著者
喜多 祐荘
出版者
日本精神衛生学会
雑誌
こころの健康 (ISSN:09126945)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.55-66, 2001

健忘症あるいは老年性痴呆といわれている人は, 実際には, 自らの意思をもつ人間である。とくに, 逆向性記憶障碍 (アルツハイマー症候群を代表とする) を中核とする人々は, その個別の記憶喪失年代を越えて, 自らの再生可能な体験と現在の状況を統合することにより, 面接者との共感関係, 役割関係, 生活実践関係を作ることが可能である。また, 家族や援助者が, これらの人々との共感関係, 役割関係, 生活実践関係を作ることが可能である。この基本的仮説=人間観・障碍観の前提のもとに, 面接者が逆向性記憶障碍の人々の記憶 (長期) の再生を促し, 共感関係をつくり, 受容・肯定・支持の構造を保持することにより, 本人の記憶再生, 共感関係, 自己統合の意識活動を保証しようとする-これが「人生回想面接」の基本的特質である。本稿では, 筆者が考案した「人生回想面接」の技法を紹介するとともに, この援助技術を逆向性記憶障碍の人へ適用した結果を報告する。これらの実践を通して, 逆向性記憶障碍の人の意識活動において, つぎのことが明らかになった。(1) 長期記憶の中に, 人生の大切な, 又は, 未解決の体験が豊かに保存されている。(2) 記憶の最新映像を「現在の自分の世界」として感じ, 解釈している。(3) 関心を集中して映像を甦らせつつ, それを相手に語り続けられる。(4) 自己の体験の映像と感情を表現し, それを客観的に見て解釈し直せる。(5) 自己と環境との関係を解釈し, 相手の言動を予測し, 自己の行動を決めることができる。また, 面接者による効果的な面接の態度・技法の内容が明らかになった。
著者
花澤 佳代 喜多 祐荘
出版者
東海大学
雑誌
東海大学健康科学部紀要 (ISSN:13474162)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.103-107, 1997

今回、精神病院に勤務する若い世代の精神医学ソーシャルワーカー(以下、PSW)を対象に、業務内容・専門職としての意識について調査を実施した。精神保健福祉士の国家資格化が図られようとしている状況の中で、国家資格に対する意識を通じPSWの専門性の意識に焦点をあてた。調査結果からは以下の点が明らかになった。1.国家資格化の実現により、PSWの社会的な身分の保証がされると考えられていること。2.PSWの国家資格化が図られることで、クライエントに対して、何らかのプラスになる援助が可能になると考えているPSWが多いこと。3.各精神病院においては運営上の格差があり、それによりPSW業務に違いが大きくあること。4.現状におけるPSW業務は、個別援助の割合が高いこと。5.PSWの専門性は知識であると考えられていて、国家資格化により社会福祉に基盤を置いた共通の専門性が生まれてくると考えているPSWが多いこと。