著者
浅野 由ミ 上北 尚正 河西 恭子 遠藤 秀紀 山田 格 佐分 作久良 山内 啓太郎 東條 英昭 名取 正彦 舘 鄰
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.70, no.10, pp.351-362, 1999-10-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
34

絶滅種や稀少種の機能遺伝子を解析することは,遺伝子資源の保全や進化学的研究の見地から重要な課題である.本研究は,毛皮あるいは剥製標本の表皮から効率的にゲノムDNAを抽出する方法を開発し,絶滅種や稀少種の機能遺伝子を解析することを最終的な目的として行ったものである.一般に,絶滅種や希少種の剥製•毛皮標本は数も少く,貴重であるので,DNA抽出のような,破壊的解析のための材料を入手することは,困難な場合が多い.従来報告されている古代DNAの抽出法では,いずれも,抽出のために比較的大きな標本片を用いており,少量の標品しか入手できない場合には適用できない.本研究では,特に,原材料となる剥製や毛皮標本の形をできるだけ損傷しないことに留意し,約1mm角の毛皮断片からゲノムDNAを効率よく抽出する方法の確立と,PCR解析を行うための条件の検討を行った.また,本研究で確立した方法を用いて,製作年次の異なる食肉目動物毛皮標本から回収したゲノムDNAをテンプレートとして,歯のエナメル質タンパク質をコードしているアメロゲニン遺伝子断片の回収と塩基配列の解析を試みた.結果の一部として,モンゴルオオカミの毛皮標本から抽出したゲノムDNAのアメロゲニン遺伝子の配列の一部を解読することができたので,イヌ(ゴールデンリトリーバー)の血液から抽出したゲノムDNAのアメロゲニン遺伝子の配列と比較したところ,モンゴルオオカミとイヌの配列は100%一致したが,イヌの品種間,あるいは個体差による配列の多型が存在する可能性もある。イヌ,オオカミのアメロゲニン遺伝子の塩基配列は従来報告が無く,部分的ではあるが配列が決定されたのは本論文が始めてである.イヌとオオカミの種間の違い,および,イヌの品種間の多型については,今後,さらに検討が必要である.
著者
酒井 幸子 林 亮太 村田 浩一 山田 格 浅川 満彦
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.81-84, 2009-03

紀伊半島沖で捕獲されたシャチOrcinus orca 1個体(成熟雄)の体表から甲殻類2種(フジツボ類[蔓脚下綱]1個体およびクジラジラミ類[軟甲綱]22個体)が得られた。本研究では,約20年間にわたり保存されていたこれら標本について,形態学的に検討した。その結果,フジツボ類はエボシフジツボXenobalanus globicipitis(Coronulidae)と同定された。本種は日本含め世界各地のクジラ類で報告があるが,シャチでは初記録となった。一方,クジラジラミ類は,Cyamus属であったが,未成熟であったため種の同定はできなかった。クジラ類の着生生物は片利共生体(例えば便乗phoresyなど)であるが,地中海のイルカ類ではX.globicipitisおよびエボシガイ類(LepasおよびConchoderma:エボシガイ科)の寄生個体数は,イルカ類の遊泳速度減少により有意に上昇し,特に致死直前に顕著になるという。よって,外部寄生虫の種(標本の保存),寄生数,寄生部位,同部の病変などの記録は,健康管理上のデータの一部として活用されるであろう。
著者
南部 久男 徳武 浩司 石川 創 大田 希生 藤田 健一郎 山田 格
出版者
日本セトロジー研究会
雑誌
日本セトロジー研究 (ISSN:18813445)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.17-22, 2009 (Released:2019-12-04)

2005年春に東京湾に出現したコククジラの出現状況を調査した。このコククジラは4月中旬から5月初旬にかけて東京湾内で目撃され、5月11日に千葉県南房総市旧富山町沖1kmの小型定置網で混獲されて死亡した。筆者等は5月5日から10日の間に東京湾の3海域(千葉県袖ヶ浦市沖、同県習志野市沖、神奈川県横須賀市〜横浜市沖)でこのコククジラを観察する機会を得た。いずれの出現海域も沿岸の浅海で、袖ヶ浦市沖(沖合50〜100m、最短20m程)と習志野市沖(沖合10m〜100m)では索餌をしていたと考えられ、横須賀市〜横浜市沖(沖合100〜1400m、水深11〜18m)では沿岸にそって北へ遊泳していた。本個体は東京湾へ迷入したものと思われる。観察結果からは泥底での摂餌嗜好性、北上しようとする意図があった可能性などを窺うことができた。
著者
南部 久男 関 東雄 田島 木綿子 山田 格
出版者
富山市科学博物館
雑誌
富山市科学博物館研究報告 = Bulletin of the Toyama Science Museum (ISSN:1882384X)
巻号頁・発行日
no.40, pp.99-101, 2016-06-20

2015年の富山湾(富山県側)で鯨類の漂着,目撃情報を収集した.2015年はマイルカ科のカマイルカLagenorhynchus obliquidens の漂着6例6個体,目撃3例と,ネズミイルカ科のイシイルカ(イシイルカ型)Phocoenoides dalliの漂着が1例1個体確認された.両種とも富山湾では既知種である.カマイルカの12月の目撃情報は,北上初期に富山湾へ来遊した個体と考えられ,富山湾では最も早い時期のカマイルカの目撃情報であった.イシイルカは富山湾での記録は少なく,今回が3例目であった.
著者
浅野 由ミ 舘 鄰 上北 尚正 河西 恭子 遠藤 秀紀 山田 格 佐分 作久良 山内 啓太郎 東條 英昭 名取 正彦
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.70, no.10, pp.351-362, 1999

絶滅種や稀少種の機能遺伝子を解析することは,遺伝子資源の保全や進化学的研究の見地から重要な課題である.本研究は,毛皮あるいは剥製標本の表皮から効率的にゲノムDNAを抽出する方法を開発し,絶滅種や稀少種の機能遺伝子を解析することを最終的な目的として行ったものである.一般に,絶滅種や希少種の剥製•毛皮標本は数も少く,貴重であるので,DNA抽出のような,破壊的解析のための材料を入手することは,困難な場合が多い.従来報告されている古代DNAの抽出法では,いずれも,抽出のために比較的大きな標本片を用いており,少量の標品しか入手できない場合には適用できない.本研究では,特に,原材料となる剥製や毛皮標本の形をできるだけ損傷しないことに留意し,約1mm角の毛皮断片からゲノムDNAを効率よく抽出する方法の確立と,PCR解析を行うための条件の検討を行った.また,本研究で確立した方法を用いて,製作年次の異なる食肉目動物毛皮標本から回収したゲノムDNAをテンプレートとして,歯のエナメル質タンパク質をコードしているアメロゲニン遺伝子断片の回収と塩基配列の解析を試みた.結果の一部として,モンゴルオオカミの毛皮標本から抽出したゲノムDNAのアメロゲニン遺伝子の配列の一部を解読することができたので,イヌ(ゴールデンリトリーバー)の血液から抽出したゲノムDNAのアメロゲニン遺伝子の配列と比較したところ,モンゴルオオカミとイヌの配列は100%一致したが,イヌの品種間,あるいは個体差による配列の多型が存在する可能性もある。イヌ,オオカミのアメロゲニン遺伝子の塩基配列は従来報告が無く,部分的ではあるが配列が決定されたのは本論文が始めてである.イヌとオオカミの種間の違い,および,イヌの品種間の多型については,今後,さらに検討が必要である.
著者
関谷 伸一 南部 久男 西岡 満 西脇 薫 栗原 望 田島 木綿子 山田 格
出版者
日本セトロジー研究会
雑誌
日本セトロジー研究 (ISSN:18813445)
巻号頁・発行日
no.21, pp.1-8, 2011
被引用文献数
1 3

カマイルカの頚椎と腕神経叢を、肉眼解剖学的に検討した。7個の頚椎のうち、環椎と軸椎はほぼ完全に融合していたが、第3頚椎以下は分離したままであった。腕神経叢は第3-8頚神経(C3-C8)および第1胸神経(T1)から構成された。これらの7本の神経根が合流しあい、左側で3本、右側で4本の神経幹となった。これらの神経幹が合して、一本の背腹に扁平な帯状の神経束となり、腋窩に達した後、上肢帯筋の筋枝と胸びれの神経を放射状に分岐した。横隔神経と肩甲上神経は、腕神経叢の頭側縁から分岐した。胸筋神経は神経束の腹側面から分岐した。神経叢の背側面からは、肩甲下神経、腋窩神経、橈骨神経、大円筋枝と広背筋枝が分岐した。正中神経と尺骨神経は共同幹をなし、前腕で多数の皮枝を分岐したのち、掌側指神経となった。この共同幹の近位部から、筋皮神経と思われる枝が分岐した。costo-coracoid筋(小胸筋)には胸筋神経と横隔神経からの枝、あるいは腕神経叢から直接分岐した枝が分布していた。頚部の短縮にともなって、腕神経叢を構成する脊髄神経の分節数が増加することがうかがえた。
著者
山田 格 和田 志郎
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では,台湾,タイ,中国,韓国の54施設に所蔵されている計93個体の中型ナガスクジラ属標本について,形態学的ならびに分子生物学的調査を行い,形態学的には38個体,分子生物学的には24個体のツノシマクジラ(Balaenoptera omurai)を確認した.調査の過程でツノシマクジラとの誤同定の可能性が取りざたされていたいわゆるニタリクジラ(Bryde's whales)に含まれるカツオクジラ(Balaenoptera edeni),ニタリクジラ(Balaenoptera brydei)は,それぞれ35個体(形態),23個体(分子)と形態および分子とも1個体であったが,カツオクジラ(B.edeni)のタイプ標本(カルカッタのインド博物館で展示中)と,当初からタイプ標本が存在しないニタリクジラ(B.brydei)については,タイプロカリティで収集されたBryde's whaleとされる標本の精査を行った.また,国立科学博物館独自の予算で,フィリピンおよびインドネシアで調査した個体で全般的にはB.edeni-B.brydei Complexの特徴をもちながら,頭頂骨の形態が異なっている個体に遭遇したが,これらは南アフリカのニタリクジラ(B.brydei)のタイプロカリティで収集された個体にも見られる特徴であることを確認した.従来,タイプロカリティ(響灘,ソロモン海)のみで知られていたツノシマクジラの分布範囲は北緯40°から南緯40°,東経90°から140°の範囲であることを確認した.また,おそらくツノシマクジラは相対的に沿岸性で,カツオクジラと類似しているが,ニタリクジラはかなり外洋性である可能性が高い.タイ湾では,北緯8°付近を境界に,それより北ではカツオクジラ,南ではツノシマクジラが収集されていることが注目される.
著者
山田 格 Chou Lien-Siang Chantrapornsyl Supot Adulyanukosol Kanjana Chakravarti Shyamal Kanti 大石 雅之 和田 志郎 Yao Chou-Ju 角田 恒雄 田島 木綿子 新井 上巳 梅谷 綾子 栗原 望
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.1-10, 2006

台湾,タイ,インドの研究施設に保存されている中型ナガスクジラ属鯨類標本22点を調査し,骨格の形態学的特徴から,ミンククジラBalaenotera acutorostrata 4点,カツオクジラB. edeni 7点,ニタリクジラB. brydei 1点,ツノシマクジラB. omurai 10点を確認した.1970年代以来議論は提起されていたもののWada et al.(2003)が記載するまで不明瞭であったツノシマクジラの標本点数が相対的に多かったことは特筆に値する.本研究の結果は,これまで混乱が見られたいわゆる「ニタリクジラ類」の分類学的理解を解きほぐすものである.さらにこの混乱を完全に解決するためには,とくにカツオクジラのホロタイプ標本の分子遺伝学的調査が強く望まれる.