟残滓利用の可能性,シカがキツネへ与える間接効果の可能性などキツネの生態に関するさまざまな仮説が提示された.
著者
大熊 勳 吉松 大基 高田 まゆら 赤坂 卓美 柳川 久
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.63, 2016 (Released:2018-04-01)
参考文献数
42

北海道十勝地域の森林は農地開発に伴って大きく減少しており、残存する河畔林が森林棲の動物の限られた生息地として機能している。本地域の河畔林は農業被害を引き起こすニホンジカCervus nippon(以下、シカ)やエキノコックス症を媒介するアカギツネVulpes vulpes(以下、キツネ)にも利用されており、これらの種がどのような河畔林を頻繁に利用するかわかっていない。本研究では北海道十勝地域においてシカおよびキツネによる河畔林利用頻度を測定し、頻度が高くなる地点の条件と影響要因が最も強く作用する空間スケールを特定した。2011年5月?2012年12月に十勝川水系の河川に5km間隔で計37台の自動撮影カメラを設置し、シカおよびキツネによる河畔林利用頻度を測定した。各季節(春:3?5月、夏:6?8月、秋:9?11月、冬:12?2月)の両種の撮影頻度を目的変数とした一般化線形混合モデルを構築し、これに影響する要因を調べた。考慮した影響要因は、カメラ設置地点の胸高断面積合計と下層植生被度および河畔林の幅、餌資源となりうる小型鳥類および小型哺乳類の100カメラ日あたりの撮影頻度(キツネのモデルのみ)、カメラ設置地点を中心とした半径100?800 mバッファ内の森林、農地、市街地の面積率および河川総延長、カメラ設置地点から山間部までの距離(シカのモデルのみ)である。解析の結果、シカの夏の河畔林利用頻度は河畔林地点の周辺400 mに農地、森林および河川が多く分布するほど高くなり、秋ではこれらの要因に加えて下層植生被度が高いほど高くなった。キツネの河畔林利用頻度は春では周辺200 mに森林が多いほど低くなり、夏では小型鳥類の撮影頻度が高いほど高くなり、冬では周辺200 mに市街地が多いほど高くなった。秋の利用頻度に影響した要因は不明だった。本研究により、十勝の農地景観におけるシカおよびキツネの河畔林利用頻度に影響する環境要因とそれらが強く作用する空間スケールが明らかになった。本研究で用いたアプローチによりシカやキツネの利用頻度が高い河畔林地点を特定しそれらの地点やその周辺を適切に管理することで、軋轢をもたらしうる種による河畔林利用を制限し、軋轢の発生地への両種の進出を抑えられる可能性がある。
著者
谷崎 美由記 市川 伸彦 木村 明彦 柳川 久
出版者
森林野生動物研究会
雑誌
森林野生動物研究会誌 (ISSN:09168265)
巻号頁・発行日
no.37, pp.27-30, 2012-03-29

An experiment was carried out to see whether bat boxes made of foamed styrol would be used by cave-dwelling bats. The boxes were installed in a tunnel currently used as roosting spots. Two years later, 30 to 40 Myotis sp. individuals were observed to have colonized the boxes.
著者
平井 克亥 柳川 久
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.142-147, 2012 (Released:2012-04-27)
参考文献数
23
被引用文献数
1

北海道十勝平野の農耕地景観に営巣するハイタカAccipiter nisusの営巣木および営巣林分の特徴を調べた.調査は2007年~2010年の間に確認した31の営巣木および営巣林分(営巣木を中心とした0.1 haプロット)と営巣に利用されなかった37の林分(非営巣林分)を比較した.その結果,ハイタカが営巣木および営巣林分の樹種にもっとも多く利用したのはカラマツLarix kaempferiであった.しかし,営巣林分と非営巣林分との比較では,常緑針葉樹への選好性が示された.営巣した林分と非営巣林分の植生構造の比較の結果,ハイタカの林分は胸高直径および樹高ともにより小さく,低い下枝高,胸高断面積および立木密度は高い値を示し,ハイタカは構造的に林内空間の閉じた若齢林を選択していた.この常緑樹の若齢林へ選好性は,同所的に生息する捕食者のオオタカA. gentilisによる捕食リスクを低減するための選択の可能性,または採餌環境として適しているためかもしれない.
著者
鈴木 圭 柳川 久
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.315-319, 2011 (Released:2012-01-21)
参考文献数
30
被引用文献数
1

筆者らは2010年12月から2011年1月にかけて,東京都と神奈川県の県境である多摩川河川敷で,越冬する6個体のトラフズクAsio otusのペリットを14個採取したので,その内容物について報告する.本種が越冬したのは市街地の河川敷で,周囲は野球やラグビーなどのグラウンドになっていた.ペリットの内容物は,哺乳類ではハタネズミが2個体,ハツカネズミが21個体,ドブネズミが2個体およびアブラコウモリが6個体で,鳥類も確認されたが種および個体数は不明であった.本種は市街地や人工建造物に依存する小型哺乳類を中心に捕食していた.アブラコウモリについては,関東地方における越冬期のトラフズクの餌資源としては初記録であった.
著者
藤巻 裕蔵 柳川 久 谷口 明里
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.104-106, 1989

One to three Nutcrakers <i>Nucifraga caryocatactes</i> were observed in residential areas and wood islands of suburban areas in Obihiro City and its environs, central Hokkaido, from mid-October 1988 to late June 1989. Besides, Nutcrackers were recorded from Hakodate, Sapporo and Furano from October 1988 to mid-June 1989. Poor cone production of the Japanese Stone Pine <i>Pinus pumila</i> in 1988 was considered to be one of causes of their wintering at low altitudes.
著者
高田 優 前田 敦子 谷崎 美由記 柳川 久
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

&nbsp;北海道十勝管内の芽室町にある湧水域(約0.78ha)には,大小複数の湧水池と湿性林が存在し,農耕地の中に取り残されたコウモリ類のオアシスのような場所である.この湧水域は高規格幹線道路「帯広広尾自動車道」の経路上に位置し,道路造成の際にはコウモリの採餌場所となる池やねぐらとなる樹林の一部が消失するため,いくつかの保全措置が講じられた.道路造成後,コウモリ類の移動経路確保のために設置された門型カルバートの壁面および湿性林内にbat box(コウモリ用巣箱)を設置しコウモリ類による利用の確認調査を行なった.2002年の調査ではヒナコウモリ,カグヤコウモリおよびモモジロコウモリの 3種のコウモリ類による bat boxの利用を確認し,また湿性林内の樹洞ではカグヤコウモリの繁殖集団が確認された.その 10年後の 2012年 5月の時点で,調査地には約 10個のbat boxが設置されたまま残っていた.それらの古いものと取り替えて,出入口の下部に設けた着地場所の長さが異なる 2種類(5cm,15cm)の bat boxを各々 20個ずつ,合計 40個を新たに設置した.新しい bat boxの利用確認調査では,キタクビワコウモリ,カグヤコウモリおよびモモジロコウモリの 3種による利用が確認された.装着していた標識の確認から,利用個体の中には 10年前の bat box利用個体や近隣の建造物を利用していた個体などが含まれていた.また 10年前に樹洞を利用していた個体を含んだカグヤコウモリの集団も bat box内で確認された.これらのことから bat box設置後の10年の間にこの湧水域にコウモリ類が定着し,bat boxを利用し続けたことが示唆される.また 10年前の調査では確認されなかった幼獣と成獣の混成集団による利用が,キタクビワコウモリにおいて確認されたため,本種が bat box内で出産および哺育を行なった可能性が示唆される.また着地場所の長さが異なる 2種類の bat boxの比較においては,その利用例数に有意差は見られなかった.
著者
柳川 久 前田 敦子 谷崎 美由記 赤坂 卓美
出版者
森林野生動物研究会
雑誌
森林野生動物研究会誌 (ISSN:09168265)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.19-24, 2003

A bat survey was carried out during July, August and September 2002, at Kitafushiko (42°52'N;143°8'E), Memuro-cho, in central Hokkaido. Five species of bats were caught in mist nets: Myotis macrodactylus, M. daubentonii, M. frater, Eptesicus nilssonii and Nyctalus aviator. M. frater used tree hollows for their daytime and maternity roosts during July and August.
著者
村木 尚子 柳川 久
出版者
樹木医学会
雑誌
樹木医学研究 = Journal of Tree Health (ISSN:13440268)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.69-71, 2006

北海道帯広市において森林性鳥獣類による樹洞の利用実態を明らかにするために,利用種および利用数の季節変化を,一年を通して日中と夜間に調査した.樹洞の一次生産者であるキツツキ類3種と,二次利用者である鳥類および哺乳類12種が確認された.樹洞は,日中,夜間ともほぼ一年を通して利用され,利用率が最も高い時期は日中で6月,夜間で7月であったが,利用率の季節変化は日中と夜間で同調していた.二次利用者鳥類による利用は繁殖期(夏)に多く,アカゲラ,コアカゲラ,ゴジュウカラおよびエゾモモンガによる利用は一年を通してみられた.繁殖のためだけでなく,ねぐらや休息のために樹洞を利用する種もみられ,樹洞は多様な鳥獣類によってさまざまな用途で利用されていた.
著者
嶌本 樹 古川 竜司 鈴木 圭 柳川 久
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 = Mammalian Science (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.201-206, 2014

タイリクモモンガPteromys volansは,フィンランドやエストニア,韓国などでは森林分断化の影響による個体数の減少が危惧されている.北海道の十勝地方においても,過去の森林分断化によって生息地が減少した上に,現在でもさらに生息地の分断化・減少が進行している.本種に対する森林分断化の影響を評価するには,生息確認方法を確立し,生息状況をモニタリングする必要がある.本研究では,糞による簡便かつ効率的な生息確認方法を確立するために,糞が頻繁に発見される場所の特徴や糞の発見効率を検討した.11ヶ所の樹林地(面積0.42–13.69 ha)において,それぞれ10 mの調査ラインをランダムに12本引き,両側4 m(片側2 m)の範囲で糞の有無を確認した.全ての樹林地で本種の糞が発見され,1ヶ所の樹林地あたりの発見糞塊数は平均9.7個,発見ライン数は平均6.2本であった.糞は胸高直径が太い樹木の近くでよく発見され,胸高直径24 cm以上の樹木から20 cm以内の範囲で糞を探すことが効率的であることがわかった.一方で,樹林面積は糞の発見ライン数に影響しなかった.そのため,樹林面積の大きさによって,調査努力量を変える必要はないと考えられた.本調査の結果から,面積に関わらず1ヶ所の樹林地につき5本程度のラインを引いて糞を探すことで,簡便かつ効率的に本種の生息を確認できることがわかった.
著者
嶌本 樹 古川 竜司 鈴木 圭 柳川 久
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.201-206, 2014 (Released:2015-01-30)
参考文献数
25

タイリクモモンガPteromys volansは,フィンランドやエストニア,韓国などでは森林分断化の影響による個体数の減少が危惧されている.北海道の十勝地方においても,過去の森林分断化によって生息地が減少した上に,現在でもさらに生息地の分断化・減少が進行している.本種に対する森林分断化の影響を評価するには,生息確認方法を確立し,生息状況をモニタリングする必要がある.本研究では,糞による簡便かつ効率的な生息確認方法を確立するために,糞が頻繁に発見される場所の特徴や糞の発見効率を検討した.11ヶ所の樹林地(面積0.42–13.69 ha)において,それぞれ10 mの調査ラインをランダムに12本引き,両側4 m(片側2 m)の範囲で糞の有無を確認した.全ての樹林地で本種の糞が発見され,1ヶ所の樹林地あたりの発見糞塊数は平均9.7個,発見ライン数は平均6.2本であった.糞は胸高直径が太い樹木の近くでよく発見され,胸高直径24 cm以上の樹木から20 cm以内の範囲で糞を探すことが効率的であることがわかった.一方で,樹林面積は糞の発見ライン数に影響しなかった.そのため,樹林面積の大きさによって,調査努力量を変える必要はないと考えられた.本調査の結果から,面積に関わらず1ヶ所の樹林地につき5本程度のラインを引いて糞を探すことで,簡便かつ効率的に本種の生息を確認できることがわかった.
著者
浅利 裕伸 柳川 久 安藤 元一
出版者
森林野生動物研究会
雑誌
森林野生動物研究会誌 (ISSN:09168265)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.11-16, 2014-03-28 (Released:2017-04-26)
参考文献数
32

日本産樹上性リス類による森林被害に関する論文として,論文検索サイトによりキタリス(Sciurus vulgaris)およびタイリクモモンガ(Pteromys volans)各1編,ニホンリス(S. lis)3編,ムササビ(Petaurista leucogenys)9編の4種14編を収集した.ムササビによるスギ(Cryptomeria japonica)やヒノキ(Chamaecyparis obtusa)の被害は餌植物の不足によるもの,ニホンリスによるキノコ類のほだ木の剥皮害は材内幼虫を捕食するためと考えられた.シカやネズミ類などと比べて樹上性リス類による被害は小さく,むしろ樹上性リス類の健全な生息環境を維持するための休息・繁殖場所となる樹洞の維持,通年多様な食物を提供する針広混交林の創出,移動を妨げない連続した森林配置などの樹上性リス類に適した森林管理が,生態系の改善に向けて重要な課題と考えられる.
著者
古川 竜司 嶌本 樹 鈴木 圭 柳川 久
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

&nbsp;気温が低い冬季にひとつの巣場所に複数の個体が営巣する集団営巣という行動はタイリクモモンガ <i>Pteromys volans</i>やアメリカハタネズミ <i>Microtus pennsylvanicus</i>といった齧歯類の仲間で知られている.これまでヒメネズミ <i>Apodemus argenteus</i>も巣箱で 3頭から 9頭の集団営巣が観察されているが,その詳しい生態は調べられていない.また,タイリクモモンガとヒメネズミは両種とも樹洞を繁殖や休息の場として利用する.しかし樹洞は数少ない資源であるため,これら 2種間で樹洞をめぐる競合が生じる可能性がある.本発表ではヒメネズミの集団営巣とタイリクモモンガとの樹洞を介した干渉について,ビデオカメラによる撮影で確認した事例を報告する.2013年 4月上旬に北海道十勝地方にある6林分(合計 26.3 ha)でヒメネズミの営巣が 3個の樹洞で確認された.それらの樹洞ではそれぞれ,10頭と 5頭の集団営巣と単独営巣が確認された.ヒメネズミの出巣開始時刻は平均で日没後 53分だった.出巣開始時刻が最も早いもので日没前 4分,もっとも遅いもので日没後 93分だった.統計解析の結果,集団営巣を行っている樹洞では,遅くに出巣する個体のほうが出巣前に顔を出して外の様子をうかがっている時間が長かった.出巣順番が臆病さや慎重さに関わっているのかもしれない.4月の間は出巣開始時刻は日没時刻が遅くなるのに同調して遅くなっていたが,5月以降はその傾向が弱まり出巣開始時刻が日没時刻に近づく傾向が見られた.本発表では,さらに出巣開始時刻に関わる環境要因について調べた内容を報告する.また,ヒメネズミが営巣している樹洞を 47回観察した結果,タイリクモモンガによる樹洞への接近が 13回,そのうち樹洞を覗き込む様子が 8回観察された.しかし撮影時間内では樹洞の中に入り込んでヒメネズミを追い出す直接的な排除行動は観察されなかった.
著者
鈴木 圭 佐川 真由 保田 集 嶌本 樹 古川 竜司 柳川 久
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

&nbsp;餌動物の捕食者認識能力は,彼らが持つ生態的特徴によって様々に変化する.本研究ではこれまで研究されてこなかった夜行性,樹上性および滑空性という生態的特徴を持つタイリクモモンガ <i>Pteromys volans</i>の捕食者認識能力を,視覚と聴覚に注目して調べた.捕食者の存在が本種の出巣に要する時間を変化させると考え,33個のねぐらで以下の 5実験を行い,出巣に要する時間の変化を調べた.1) 視覚実験: 本種の営巣樹洞木から約1m の距離に,捕食者であるフクロウの剥製を置いた ( N=19)2)視覚実験対照区 : フクロウの剥製の代わりにプラスチックケースを同様の方法で置いた ( N=7).3)聴.覚実験 : 本種が巣から顔を出した際にフクロウの声を聞かせた ( N=18).4)聴覚実験対照区 : フクロウの声の代わりに本調査地に普通に生息するカッコウの声を同様の方法で聞かせた ( N=7)5) 通常行動 : 剥製やプラスチックケースを置かず,いずれの声も聴かせなかった ( N=22).出巣に要し.た時間に影響を与える要因を調べるために,一般線形混合モデルよって解析し,多重比較検定によって群間の差をみた.その結果,本種が出巣に要した時間は,フクロウの声を聞かせた時 (平均 1446秒)に,他の実験に比べて長くなった.それに対し,通常行動 (55秒),カッコウの声を聞かせた時 (275秒),フクロウの剥製(58秒)やプラスチックケース (108秒)を置いた時の 4実験の間で時間に違いはみられなかった.つまり本種は聴覚によって捕食者認識を行い,捕食者と非捕食者の区別も可能であった.それに対し,視覚はほとんど役立っていないことがわかった.本種の様な滑空性リスは樹上性リスから進化し,現存する樹上性リスは視覚および聴覚の両方で捕食者を認識できる.夜行性になったことや滑空能力の獲得に必要な立体視に伴って視野が狭くなったことが,滑空性哺乳類の視覚による捕食者認識能力を低下させるのかもしれない.