著者
西本 真弓 吉田 あつし
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.221-233, 2009 (Released:2010-05-26)
参考文献数
19
被引用文献数
1

療養病床には医療保険適用の医療療養病床と介護保険適用の介護療養病床の2タイプがあり,前者には医療の必要性が高い患者を,後者には医療の必要性が低い患者を受け入れることを目的としている。本稿では,どんな患者がどちらの入院サービスを受けているかを,ある療養病床を有する病院のデータを用いて検証した。 分析の結果,以下のことが明らかとなった。(1)要介護度が2以下の場合,介護療養病床を選択する確率が3割強減少する。(2)患者が1級または2級の身体障害者手帳を所持している場合,介護療養病床を選択する確率が25%前後減少する。(3)入院回数や脳血管疾患や心疾患によってあらわされている患者の入院時の健康状態は,療養病床の選択に有意に影響しない。いずれの保険も原則的に包括払いを採用し,要介護度が高い患者が介護療養病床を利用した時の報酬は医療療養病床を利用した時の報酬よりも高くなる。分析結果は,保険からの報酬の大きさによって病床が選択されていることを意味している。患者の健康状態にはほとんどかかわらず,介護保険からの報酬が医療保険よりも大きい場合は,介護療養病床が使われる。1級または2級の身体障害者手帳を持つ患者は,医療費自己負担分が地方自治体から助成されるので,医療保険が適用される医療療養病床を選択する。病院の場合も患者の場合も,経済的インセンティブが病床の選択に影響を与えているといえる。