- 著者
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福田 忠彦
古荘 雅生
矢野 吉治
- 出版者
- 慶應義塾大学
- 雑誌
- 基盤研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2000
本研究では人間工学的手法による実験的検討から、操船者の心理的特性と航行視環境の関係について体系的に示すことを目指した.本研究では,まず操船者の状況認識,行動に与える影響要因について明らかにした.その上で,以下の要因が自船の危険に関わる視対象の検出に与える影響を示した.1.光環境の状態日中・薄明時で視覚心理機能測定実験を行い,色知覚機能の大きな相違を明らかした.色知覚機能は薄明時で低下し,特に日中で相対的な感度が高い黄色の感度が有意に低下することが示された.2.操船者が処理しなければならない情報量と処理し得る情報量(1)誘目性の異なる対象を含んだ場面での知覚の範囲全ての対象が静止しているパターン(静止刺激)とそのうち一つに動きをつけたパターン(運動刺激)を用いて,知覚の範囲の測定実験を行った.運動刺激では精度が高く並列的な処理過程である即刻の把握(subitizing)で処理できる対象の数が,静止刺激よりも少なくなることが示された.(2)交通量の多い狭い水域における操船者の視覚探索特性狭水道や港内において眼球運動測定実験を行った.特に情報量が多い港内では,既に把握している視対象以外の存在や,海図やレーダーの情報を確認する余裕がなく,存在を把握している視対象についても,短くかつ少ない視線配置で情報を受容していることが示された.3.操船者の熟練度の影響水平線への見張りにおける熟練航海士と非熟練者の眼球運動測定実験を行った.熟練航海士は注視成分が非熟練者より多く,水平線へ集中して注視を行っていた.また水平方向への8〜10°の移動距離を「見張りの基本単位」とし,これに基づいて水平線上で広く視線を移動させていることが明らかになった.これらの知見を踏まえ,見張りにおけるヒューマンエラーの要因を示した.