著者
吉井 めぐみ 清水 邦夫 古津 年章
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.75-87, 2002-07-31
参考文献数
16

熱帯降雨観測衛星(TRMM)では,緯度約±37゜の範囲内において,緯経度5゜×5゜領域内の1ヵ月平均降雨強度が最終的なプロダクトとして求められる.TRMM搭載降雨レーダなどの降水レーダで直接に測定される量はZ因子(単位体積あたりの後方散乱断面積に比例する量で,一般に使われるレーダ周波数では雨滴粒径分布の6次モーメントに等しくなる)である.一方,気候や防災などの分野で重要な量は降雨循環であり,何らかの方法でZから降雨強度を推定する必要がある.降雨強度を算出するさいに,いくつかの仮定の下で,レーダ反射因子Z(mm<SUP>6</SUP>/m<SUP>3</SUP>) と降雨強度R (mm/h) との間にべき乗関係(Z-R関係) Z=AR<SUP>B</SUP> (A>0) の成り立つことが知られている.ここで,A と Bは定数である.<BR>本稿はZ-R関係のパラメータ推定を問題とした.気象レーダ観測で得られるレーダ反射因子Zと雨量計によって地上で計測される降雨強度Rとの関係を与えるパラメータの値を知ることは,TRMMにおいてよりよい降雨マップを得るための研究として重要である.Z-R関係の決定のために,これまで,回帰もしくは逆回帰法,分布関数マッチング法,モーメント分布関数比マッチング法,ローレンツ曲線を利用する方法が知られている.本稿では,logZ と logRについて正規線形構造モデルを仮定し,識別可能な場合としてlogRの分散を既知とした場合を採用した.TRMMが目標とする熱帯から中緯度にかけての降雨のうち,熱帯降雨に関しては対数正規分布の降雨強度分布への適合の良さが観察されていることと,降雨の種類や観測領域等によって適切に層別を行えば,対数正規分布の型パラメータはほぼ一定値をとる傾向があるという経験的事実が知られていることによる.ランダムな欠測が起こるかも知れない状況を想定したデータ構造の下に,モデルパラメータの最尤推定を論じた.
著者
古津 年章 児玉 安正 高薮 縁 柴垣 佳明 下舞 豊志
出版者
島根大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

本研究課題は,スマトラにおける赤道大気レーダ(EAR)を中心にして熱帯積雲対流活動を総合的に観測し,対流活動の階層性ならびに対流圏起源と大気波動の振舞いを明らかにすることを目的とする.そのため,風の鉛直プロファイルを観測するEARと同時に気温や水蒸気密度の鉛直プロファイルや降雨の3次元構造を観測する機器,更に様々な地上測器を設置し,それらによる観測を実施してきた.取得されたデータ解析をすすめ,赤道スマトラ域を中心とした対流活動の特性ならびにそれに起因する大気擾乱や重力波に関して以下のことが明らかになった.1. 海洋大陸では,全赤道域平均に比べて,海洋と陸域の降雨特性が混合されて表れていることが見出された.この特徴は,雷活動にも現れていた.2. 赤道域特有の季節内変動であるMadden-Julian振動(MJO)やスーパー雲クラスター(SCC)に対応して, 3次元降雨構造が大きく変化する.大規模対流活動抑圧期には,却って水平規模が小さく背の高い対流が支配的になる.3. 大規模擾乱の内部にメソスケール雲クラスター(CC)が明確に現れる。SCCの東進はCCの連続的な発達の結果として生じており,西スマトラの山岳地形とも関係する.4. 対流活動の微物理過程の帰結として生じる雨滴粒径分布は,顕著な季節内変動,日周変化を示す.5. 上に述べた対流活動の時空間変動に伴い,雷活動度や熱源の鉛直分布が明確に変化する.これは,陸上と海上で異なる特性を示す.更に,短周期の鉛直流変動にも顕著な日周変化,季節内変化が現れる.