- 著者
-
向 晃佑
- 出版者
- 日本質的心理学会
- 雑誌
- 質的心理学研究 (ISSN:24357065)
- 巻号頁・発行日
- vol.15, no.1, pp.159-170, 2016 (Released:2020-07-10)
- 被引用文献数
-
2
イップスは競技中必要な動作が練習場面においても上手くいかなくなるという点であがりやスランプと異なる特有の状態であり,このことが原因で競技を辞めている選手が多く存在している。本稿ではイップス状態に陥る前からイップス状態から抜け出すまでの過程に着目し,複数の体験を比較し,その心理的プロセスを類型化することを目的とした。野球における送球イップスの経験のある7名の男性の調査協力者を対象に半構造化面接を行い,複線径路・等至性モデル(TEM)を用いて分析を行った。結果として,イップスの症状は「限定的な場面で暴投が続く段階」と「送球全般で暴投が続く段階」の2段階に分けられた。またイップス経験者は「暴投の原因を精神的なものと思う」という経験をしていた。この経験は暴投の原因が技術的なものか精神的なものかという葛藤の苦しみを軽減する一方で,暴投を繰り返す悪循環を強化するような経験であることが示された。イップス状態から抜け出す過程においては,できる送球を繰り返し成功体験を積み重ねていく,時間的な間を置くといった送球に対する捉え方が変化するような経験の有効性,また周囲の理解が早期克服につながることが示された。