著者
吉永 龍史 前川 友成
出版者
The Society of Physical Therapy Science
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.349-354, 2022 (Released:2022-06-20)
参考文献数
17

〔目的〕人工呼吸器(MV)管理中から早期歩行とセルフケアを獲得した重症肺炎の症例を経験した.〔対象と方法〕82歳男性,重症肺炎と敗血症性ショックによりICUへX日に入室した.X+5日よりMV管理中に歩行を含めた早期離床,および口腔ケアや整容などセルフケア指導を多職種で開始した.歩行練習は,理学療法士1名と看護師2名で5 mから開始し,50 m × 2セットまで漸増した.また,医療スタッフが必要物品を準備し,口腔内吸引,歯磨き,うがいを模倣して指導した.〔結果〕挿管下MV管理中のX+9日にセルフケアが自立し,歩行はX+12日に独歩見守りまで可能になった.〔結語〕本疾患例のように挿管下MV管理中においても,早期歩行およびセルフケアを獲得することは可能である.
著者
小野 武也 富田 瑛博 沖 貞明 梅井 凡子 大田尾 浩 吉永 龍史 大塚 彰
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.947-949, 2010 (Released:2011-01-28)
参考文献数
10
被引用文献数
2 1

〔目的〕本研究の目的は,関節の動きを維持するために30分/日の持続伸張がラット足関節拘縮の発生予防に与える影響を検討することである。〔対象・方法〕対象は8週齢,Wister系雌ラット20匹である。実験期間は7日間である。ラットを無作為に各10匹の2つにわけた。10匹は,右足関節を最大底屈位でギプスを用いて7日間固定する固定肢とし左足関節は介入を加えない無介入肢とした。残り10匹は,右足関節を最大底屈位で固定し,実験2日目から6日目まで毎日ギプスを外し背屈方向へ伸張を加える伸張肢とした。効果判定の関節可動域テストは,無介入肢,固定肢,伸張肢ともに実験最終日の7日目に行った。なお,伸張肢の7日目の持続伸張は実施していない。〔結果〕実験開始前の背屈角度は3肢間に有意差を認めなかった。実験最終日には固定肢と伸張肢はともに無介入肢との間に有意差が見られ,また,固定肢と伸張肢との間には有意差が見られなかった。〔結語〕これまで関節拘縮の発生予防に有効であるといわれた30分/日の持続伸張時間では関節拘縮の発生が予防できないことが示された。
著者
吉永 龍史
出版者
日本ヘルスプロモーション理学療法学会
雑誌
ヘルスプロモーション理学療法研究 (ISSN:21863741)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.23-28, 2016-04-30 (Released:2016-07-29)
参考文献数
20
被引用文献数
1

本研究は変形性膝関節症(膝OA)患者の運動機能改善の指標を明らかにするために,骨盤運動戦略およびHead・Arm・Trunk(HAT)運動戦略と骨盤周囲筋力の関係を検討した。対象は,膝OA 外来患者14名で,11名は両肢を3名は片肢を評価した。方法は,片脚立位動作を前額面上の写真から肩峰,体幹傾斜および股関節内転角度で骨盤運動とHAT 運動戦略に分類し,中殿筋,大殿筋および股関節内転筋の最大等尺性収縮を比較した。その結果,HAT 運動戦略は,立脚肢の中殿筋の筋力が有意に低下していること,体幹および肩峰傾斜角度と中殿筋の間に負の相関を認めた。歩容でHAT 運動戦略がみられた場合は,片脚立位の評価を加えることで,中殿筋の弱化傾向を推測できる可能性がある。
著者
吉永 龍史 小野 武也 沖 貞明 大塚 彰 梅井 凡子 星本 諭 中平 剛志 高橋 祐二 小林 弘基
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A4P2062-A4P2062, 2010

【目的】関節拘縮の治療に関わるものは、関節の動きを維持するために一日に必要な関節運動の時間を知りたい。この検討は動物実験を通して、関節をギプスなどで固定した後、固定を外してストレッチを一日につき一定時間実施し、再び関節を固定する方法で行われている。これを1週程度毎日繰り返し、最終日は固定を外して治療として持続的伸張運動(以下、ストレッチ)を実施した後に、効果判定の関節可動域テストを行っている。ここでポイントとなる点は、最終日の効果判定直前に治療としてのストレッチを行っている点である。先に述べた方法による最終日の関節可動域の効果判定結果は、 2つの影響が含まれていると考えられる。一つは毎日行う関節運動の影響(蓄積効果)である。もう一つは、最終日の関節可動域測定直前のストレッチの影響(即時効果)である。蓄積効果と即時効果を含む方法による研究結果によると、関節の動きを維持するために一日に必要な関節運動の時間はおよそ30分/日であろうと推測されている。ところが、我々は朝起きるとストレッチを行わないでも関節可動域は維持できている。これは、前日までの関節運動が十分に行われているためと考えることができる。このようなことから、効果判定を行う直前にストレッチを行わないで、関節の動きを維持するために一日に必要な関節運動の時間を検討することも重要と考えられる。本研究の目的は、即時効果を省き蓄積効果により関節の動きを維持するために一日に必要な関節運動の時間の検討である。<BR>【方法】8週齢のWistar系雌ラット20匹を用いた。ラットは10匹ずつ無作為に2群に振り分けた。そのうち1群は、左後肢を「正常群」、足関節最大底屈位でギプス固定した右後肢を「固定群」とした。さらに、固定群と同様にギプス固定を行い、2日目から最終日(7日目)の前日までの計5回、1日1回ギプスを外し、麻酔下でバネ秤を用い30gで30分ストレッチを実施した右後肢を「30g伸張群」とした。尚、固定期間は1週間とした。すべてのラットは飼育ゲージ内で水と餌も自由に摂取する事ができるようにした。足関節背屈角度(以下、背屈角度)は、初日と最終日(7日目)の背屈角度を測定した。ただし、実験最終日には、ストレッチを実施しないでギプス除去後に測定した。測定は、麻酔で小型筋力計を用いて30gの力を加えた状態で行った。統計処理は、実験前の各群間の背屈角度の比較に一元配置分散分析を、また各群の初日と最終日の背屈角度の比較をKruskal-Wallis検定によって確かめた後、有意差を認めた場合は多重比較検定にScheffe法を適用した。なお、危険率は5%未満をもって有意とした。<BR>【説明と同意】本研究は、本学の研究倫理委員会の承諾を受けて行った。<BR>【結果】実験前の背屈角度は、正常群が37.9±1.2°、固定群が37.6±1.3°、30g伸張群が37.0±1.6°ですべての群間で有意差を認めなかった。最終日の背屈角度は、正常群が37.9±1.7°、固定群が73.4±4.8°、30g伸張群が84.5±6.5°であった。実験前後の背屈角度の比較から固定群および30g伸張群には、実験後に有意をもって拘縮発生を認めた。また、各群間の比較では、すべての群に有意差が認められ、30g伸張群がストレッチを行ったにも関わらず、関節拘縮が最も発生していた。<BR>【考察】本研究の結果から、最終日にストレッチを行わずに効果判定を行うことで、30分/日で行うストレッチによる蓄積効果のみではギプス固定除去直後に関節拘縮が生じることが明らかとなった。また、ストレッチを行った30g伸張群が固定群と比較して関節拘縮がより悪化していた。ストレッチを行ったにも関わらず30g伸張群が固定群と比較して関節拘縮が悪化した原因について、先行研究によると、ギプス固定1週間のラット足関節の制限因子は、皮膚切開によって10%、下腿三頭筋切除によって80.5%であったと報告していることからも、軟部組織による制限因子であると推測される。そのため、30gによるストレッチが重すぎたのではないかと考えられる。もう一つの原因は関節可動域運動の時間が不足していたと考えられる。小児を対象とした先行研究では1日約6時間の関節運動を必要としている。このことから、関節可動域運動の伸張時間が長いほど関節拘縮を防ぐことができると考えられる。よって、本研究の関節可動域運動の時間は不足していたと考えられる。蓄積効果により関節の動きを維持するために一日に必要な関節運動の時間は、即時効果を含めた場合よりも多くの時間を必要とする可能性が考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】日々臨床で遭遇する関節拘縮を予防するために必要な運動時間を知ることは重要である。<BR>