著者
真下 節 浜中 俊明 内田 一郎 西村 信哉 吉矢 生人
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究の目的はキセノンの麻酔作用が非特異的それとも特異的かということを明らかにすることである。1)X線回折法を用いた紫膜に対する吸入麻酔薬の結合部位の同定:揮発性麻酔薬を作用させた紫膜と作用させない紫膜の双方のX線回折結果から得られた位相、強度比から差フーリエ図を作成し、さらにモデル計算による結合位置の精密化を行った。その結果、麻酔薬分子はバクテリオロドプシン3量体内のタンパク質/脂質境界付近に結合していることが明らかになった。さらに、膜厚方向のX線散乱強度の変化から、麻酔薬分子は膜表面に存在することがわかった。さらに、耐圧測定セルにキセノンおよび亜酸化窒素を1,2,3,4,5気圧の各濃度で封入した紫膜試料においてX線回折を試みている。2)GABA_A受容体およびNMDA受容体に対するキセノンと亜酸化窒素の作用:抑制系受容体の再構成GABA_A受容体(α1β2とα1β2γ2s)のイオンチャンネル機能に対するキセノンの作用を亜酸化窒素や揮発性麻酔薬と比較検討した。その結果、GABA_A受容体のClカレントに対してキセノンが亜酸化窒素とともに賦活作用を示さないことを明らかにした。そこで、キセノンや亜酸化窒素は他の受容体に特異的に作用するのではないかと仮定し、興奮性受容体であるNMDA受容体に対する作用を検討した。再構成NMDA受容体(ζ_1ε_1)のイオンチャンネル機能に対するキセノンの作用を亜酸化窒素や揮発性麻酔薬と比較検討した。2電極固定法を用いてNMDAにより誘発されるNMDA受容体Ca^<2+>/Na^+電流に対する各麻酔薬の効果を測定した。イソフルランとセボフルランは0.5MACさらに1.0MACにおいてNMDA受容体Ca^<2+>/Na^+電流に影響しなかった。一方、臨床濃度のキセノンと亜酸化窒素はNMDA受容体Ca^<2+>/Na^+電流を濃度依存的および可逆的に抑制した。これらの結果は、揮発性麻酔薬はGABA_A受容体系に対して、キセノンと亜酸化窒素はNMDA受容体に特異的に作用することを示唆している。本研究により、キセノンは不活性ガスであるにもかかわらず作用特異性を有するという結論が得られた。
著者
吉矢 生人 山西 昭夫
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.258-261, 2021-03-01

パルスオキシメータは,今や世界中で血圧計や心電図などと同等の必要欠くべからざる医療機器となっている。その基本原理を発明し,世界で初めて脈波を利用した非侵襲的な血液酸素飽和度測定機器を開発したのが青柳卓雄博士である。 2020年4月に青柳博士のご逝去を知り,基本原理の発明にとどまることなく直近まで偽アラームの起きない真のパルスオキシメータ開発に情熱を注ぎ続けた博士を想い,寂しいかぎりである。謹んでご冥福をお祈りいたします。 筆者らとそれぞれの共同研究者らは,博士と同様の原理にもとづく光ファイバー指先型パルスオキシメータOXIMET MET-1471(ミノルタカメラ社,以下OXIMET)の開発にかかわった。当時の光ファイバー式OXIMETは現在の医療現場には影も形もないが,青柳型パルスオキシメータと現在世界中で使われているパルスオキシメータとの橋渡しの役割を担ったと考えられる。 本稿では,ミノルタカメラ社(以下,ミノルタ社)でのパルスオキシメータ開発の経緯とその臨床応用への試みについて述べる。当時の資料が散逸しており,記憶が定かでない部分もあるがご寛容いただきたい。
著者
吉矢 生人 中田 英昭 真下 節 稲垣 喜三
出版者
大阪大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1991

平成4年度の研究では、作成したストレス反応モニタシステムを用いて麻酔中の皮膚切開に伴う皮膚組織血流量の一過性低下反応出現の有無を調べ、各麻酔薬のMAC BAR(MAC that blocked the adrenergicresponse)を求めた。同時に血行動態と血中ノルエピネフリン濃度を経時的に測定し、皮膚組織血流の一過性低下反応が侵害刺激に対する交感神経反応を反映するかどうかを検索した。対象は65名のASA分類I-II度の予定手術患者で、無作為にハロセン(H群N=17)、エンフルレン(E群N=14)、イソフルレン(I群N=16)およびセボフルレン(S群N=18)単独麻酔の4群に分けて調べた。皮膚切開に伴う一過性低下反応出現の有無によって、Dixonのup-and-down法にしたがってMAC BARを求めた。得られたMAC BAR値は、ハロセン1.35%(1.75MAC)、エンフルレン2.25%(1.34MAC)、イソフルレン2.01%(1.75MAC)、セボフルレン2.77%(1.62MAC)であった。ハロセン、イソフルレンおよびセボフルレンでは近似したMAC値であったが、エンフルレンでは他の麻酔薬に比べてかなり小さな値となった。一方、皮膚切開前後のRPP(rate pressure product)の増加は4群共に一過性低下反応が出現した症例群で出現しなかった症例群に比べて大きいかまたは大きい傾向がみられた。また、4群共に、皮膚切開前後の血漿ノルエピネフリン濃度の増加の程度も、一過性低下反応が出現した症例群で出現しない症例群よりも大きいかまたはその傾向がみられた。以上の結果から、皮膚組織血流の一過性低下反応は侵害刺激に対する交感神経反応を反映していると結論した。本研究において作成したレーザー・ドプラー組織血流量計を用いたストレス反応モニタシステムは麻酔中のストレスに対する交感神経反応モニタとして臨床的に有用であると考えられる。