著者
辻 宏樹 横山 千恵 高薮 縁
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.98, no.4, pp.859-876, 2020 (Released:2020-08-25)
参考文献数
44
被引用文献数
6 35

2018年7月豪雨と2017年九州北部豪雨の降水の特徴と環境場を比較した。どちらの豪雨も、梅雨末期に、台風の通過後、上層西風ジェットの南側で、上層トラフの前面において発生した。しかし、二つの事例の降水は対照的な特徴を示していた。2018年7月豪雨では、広範囲に長時間持続する、中程度に背の高い降水システムによる雨が観測された。環境場は気候値と比較して相対的に安定かつ非常に湿潤であった。朝鮮半島に存在した深いトラフは、準地衡力学的強制によって、組織化した降水システムの形成に有利な環境場を整えていた。一方、2017年九州北部豪雨では、極端に背の高い降水システムによって狭い範囲で短時間に非常に強い雨が観測された。環境場は気候値と比較して相対的に不安定かつ湿潤であったが、2018年7月豪雨時と比較して乾燥していた。朝鮮半島に存在した浅いトラフは、トラフ自身に伴う寒気によって大気を不安定化させていた。 2018年と2017年の二つの豪雨事例における特徴の対比は、先行研究Hamada and Takayabu(2018, doi:10.1175/JCLI-D-17-0632.1)による極端降水事例と極端対流事例の統計における特徴の対比と類似している。二つの豪雨事例における気温と比湿の気候値からの偏差は、先行研究が上位0.1%の極端事例の統計であるにもかかわらず、先行研究の統計解析の結果よりも数倍大きかった。この結果は、2018年7月豪雨が極端降水事例の極端現象であったことを示唆しており、2017年九州北部豪雨は極端対流事例の極端現象に相当する事例であったことを示唆している。
著者
高薮 縁 松井 一郎 杉本 伸夫 住 明正
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

地上での雲の放射効果に関しては、GMS/TBB(気象衛星「ひまわり」相当黒体輻射温度)等の雲データと放射コードを用いた研究や精密な放射観測を用いた研究から、雲の鉛直分布特性の把握が必要であることが明らかであったが、雲底情報も含めた雲システム特性についての理解は十分でない。本研究では、ジャカルタおよび観測船「みらい」に設置した小型ミーライダー観測により雲底高度を算出し、衛星雲データ・降雨データおよび気象データを併用し、熱帯域の陸上・海上の雲降水システム特性を解析した。1.ジャカルタ設置のライダーによる雲の連続観測から雲底高度を算出した。またGMS/TBB、およびTRMM PR(熱帯降雨観測計画衛星降雨レーダー)、NOAA衛星の長波放射、高層観測データを収集・処理した。これらのデータを用いて雲底高度分布の特性と大規模大気循環との関係を解析すると共に、雲底分布・衛星からの雲頂情報・降雨の関係を日変化に着目して解析した。観測は1998年1-2月、6-7月、10-11月、12月-1999年3月、6-8月に行われ、湿循期と乾燥期に分けて解析した。湿潤期には、高度1km以下・約4.5km・約11kmの雲底の3層構造が明らかになった。1km以下の雲底は、12-18LTの陸上の境界層の発達で現れる夕立に伴い、乾燥機にも出現する。一方、4.5km高度の雲底は夕方〜朝方に観測され深夜00-03LTに卓越するもので湿潤期特有である。TBBデータやTRMM降雨データとの比較から、これは対流システムと組織化したアンビル雲の融解層高度に広がる雲底と解釈できる。2.「みらい」搭載のライダーによる観測から雲底高度を算出し、ジャカルタの結果と比較しながら熱帯海上での雲底高度分布の特性と気象場・雲頂・降雨の関係を日変化に着目して解析した。陸上との第一の相違は、1km以下の雲底を持つ雲が昼夜を問わず常に現れることである。やはり1km以下、約4.5km、約11kmの3層が顕著である。4.5kmのピークは03-09LTと15-18LTにあり、前者が大きい。夕方から夜明け前に上層11km付近のピークがあり、00-03LTに大きい。TRMM PRからは海上では03-09LTの早朝に対流雨と層状雨が組織化した降水の卓越が解析され、4.5kmのピークは組織化した雲システムのアンビルの早朝の発達を示す。これはジャカルタと同様、湿潤期特有の現象であった。
著者
古津 年章 児玉 安正 高薮 縁 柴垣 佳明 下舞 豊志
出版者
島根大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

本研究課題は,スマトラにおける赤道大気レーダ(EAR)を中心にして熱帯積雲対流活動を総合的に観測し,対流活動の階層性ならびに対流圏起源と大気波動の振舞いを明らかにすることを目的とする.そのため,風の鉛直プロファイルを観測するEARと同時に気温や水蒸気密度の鉛直プロファイルや降雨の3次元構造を観測する機器,更に様々な地上測器を設置し,それらによる観測を実施してきた.取得されたデータ解析をすすめ,赤道スマトラ域を中心とした対流活動の特性ならびにそれに起因する大気擾乱や重力波に関して以下のことが明らかになった.1. 海洋大陸では,全赤道域平均に比べて,海洋と陸域の降雨特性が混合されて表れていることが見出された.この特徴は,雷活動にも現れていた.2. 赤道域特有の季節内変動であるMadden-Julian振動(MJO)やスーパー雲クラスター(SCC)に対応して, 3次元降雨構造が大きく変化する.大規模対流活動抑圧期には,却って水平規模が小さく背の高い対流が支配的になる.3. 大規模擾乱の内部にメソスケール雲クラスター(CC)が明確に現れる。SCCの東進はCCの連続的な発達の結果として生じており,西スマトラの山岳地形とも関係する.4. 対流活動の微物理過程の帰結として生じる雨滴粒径分布は,顕著な季節内変動,日周変化を示す.5. 上に述べた対流活動の時空間変動に伴い,雷活動度や熱源の鉛直分布が明確に変化する.これは,陸上と海上で異なる特性を示す.更に,短周期の鉛直流変動にも顕著な日周変化,季節内変化が現れる.