著者
畑中 悠佑 和田 圭司 株田 智弘
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.115-120, 2015 (Released:2017-02-16)
参考文献数
41

自閉症スペクトラム障害は多遺伝子疾患であるが,近年,環境要因との相互作用にも注目が集まっている。一方で,子宮内で高濃度の男性ホルモンであるテストステロンに曝露された子どもは自閉症様の行動を示すことが,ヒトと動物モデルの研究の両方から明らかになっている。このことから本総説では,母体の子宮内環境における性ホルモンの異常が及ぼす子どもの脳発達への影響について,主にシナプス機構の観点から論じる。また,近年の発達障害モデル動物を用いた研究から,複数の発達障害モデルに共通する病的表現型として,シナプスの不安定性が認められることが明らかになってきた。さらに,興味深いことに,このシナプス不安定性は発達障害モデルのみならず,神経変性疾患モデルでも認められる普遍的な病態である。本総説では,シナプス不安定性という共通項が,精神神経疾患の病因論にもたらす意味について考察する。
著者
和田 圭司
出版者
国立精神・神経センター
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

ボンベシンは多彩な生理作用を持つ生理活性ペプチドであり、その作用を介達する受容体については哺乳類でGRP受容体、NMB受容体、BRS-3の3種が知られている。ボンベシンシステムは内外分泌、代謝の調節や行動の制御などに関係することが示唆されているが各受容体の脳機能における生理的役割をより詳細に個体レベルで検討するためGRPおよびNMB受容体並びにBRS-3欠損マウスの作製を行った。これら遺伝子欠損マウスを用い研究期間中に行動科学的研究を推進し、GRP受容体欠損マウスが非攻撃性の社会相互作用の亢進及び活動期(夜間)の運動量の増加を示すこと、さらに、社会的探索行動の亢進を認め、それが嗅覚情報処理の障害から来る可能性の高いことを見いだした。また、BRS-3欠損マウスでは中枢性の肥満、高血圧、糖代謝障害を呈するとともに、野生型に比して甘味をより嗜好し苦味をより嫌悪する傾向にあって味覚学習も障害されていることを見い出した。さらに、社会的刺激の剥奪がBRS-3欠損マウスの体重増をより促進すること、同じく野生型で認められる社会的刺激の剥奪による自発運動量の亢進がBRS-3欠損マウスでは認められないことを見出した。これらの結果はBRS-3欠損マウスでは情動反応性、社会的反応性が障害されていることを示唆する。行動科学的解析を中心にした本研究は、ボンベシンシステムの脳機能における役割が情動の多面的調節であることが示すものである。なお、未知であるBRS-3の内在性リガンドの分子生物学的同定を試みたが候補となる分子の同定にはいたらなかった。