著者
吉田 勝彦
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.438-445, 2005-12-25
被引用文献数
1

一次生産量変動の大きさが動物の食性の幅の進化に与える影響を明らかにするため、進化的に構築された食物網に一次生産量変動を加えるコンピュータシミュレーションをおこなった。この食物綱は動物種と植物種で構成され、植物種は一次生産をおこない、単独で成長するが、動物種は他の種を捕食しないと生きられないとする。動物種は自分の好みに合う餌を選んで捕食する。動物種はそれぞれ違った食性幅をもち、食性幅が狭いほど、捕食によって取り入れたエネルギーを効率よく成長に使えると仮定する。シミュレーションの結果、一次生産量変動がない場合には食性幅の狭いスペシャリストが優占する傾向が見られた。小規模の一次生産量変動が加わると、食物綱全体の種数がわずかに減少する。この時、元々多くの餌を捕食しているジェネラリストにはほとんど影響がなかったが、少数の餌しか捕食していないスペシャリストの種数は大きく減少した。大規模な変動が加わるシミュレーションでは、時々大規模な一次生産量の減少が起こり、動物種の多くが絶滅し、その結果植物の種数が大幅に増加する。このような条件では、食性幅を広げればそれだけ多くの餌を得られるし、他の動物種との餌の競合も起こりにくいため、ジェネラリストが定着しやすくなる。そのため、大規模な一次生産量変動が加わるとジェネラリストが相対的に増加すると考えられる。
著者
吉田 勝彦
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.771, 2004 (Released:2004-07-30)

環境変動が起こったときに、どのような生物が絶滅しやすいのか、を明らかにすることは、生物の保全を考える上で重要な課題の一つである。生物には様々な種類の餌を食べるジェネラリストと特定の餌しか食べないスペシャリストが知られているが、環境変動が起こったときにどちらが絶滅しやすいかについては諸説あり、現在結論は得られていない。その原因の一つはスペシャリストの方が一般に分布が狭いため、両者を同じ条件で比較できなかったことである。もし生物群集の進化のコンピュータシミュレーションを行い、その中で進化的に出現した様々な食性を持つ生物を共存させることができれば、同じ条件での比較が可能になる。そこで本研究では、仮想的な食物網に一次生産量の変動を起こすコンピュータシミュレーションを行った。この食物網は動物種と植物種で構成され、植物は外界からのエネルギー流入を受けて一次生産を行う。モデルの中では、外界からのエネルギー流入量を変動させることによって、一次生産量を変動させる。動物種はそれぞれの好みに従って捕食する餌を選が、好みの幅が広いほど、取り入れた生物量のうち自分の成長に使えるものの割合が低くなると仮定する。シミュレーションの結果、変動がない場合はスペシャリストの方が絶滅しにくかった。しかし、規模の小さな一次生産量の変動が起こると、食物網のベースになる植物種が打撃を受けて絶滅し、その結果少数の餌しか捕食していないスペシャリストが絶滅しやすくなった。この時、多くの種類を餌としているジェネラリストはほとんど影響を受けなかった。規模の大きな変動が起こる場合、一次生産量が極端に減少するイベントが時々発生するが、この時、極端なスペシャリストと極端なジェネラリストが生き残る可能性が高く、中間的な性質を持つ生物が絶滅しやすかった。本研究の結果は、環境変動の規模によって、保全すべき種の優先順位が変わる可能性があることを示唆している。
著者
可知 直毅 平舘 俊太郎 川上 和人 吉田 勝彦 加藤 英寿 畑 憲治 郡 麻里 青山 夕貴子
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

外来哺乳動物の攪乱の結果、生態系機能が消失した海洋島において、外来哺乳動物の駆除が生態系機能に及ぼす影響を評価し、駆除後の生態系の変化を予測するために、小笠原諸島をモデルとして、野外における実測データの解析と生態系モデルによる将来予測シミュレーションを実施した。シミュレーションの結果、ヤギとネズミを同時に駆除した方が植生や動物のバイオマスの回復効果が大きいことが明らかとなった。また、予測の精度を上げるために、環境の空間的不均質性を考慮する必要があることが示唆された。