著者
松原 康策 仁紙 宏之 岩田 あや 内田 佳子 山本 剛 常 彬 和田 昭仁
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.86, no.1, pp.7-12, 2012
被引用文献数
2

わが国の小児期侵襲性肺炎球菌感染症 (invasive pneumococcal disease,IPD) の季節変動とそれに関連する因子を明らかにするために,地域中核病院小児科で IPD 患者を後方視的に検討した.対象は,1994 年7 月から2011 年 6 月までの 17 年間に西神戸医療センター小児科で IPD と診断された 15 歳以下の 72 例 (2回の反復例を3 例に認め,患者数は 69 症例) である.疾患内訳は occult bacteremia 48 例,肺炎10 例,髄膜炎10 例,眼周囲蜂窩織炎3 例,乳突洞炎1 例であった.IPD の関連因子として,1) 月齢,2) 同胞数,3) 未就学の同胞数,4) IPD 発症時の本人の保育園・幼稚園の通園の有無,5) 未就学の同胞がいる場合にその同胞の通園の有無の 5 因子を,カルテ記載または電話問診で調査した.季節変動の結果は,4~5 月 (n=21) と 11~12 月 (n=20) の二峰性のピークを形成し 7~9 月 (n=8) の夏季に最も少なかった.4~5 月の 21 例はその他の月に発症した 51 例と比較して,本人の通園している割合 (4~5 月群vs その他の月に発症群,12/21[57.1%]vs 12/51[23.5%];odds ratio,4.3;95% confidence interval,1.5~12.8;p=0.006) においても,また,本人,かつ/または,同胞が通園している割合 (17/21[80.9%]vs 27/51[52.9%];odds ratio,3.8;95% confidence interval,1.1~12.8;p=0.027) においても有意に高かった.しかし,発症月齢 (中央値:14 カ月 vs 15 カ月),同胞数 (0 人[9 例],1 人[11 例],2 人[1 例]vs 0 人[21 例],1 人[27 例],2 人[2 例]),未就学同胞数は 2 群間に相違を認めなかった.一方,11~12 月の第 2 峰群とその他の月群においては上記 5 因子に有意な相違を認めなかった.<BR> 以上から,わが国の小児期 IPD は二峰性の季節変動を示し,4~5 月のピークは通園者が有意に多いことが判明した.4 月からの集団保育への参加が肺炎球菌の保菌率の上昇をもたらし,4~5 月の小児期 IPD のピークを形成する重要な要因のひとつと推測された.
著者
岡崎 則男 鈴木 理恵子 佐多 辰 大沢 朗 渡辺 祐子 山井 志朗 和田 昭仁 渡辺 治雄
出版者
JAPANESE SOCIETY FOR BACTERIOLOGY
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.505-511, 1997-04-25
被引用文献数
11 4

ベロ毒素産生性大腸菌 (VTEC) O157の増菌培養法につき, VTEC O157分離株を供試して検討した。トリプティケースソイブロス (TSB) において, 供試した5株のVTEC O157は培養温度 (36°C, 42°C) に係わらず旺盛な増殖を示したが, TSBにセフィキシム (CFIX), 亜テルル酸カリウム (PT) およびバンコマイシンを添加したTSB-CTVにおいては36°Cの培養で1株, 42°Cでは4株の増殖が阻止された。mECにノボビオシン (NB) を添加したmEC-NBの36°Cにおける培養では, 1株の増殖が8時間まで抑制されたものの, 24時間後の増殖は5株共に良好であった。しかし, 42°Cで培養すると, 5株中3株の増殖が阻止された。VTEC O157分離株90株のCFIX, PTおよびNBに対する感受性値 (MIC; μg/ml) は全てこれらの薬剤の培地添加濃度以上に分布した。このように, mEC-NBおよびTSB-CTVにおけるVTEC O157の増殖には培養温度が強く影響し, 42°Cでは著しい増殖阻害が認められた。従って, これらの培地は36°Cで使用するのがより適切であり, 特に, mEC-NBを42°Cで使用する現行の培養法には問題があると考えられた。また, これらの選択増菌培地に加えて, TSB等の非選択増菌培地を併用するのが好ましいと考えられた。