著者
山田 格 和田 志郎
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では,台湾,タイ,中国,韓国の54施設に所蔵されている計93個体の中型ナガスクジラ属標本について,形態学的ならびに分子生物学的調査を行い,形態学的には38個体,分子生物学的には24個体のツノシマクジラ(Balaenoptera omurai)を確認した.調査の過程でツノシマクジラとの誤同定の可能性が取りざたされていたいわゆるニタリクジラ(Bryde's whales)に含まれるカツオクジラ(Balaenoptera edeni),ニタリクジラ(Balaenoptera brydei)は,それぞれ35個体(形態),23個体(分子)と形態および分子とも1個体であったが,カツオクジラ(B.edeni)のタイプ標本(カルカッタのインド博物館で展示中)と,当初からタイプ標本が存在しないニタリクジラ(B.brydei)については,タイプロカリティで収集されたBryde's whaleとされる標本の精査を行った.また,国立科学博物館独自の予算で,フィリピンおよびインドネシアで調査した個体で全般的にはB.edeni-B.brydei Complexの特徴をもちながら,頭頂骨の形態が異なっている個体に遭遇したが,これらは南アフリカのニタリクジラ(B.brydei)のタイプロカリティで収集された個体にも見られる特徴であることを確認した.従来,タイプロカリティ(響灘,ソロモン海)のみで知られていたツノシマクジラの分布範囲は北緯40°から南緯40°,東経90°から140°の範囲であることを確認した.また,おそらくツノシマクジラは相対的に沿岸性で,カツオクジラと類似しているが,ニタリクジラはかなり外洋性である可能性が高い.タイ湾では,北緯8°付近を境界に,それより北ではカツオクジラ,南ではツノシマクジラが収集されていることが注目される.
著者
山田 格 Chou Lien-Siang Chantrapornsyl Supot Adulyanukosol Kanjana Chakravarti Shyamal Kanti 大石 雅之 和田 志郎 Yao Chou-Ju 角田 恒雄 田島 木綿子 新井 上巳 梅谷 綾子 栗原 望
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.1-10, 2006

台湾,タイ,インドの研究施設に保存されている中型ナガスクジラ属鯨類標本22点を調査し,骨格の形態学的特徴から,ミンククジラBalaenotera acutorostrata 4点,カツオクジラB. edeni 7点,ニタリクジラB. brydei 1点,ツノシマクジラB. omurai 10点を確認した.1970年代以来議論は提起されていたもののWada et al.(2003)が記載するまで不明瞭であったツノシマクジラの標本点数が相対的に多かったことは特筆に値する.本研究の結果は,これまで混乱が見られたいわゆる「ニタリクジラ類」の分類学的理解を解きほぐすものである.さらにこの混乱を完全に解決するためには,とくにカツオクジラのホロタイプ標本の分子遺伝学的調査が強く望まれる.