著者
和田 晴吾
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.152, pp.247-272, 2009-03-31

古墳での人の行為を復元し,遺構や遺物を検討することで,前・中期の古墳を,遺体を密封する墓としての性格と,「他界の擬えもの」としての性格の,二つの面から捉えようと試みた。この段階では,人は死ぬと魂は船に乗って他界へと赴くとされたが,遺体は棺・槨内に密封され,そのなかで生前のような生活を送るとは考えられなかった。奈良県巣山古墳で発見された船は,実際の葬送の折に,魂が他界へと旅立つ様子を現実の世界で再現するためのものだった。他界の内容は,船に乗って他界へと至った死者の魂は,くびれ部の出入口で船を降り(船形埴輪),禊をし(囲形埴輪),斜面を登った岩山の頂上の防御堅固で威儀を正した居館に棲むが,そこは飲食物に満ち,日々新たな食物が供えられるといったものだった。葺石や埴輪や食物形土製品は他界を演出するための舞台装置や道具立てで,中期中・後葉には,これに人物・動物埴輪が加わった。しかし,横穴式石室が採用されると地域差が顕在化する。後期に石室が普及した畿内では,石室は「閉ざされた棺」を納める「閉ざされた石室」で,遺体は,前代同様,棺内に密封され,玄室内は死者の空間とはならなかった。墳丘に人が登らなくなり,舞台装置や道具立ては形骸化しだしたが,古墳は「他界の擬えもの」として存続し,石室は「槨」的な性格を受けついだ。一方,中期に石室が採用されだす九州北・中部では,石室は「開かれた棺」を備える「開かれた石室」で,そこは死者が生前と同じような生活を続ける空間となった。その場合,家形埴輪とは別に死者の棲む家が用意されるが,玄室の天井が天空を表しそのなかに家形の施設を配する場合と,玄室空間そのものを死者の宿る家とする場合とがあった。『古事記』の黄泉国訪問譚の舞台は前者にあたる。ここでは,墳丘上の他界と,石室内部の他界の,二つの性格の異なる他界が入れ子状態で共存した。このような棺や石室の系譜は,中国の北朝や高句麗の一部に求めることができる。
著者
西村 康 和田 晴吾 斎藤 正徳 中条 利一郎 鈴木 努 道家 達將 稲田 孝司
出版者
奈良国立文化財研究所
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

重点領域研究『遺跡探査』では、地下に埋没している遺跡・遺構のみならず、地上に遺存する文化財も含めて、それらが包含する歴史情報をもれなく収集するための、格段に進歩した遺跡探査専用の装置と方法を開発することを目的とした。目的を達成するためには、理工学の研究者と考古学を中心とする人文学研究者とが緊密な連携のもとに、共同研究をすることが必須である。そこで、総括班では装置の設計段階、遺跡の実際での実験的測定、応用測定において、両分野の研究者が検討あるいは共同作業をするための環境設定を優先事項として考え、研究会議などの機会を数多く設定してきた。研究では、1)地中レーダー探査、2)電気探査、3)磁気探査、4)超音波探査においてぞぞれ装置と方法を開発、5)化学・光学探査では熱履歴を特定する手法を考案した。一方、遺跡の実際における探査では、1)被熱の遺構を特定する手法として、磁気探査、帯磁率測定、磁化率測定を組み合わせる方法を開発、2)石造構造物を対象とする場合には、地中レーダー探査、電気探査、VLF探査の方法を用いれば、遺構が推定可能なことを実証、3)土層判別探査(含:金属有機物探査)では、パルス(チャープ)レーダー探査、FM-CWレーダー探査、電気探査と電磁誘導探査の方法を応用すれば、有効な成果が得られることを実証した。なお、総括班では研究の進行に伴う成果の公表を逐次発表するために、公開シンポジウムを開催、ニュースレターを刊行してきた。また、研究成果を世界にアピールすること、正当な評価を得ることを目的に、平成9年9月には伊勢市において『第2回国際遺跡探査学会』を開催したところである。