著者
船水 浩行
出版者
東海大学
雑誌
東海大学健康科学部紀要 (ISSN:13474162)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.31-42, 1999

わが国の公的扶助制度とされる生活保護制度は、昨今の経済不況による貧困問題の深刻化、「行政改革」「社会保障構造改革」「社会福祉基礎構造改革」等の流れの中で新たな局面を迎えながら、その「使い勝手の悪さ」が課題となっている。生活保護法とその実施体制の「使い勝手の悪さ」がなぜ生じてきたのかを、制度発足の経緯から考察した。現行生活保護法は「最低限度の生活保障」という社会保障的目的とともに、「自立の助長」という社会福祉的目的を規定した。このため、当初から、「自立の助長」をどう解釈し、その方法とされた「ケースワーク」をとおしてどのような援助を行うものと位置づけていくのかが運用、実施上の課題点となり、現在の「使い勝手の悪さ」を生み出す一因となったことが示唆された。
著者
西原 留美子 佐久間 志保子
出版者
東海大学
雑誌
東海大学健康科学部紀要 (ISSN:13474162)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.9-18, 2007

成年後見制度は、判断能力が不十分な人の身上に配慮しつつ、「本人意思を尊重した自己決定の尊重」と「本人の保護」との調和を図ることを制度の理念としている。しかし、判断能力が不十分な人の意思確認は困難を要する場合も多く、本人の最善の利益を成年後見人等が本人に代わって判断しなければならない。社会福祉士が成年後見活動を行う際には、身上に配慮した生活支援のあり方について何を根拠に決定したのか、専門職としての説明責任を果たさなければならない。そのためにはアセスメント項目を明確にする必要があると考え、本研究を開始した。本稿は研究の第一段階として、実際に後見活動を行っている社会福祉士に聴き取り調査を行った結果報告の第一報である。5事例を分析した結果、「安定した生活環境がある」「本人からの訴えの有無」「社会通念」「家庭裁判所の判断」「経済状態」「家族状況」といった要素を見出すことができた。
著者
田爪 正氣 糠信 憲明 築地 真実 佐々木 和歌子 芝川 敬美 塚本 祥子 尾添 聡美 潮田 恵子 田口 友美
出版者
東海大学
雑誌
東海大学健康科学部紀要 (ISSN:13474162)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.69-72, 1999

院内感染の発生を防ぐためには感染経路の遮断が重要である。そこで感染経路の1つとして洋式トイレを取り上げ、病院外来待合い室にある洋式トイレの便座上における細菌学的汚染調査を行ってメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の検出を試みた。1)洋式トイレの便座上における付着総菌数の多少は、使用者の清潔意識や業者による掃除が関与していると推察できる。2)トイレを使用する前に便座上をトイレットペーパーで拭くことは付着総菌数を減少させ、清潔にする効果が認められた。3)外来待合い室の洋式トイレにおける便座上から分離された黄色ブドウ球菌136集落から、MRSAが14集落(10.3%)検出された。不特定多数の人が間接的に皮膚を接触させる外来トイレの便座は院内感染源の1要因としてあげることができる。易感染状態にある患者が院内にある洋式トイレの便座から感染する危険性もあり、清掃業者へ院内感染防止に関わる教育を施す必要性が認められた。
著者
本名 靖
出版者
東海大学
雑誌
東海大学健康科学部紀要 (ISSN:13474162)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.107-115, 1995

介護福祉学は学会ができたばかりの非常に新しい学問である。それ故、その概念規定がまだ充分ではなく、独自性と専門性についても多くの論議がなされている。介護福祉の概念規定に関する論文も少なく、実践のなかから述べられたものはごくわずかで、その多くは、研究者が現状を整理したにすぎない。そこで、本論は一番ケ瀬が日本介護福祉学会設立準備会の基調講演で取り上げている介護福祉の専門性と独自性をまず吟味し、筆者の実践のなかで整理してきた介護福祉の概念を規定している。介護福祉の概念規定に際し、川廷等が用いた、「障害の構造」との関連で問題を整理し、上田の提唱する「生の構造」を基礎に、介護福祉の概念を規定している。その際、介護福祉と看護、社会福祉援助技術との関係も明らかにしている。さらに、自立生活運動の捉える「主体」との関連で介護福祉の本質にも言及しようとするものである。
著者
村田 久行
出版者
東海大学
雑誌
東海大学健康科学部紀要 (ISSN:13474162)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.29-38, 1996

対人援助の実践の場において、「傾聴」はそれ自身で援助として独自の意味をもっているのではないか。このことはこの数年の傾聴ボランティアの養成と実践の経験から想定される。この研究はこのような経験的事実から傾聴の援助的意味を解明する理論的な基礎を探究しようとするものである。研究の方法として、援助者と被援助者との「自己-他者」関係を存在論的側面から明きらかにするために、「独我論を語ること」の意味の考察から「語る-聴く」場での援助者の他者に対する態度の分析を行う。そして援助者が自ら「聴く」態度をとることによって、傾聴が他者に存在を与えることを明きらかにする。さらに対人援助における傾聴の援助的意味を「他者の存在の回復と支持」にあると結論する。
著者
豊田 淑恵 田爪 正氣 武井 泰 西野 廣子 菊池 由美 築地 真実
出版者
東海大学
雑誌
東海大学健康科学部紀要 (ISSN:13474162)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.29-35, 2005

東海大学医学部付属病院NICUにおけるメチシリン耐性ブドウ球菌による汚染状況を把握するため、細菌学的環境調査を実施した。調査対象はNICU室内空気、保育器および哺乳瓶保温器内水(保温水)である。その結果、NICUは空調管理システムによって、微生物数のコントロールがなされており、清潔区域としての機能を有していることが明らかとなった。しかし、空中浮遊菌から分離されたブドウ球菌の44%がメチシリン耐性菌であった。また、患児口元タオルから分離されたブドウ球菌の99%、保育器の袖窓からは97%、クベースカバーからは84%、保温水からは22%のメチシリン耐性ブドウ球菌が検出された。したがって、NICUの室内空気ばかりでなく医療器具などの物品にもメチシリン耐性ブドウ球菌の付着が明らかになった。
著者
村田 久行
出版者
東海大学
雑誌
東海大学健康科学部紀要 (ISSN:13474162)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.109-114, 2000
被引用文献数
3

対人援助においてなぜ他者の理解が必要なのか、それはどのような援助的意味を持つのか。あるいは、他者の理解とは何をどうすることなのか。それは具体的な援助技術としてどのように可能なのか。また、その技術を身につけるには、どのような教育と訓練を必要とするのか。これらの根本的な問いに答えるために、この研究では現象学的なアプローチで援助者とクライエントの関係性を研究し、対人援助における専門的な援助関係の中での「他者の理解」の意味と特性を解明することを試みた。結論として、対人援助における他者の理解は、援助者とクライエントとの専門的な援助関係の相互作用、循環性、固有性に基づき、援助者とクライエントの相互理解の状態を実現することから、クライエントに最適の援助を構成するために、そして理解されると人は生きる意欲を回復するゆえに重要であることが明らかにされた。
著者
岡 茂
出版者
東海大学
雑誌
東海大学健康科学部紀要 (ISSN:13474162)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.51-56, 2000

疾病・障害をもつ人間の生き方における課題を、一回限りの独自の生命としての価値実現、外在的ではなく内在的な価値基準に転換していくことと捉えた。そのために、同質性志向対独自性志向、競争志向対協同志向、自己肯定感、目標行動という4要因を生き方・価値観の骨格と考え、それぞれについて考察した。次に、4要因中の2要因の組合せによる座標軸をとり、各座標軸で作られる平面の構造を検討した。4要因の組合せのパターンは、今日の教育・社会状況を把握する上で有効だと考えられた。同時に個人と社会の在り方の相互関連性が推測された。
著者
武井 泰 田爪 正氣 松木 秀明 豊田 淑恵 石井 美里 西野 廣子 長谷川 秀隆 横山 久美 築地 真実
出版者
東海大学
雑誌
東海大学健康科学部紀要 (ISSN:13474162)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.27-31, 2006

A病院NICUにおいて、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の実態を把握するために患児頭部下タオル、保育器袖窓、クベースカバーおよび室内空気からブドウ球菌を採取し、薬剤感受性試験およびパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)法によって解析を行った。薬剤感受性試験およびCD-PCR法の結果、MRSAは患児頭部下タオルから1/30株、保育器袖窓から1/15株、クベースカバーから0/19株、室内空気から2/54株検出され、これらのMRSAは多剤耐性菌であった。また、PFGE法を用いMRSAの染色体DNA切断パターンから菌株間の相同性を検討した結果、患児頭部下タオル、保育器袖窓およびNICUの室内空気から共通したゲノタイプが検出され、同一の菌株であることが確認された。
著者
志水 恵子
出版者
東海大学
雑誌
東海大学健康科学部紀要 (ISSN:13474162)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.35-38, 2003

In vitro条件下におけるウシラクトフェリン(bLF)およびヒトラクトフェリン(hLF)の抗マウスサイトメガロウイルス(MCMV)効果について検討した。bLF、hLFともにMCMV粒子に直接作用させた場合には効果が認められなかったが、MCMV感染前に細胞側に60分間作用させることによって、顕著なMCMV感染阻止効果が認められた。この結果から、bLF、hLFはMCMVが細胞に吸着ないしは侵入する際に阻止効果をもたらすものと推察された。顕著な抗MCMV効果を示すbLF、hLFの最少濃度はそれぞれ0.01mg/ml、1mg/mlであった。人乳のLF濃度は初乳3〜7mg/ml、永久乳1mg/mlであることと本結果を考え合わせると、人乳中のLFの抗サイトメガロウイルス効果が期待される。
著者
堤 梨恵 秋元 史恵 早川 裕子 後藤 由紀 榎 悦子 鈴木 昌子 河野 啓子
出版者
東海大学
雑誌
東海大学健康科学部紀要 (ISSN:13474162)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.115-120, 2001

本研究は精神健康調査の一部として得られた自由記載欄の内容を分析することによって具体的なストレッサーを把握し、また看護婦・士が考える対応策を明らかにすることを目的に行った。NIOSH (National Institute for Occupational Safety and Health:米国国立安全保健研究所)の職業性ストレスモデルを用いてT大学病院のストレッサーを分類すると、仕事のストレッサー(226件)、仕事外の要因(14件)、個人要因(148件)であり、仕事のストレッサーが最も多かった。ストレッサーの中では、長時間労働や休日労働の記載が多く、反対に看護技術に関する記載が少なかったことが特徴的であった。また、看護婦・士が考える対応策として、「ストレスを軽減するような病院のサポートシステム」(5件)や「ストレスを軽減するような病院環境」(5件)、「組織運営の改善」(4件)、「仕事に対する評価」(2件)があった。
著者
花澤 佳代 喜多 祐荘
出版者
東海大学
雑誌
東海大学健康科学部紀要 (ISSN:13474162)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.103-107, 1997

今回、精神病院に勤務する若い世代の精神医学ソーシャルワーカー(以下、PSW)を対象に、業務内容・専門職としての意識について調査を実施した。精神保健福祉士の国家資格化が図られようとしている状況の中で、国家資格に対する意識を通じPSWの専門性の意識に焦点をあてた。調査結果からは以下の点が明らかになった。1.国家資格化の実現により、PSWの社会的な身分の保証がされると考えられていること。2.PSWの国家資格化が図られることで、クライエントに対して、何らかのプラスになる援助が可能になると考えているPSWが多いこと。3.各精神病院においては運営上の格差があり、それによりPSW業務に違いが大きくあること。4.現状におけるPSW業務は、個別援助の割合が高いこと。5.PSWの専門性は知識であると考えられていて、国家資格化により社会福祉に基盤を置いた共通の専門性が生まれてくると考えているPSWが多いこと。
著者
小林 隆児
出版者
東海大学
雑誌
東海大学健康科学部紀要 (ISSN:13474162)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.63-75, 1998

自閉症の人々にみられる対人関係障害を愛着形成の障害として捉え、どうすれば彼らの愛着行動が促進され、他者との間でコミュニケーションが発達していくかを論じた。最初に彼らの愛着形成障害の原因として接近回避動因的葛藤が存在することを、具体的に強度行動障害を合併した自閉症の成人例2例を提示して説明した。ついで彼らの接近回避動因的葛藤を緩和するために、彼らの行動の背後に存在する動因(意図)を感じ取ることの重要性を指摘した。そうした接近によって彼らの愛着行動を引き出すことが可能であること、それを契機に情動的コミュニケーションが深化していくことを示した。情動的コミュニケーションの進展においては、まずもって療育者の積極的関与、すなわち療育者の側からコミュニケーションの枠組みを作っていくことが大切であること、それによって次第に彼らも療育者の意図を察知するようになり、次第にやりとり構造というコミュニケーションの形態を示していくことを論じた。
著者
船水 浩行
出版者
東海大学
雑誌
東海大学健康科学部紀要 (ISSN:13474162)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.9-16, 2000

わが国の公的扶助制度とされる生活保護制度は、昨今の経済不況による貧困問題の深刻化、「行政改革」「社会保障構造改革」「社会福祉基礎構造改革」等の流れの中で新たな局面を迎えながら、その「使い勝手の悪さ」が課題となっている。生活保護法とその実施体制の「使い勝手の悪さ」がなぜ生じてきたのかを、その実質的実施機関である「福祉に関する事務所」(福祉事務所)発足の経緯から考察した。福祉事務所は、これ以前にはない社会福祉行政の第一線現業機関であり、そこに専門的知識・技能を有する者を充てるとされた社会福祉主事を配置することとなった。しかし、これを規定する社会福祉事業法制定の経過の中で、福祉事務所の設置、組織のあり方等について、省庁間での見解の相違について妥協が図られながら制度化されたものであり、自治体行政にどう位置づけていくのか、社会福祉主事の専門性をどう確保するか等の課題が常に提起されてきた。こうしたことが生活保護の「使い勝手の悪さ」を生み出す一因となったことが示唆された。
著者
武井 泰 糠信 憲明 横山 久美 石井 美里 築地 真実 石田 裕 田爪 正氣
出版者
東海大学
雑誌
東海大学健康科学部紀要 (ISSN:13474162)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.33-36, 2006

スクラブ法(マイルドハンドソープS[○!R]、液体ミューズ[○!R])、ラビング法(ウエルパス[○!R]、サラヤンジェルSH[○!R])、スワブ法(サニコットデズインP[○!R]、30%アルコール綿)の3種類による手洗い方法によって、手袋装着後の手指付着細菌に対する各種洗剤・消毒剤の抗菌効果を経時的に検討した。1.スクラブ法:マイルドハンドソープS[○!R]は洗浄作用のみで、液体ミューズ[○!R]は弱い抗菌効果および持続性が認められた。2.ラビング法:ウエルパス[○!R]、サラヤンジェルSH[○!R]ともに強い抗菌効果および持続性を示したが、サラヤンジェルSH[○!R]の抗菌効果はウエルパス[○!R]よりも若干劣っていた。3.スワブ法:30%アルコール綿は洗浄作用のみで、サニコットデズインP[○!R]は強い抗菌効果および持続性を示した。これらの結果より、塩化ベンザルコニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、イソプロパノール添加エタノール含有の製剤では手袋装着3時間後まで抗菌効果が持続していることが判明した。
著者
河野 啓子 松木 秀明 式守 晴子 松岡 昌子
出版者
東海大学
雑誌
東海大学健康科学部紀要 (ISSN:13474162)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.57-63, 2003
被引用文献数
1

東海大学健康科学研究科看護学専攻(修士課程)が開設され、3年を経た現在、より充実した大学院にするための見直しが必要と考えられた。その基礎資料を得るために、看護職の大学院への進学ニーズを明らかにすることを目的に本研究を行った。その結果、以下のことが明らかになった。1)大学院への進学希望者は「すぐに進学したい」は2.0%、「条件が整えば進学したい」は48.5%であり、両者をあわせると50%強であった。2)大学に対する要望としては、「研究指導日、講義日程が調整可能」、「通信教育」、「夜間開講」、「社会人特別選抜」、「土・日・祝日開講」など、働きながら就学できる条件が多くあげられた。3)大学院への進学において特に重要視する項目は、「カリキュラムの内容」、「入試科目」、「地理的条件」であった。