著者
冨山 太佳夫 川津 雅江 大石 和欣 梅垣 千尋 吉野 由利 山口 みどり 高橋 和久 川島 昭夫
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

18世紀後半から19世紀前半にかけてのイギリスにおいて、社会の多様化や消費文化の進展、国外への帝国主義的覇権の伸長が起こった結果、イギリス国内にいる女性にとっても公共圏が複層的、複次元的に展開していった。「私/公」の境界線は、ジェンダーによってはもとより、社会階層によっても、また家族構成によっても、まったくそうなる形で形成され、その複層性・多元性の実態を文学および歴史資料の中から精査した。同じ女性であっても状況によって複数の境界線が存在し、意識されていたのであり、さらにはその境界線自体が明瞭なものではなく、曖昧なグレイ・ゾーンであったことである。Mary WollstonecraftやCharlotte Smithのような女性とHannah MoreやJane Austenそれぞれが、一定の範囲内であいまいな「公共圏」を想定し、そこに共存しつつも、消費、政治、宗教、情報、地域といった様々な領域において異なるpublic/privateの境界線を意識し、言説として公表してきた。全体として、家庭イデオロギーが19世紀初頭にかけて支配的になっていくのは明らかであるが、しかしその状況において女性たちは異なる「公/私」の境界線上を往還運動していたのである。
著者
吉野 由利
出版者
一橋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、「国民小説」においてイングランドの文化的他者として構築されるアイルランド像とオリエント像の交錯を検証した。特に、人物造形および語りの戦略における"auto-exoticism"の例に注目しながら、"auto-exoticism"は、「国民小説」のサブジャンルを確立したEdgeworthやOwensonらがアングロ=アイリッシュ系女性作家としてのアイデンティティと、連合王国の中での自分たちの文化的な立場を正当化することを可能にしていることを指摘した。また、リアリズムを模範とする19世紀イギリス・アイルランド小説史観の見直しも試みた。