著者
山口将希 伊藤明良 太治野純一 長井桃子 飯島弘貴 張項凱 喜屋武弥 青山朋樹 黒木裕士
雑誌
第50回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2015-05-01

【はじめに,目的】関節軟骨は自己再生能力に乏しい組織であり,その再生治療として培養軟骨細胞や間葉系間質細胞(MSC)を用いた細胞移植が注目されている。しかし移植後の物理療法などのリハビリテーションの有効性や安全性については十分に検討されていない。今後,細胞治療が臨床にて適用されるにあたり,再生治療における物理療法やリハビリテーションの有効性を明らかにしていくことは重要な研究課題である。近年,骨折治療で用いられる低出力超音波パルス(LIPUS)を照射することにより軟骨細胞の代謝やMSCの骨・軟骨分化に影響を及ぼすことがin vitro研究にて報告されており,今回我々は骨軟骨欠損した膝関節へのMSC移植後にLIPUSを併用することでin vivoにおいても移植したMSCを刺激し,損傷した骨軟骨の再生を促すのではないかとの仮説を設けた。本報告は細胞治療とLIPUSの併用が骨軟骨欠損の再生に影響を及ぼすかを検討したものである。【方法】8週齢雄性Wistar系ラット12匹の両側大腿骨滑車部に直径1mmの骨軟骨欠損を作成し4週間自由飼育した。その後,全てのラットに対して同種骨髄由来MSC 1.0×106個を右膝関節に注入し,左膝関節には対照群としてリン酸緩衝液を注入した。そして6匹ずつLIPUS照射群と非照射群に分け,対照群,LIPUS群,MSC群,LIPUS+MSC(MSCL)群の4群(各群n=3)を設けた。LIPUS群およびMSCL群には週5回,1日20分間の照射を骨折治療ですでに用いられている設定(周波数1.5MHz,繰り返し周波数1kHz,パルス幅200μ秒,空間平均時間平均強度30mW/cm2)にて行った。介入開始から4,8週後に欠損部の組織切片を作成し,サフラニンO(SO)染色,HE染色および抗II型コラーゲンの免疫組織化学染色を用いて組織を観察した。さらにWakitaniの軟骨修復スコアを用いて修復度合いを数値化し,平均±95%信頼区間にて表示した。スコアは値が低いほど良好な再生を示す。【結果】介入4週間後,各群のスコアは,対照群:8.7±2.36,LIPUS群:4.7±1.31,MSC群:4.7±1.31,MSCL群:4.3±0.65となった。組織観察において対照群では修復組織のSO染色性は深層の細胞周囲に限局し,表層から中間層の多くで線維軟骨様の細胞が観察され,組織表面に軽度から中等度の亀裂が観察された。LIPUS,MSCおよびMSCL群では硝子軟骨様の細胞が多く含まれるようになり,SO染色性も中間層において確認された。また修復組織の厚さも対照群に比べて厚くなっていたが,組織表面に亀裂が観察された。対照群とMSC群において軟骨下骨に軟骨様の組織が侵入している所見が一部見られた。II型コラーゲンの発現は,対照群では深層の一部のみに限局していたが,LIPUS群では修復組織の広範囲において確認できた。MSC群においては表層から中間層で発現の低下が見られた。MSCL群ではLIPUS群同様,修復組織の広範囲で確認できた。介入8週後では各群のスコアは,対照群:7.7±2.36,LIPUS群:7.0±1.96,MSC群:4.7±1.31,MSCL群:4.0±0.00となりLIPUS群で4週に比べてスコアが悪化していた。組織観察では対照群とLIPUS群では線維軟骨様の細胞が多く観察され,修復組織のSO染色性は大きく減弱していた。MSCとMSCL群では硝子軟骨様の細胞が多く観察されていたものの,染色性は大きく減弱していた。MSC群においてのみ軟骨下骨に軟骨様の組織が侵入している所見が一部で見られた。II型コラーゲンの組織観察の結果,対照群では表層から中間層で発現が低下しており,LIPUS,MSC,MSCL群では全層において発現が見られるか,表層での発現の低下が確認された。【考察】介入4週後においてLIPUSは欠損した関節軟骨の修復を促す可能性が示唆された。しかし介入8週後になるとLIPUS群の修復した関節軟骨は劣化しており,骨軟骨欠損に対するLIPUS照射は短期的には効果的だが,修復した軟骨は長期的には維持されないことが示唆された。MSC群の修復した関節軟骨はスコアが保たれていたが,MSC注入とLIPUSの併用は,軟骨修復スコアにおいてはMSC単独の効果と比べてほとんど差が認められなかった。今回の研究条件においてはMSC関節内注入とLIPUS照射の併用による再生への相乗効果は軟骨に対しては限定的である可能性が示唆された。しかし,併用することによりMSC群で見られた軟骨下骨への軟骨様組織の侵入が見られなかったことから,軟骨下骨に対して影響をおよぼす可能性が期待される。本報告は予備実験の段階における結果であり,今回の結果を基に,今後サンプル数およびLIPUS強度などの設定を検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】本研究結果は骨軟骨欠損に対する細胞治療において,物理療法のひとつであるLIPUSの併用が軟骨下骨へ影響を及ぼし,骨軟骨再生に有効である可能性を示唆した。
著者
長井 桃子 黒木 裕士 飯島 弘貴 伊藤 明良 太治野 純一 中畑 晶博 喜屋武 弥 張 ジュエ 王 天舒 青山 朋樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>近年,様々な疾患に対し多能性幹細胞を用いた臨床試験が行われている。神経再生には神経のミエリン鞘とシュワン細胞の補充が肝要とされ(Zhiwu, 2012),末梢神経損傷動物モデルを用いて,幹細胞やiPS細胞移植による治療効果を検討した報告は多数あり,幹細胞を用いた臨床試験も始まっている。また,conduit(人工神経鞘)を断端部に連結させる手法においても,その中に自家培養細胞を移植する取り組みが行われている。一方,末梢神経損傷に対する介入効果として,運動は神経発芽や再生軸索の成熟を促進し(Sabatier, 2015),電気刺激は神経再生を促す(Gordon, 2010. Wong, 2015)報告もあり,細胞移植後のリハビリテーション介入が神経再生を促す可能性がある。しかし,同疾患患者の再生治療におけるリハビリテーション効果について,現時点でどこまで明らかになっているか不明な点が多い。本研究の目的は,末梢神経損傷患者に対してconduitや幹細胞を用いた治療方法と効果を報告した論文を系統的かつ網羅的に収集することに加え,これらの治療方法とリハビリテーションのかかわりにおける現状を明らかにすることである。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>研究デザインはシステマティックレビューとし,PRISMA声明に準じて実施した。検索式にはhuman,peripheral nerve,stem cell transplantation,nerve regenerationを用い,データベースはPubMed,PEDro,CINAHL,Cochrane libraryを用いた。2016年9月までに報告された,査読のある英語で記載された論文かつ,ヒトを対象に実施された臨床試験(シングルケースを含む)を対象として,conduitと細胞移植に関するものを抽出した。内科疾患や遺伝疾患に関するものは除外した。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>キーワードを用いたデータベースの検索では1220件が抽出された。適合基準に合致するものは16件(全体数比:1.31%,出版年:2000~2016)であり,そのうち,リハビリテーションに言及しているものは7件(適合論文内比:43.7%,出版年:2000~2011)だった。うち6件が手部に関するものであり,その内容は,手術直後から穏やかに手指屈伸運動を長期に行うものや実施の記載のみなど,リハビリテーションプログラムの内容や期間について詳細について記したものはなく,統一した見解は得られなかった。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>末梢神経損傷患者に対する再生治療介入の臨床試験数は少なく,リハビリテーション介入に関しても十分に検証されていない現状が明らかとなった。今後さらに,臨床試験の蓄積と,末梢神経損傷の再生治療におけるリハビリテーション効果に関するエビデンスが求められることが予測される。これらのエビデンスを,基礎的研究を通じて理学療法士が自ら示してくことは,理学療法介入の重要性を示す一助になると考える。</p>
著者
飯島 弘貴 青山 朋樹 伊藤 明良 山口 将希 長井 桃子 太治野 純一 張 項凱 喜屋武 弥 黒木 裕士
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】変形性膝関節症(膝OA)の病態に即した理学療法の実現のためには,その病態の理解や力学的負荷に対する生体組織の生物学的な応答を明らかにすることが不可欠である。2015年,我々はラット膝OAモデルに対する運動刺激が膝OAの予防に貢献することを報告した。そこで,本研究では,運動刺激の効果をさらに詳細に検討する目的で,異なる強度の運動刺激が関節軟骨と軟骨下骨に与える影響を,関節面の領域別に明らかにすることを目的とした。【方法】本研究はThe Animal Research Reporting In Vivo Experiments(ARRIVE)guidelinesに準じて計画,実施された。12週齢のWistar系雄性ラット30匹の右膝関節に外科的処置(前脛骨半月靭帯切離)を施し,内側半月板不安定性(DMM)モデルを作成した。その後,8週間の自然飼育を行うDMM群(n=10)と,早期膝OAの状態となる術後4週時点から1日30分,週5日間,4週間のトレッドミル走行を行うmoderate群(12m/分,n=10),intense群(21m/分,n=10)の3群に分類した。術後8週時に膝関節を摘出し,脛骨側内側関節面の関節軟骨,軟骨下骨を組織学的手法,力学的手法,およびmicro-CTを用いて領域別(前方および後方)に評価し,3群間で比較した。統計学的有意水準は5%とした。【結果】脛骨内側関節面後方領域を組織学的に観察すると,DMM群では関節軟骨および軟骨下骨中の死細胞を含む変性像が観察されたが,moderate群の変性像はDMM群よりも軽度であり,軟骨変性重症度の評価であるOARSI scoreはDMM群の約50%であった(DMM群,中央値:10.5,範囲:9-12;moderate群,中央値:5,範囲2-9;<i>P</i>=0.025)。同領域のmicro-CT所見では,DMM群では嚢胞状の骨吸収領域が多数観察されたが,moderate群の骨吸収領域の最大直径はDMM群の約70であった(DMM群,平均値:547.1μm,95%信頼区間[CI]:504.7-589.5;moderate群,平均値:375.9μm,95%CI:339.3-412.5;<i>P</i><0.001)。力学的手法を用いて圧縮応力に対する関節軟骨の歪みを評価すると,後方領域ではDMM群は正常軟骨の215%であったのに対して,moderate群では160%に抑性された(DMM群,平均値:65.7μm,95%CI:60.7-71.3;moderate群,平均値:49.1μm,95%CI:39.1-59.1;<i>P</i>=0.045)。しかしながら,前方領域における変性に関しては,DMM群とmoderate群の間で統計学的有意差はなかった。また,intense群では,OA進行予防効果が乏しいだけでなく,micro-CT所見上での軟骨下骨の骨吸収領域の最大直径は,むしろDMM群よりも28%増大した(平均値:700.7μm,95%CI:614.1-787.3;<i>P</i><0.001)。【結論】本研究は,運動刺激による膝OAの進行予防を期待する場合には,運動強度の調整が必要であることを示した。また,中等度レベルの運動によるOA進行予防効果が主荷重部に限局して確認されたことから,運動刺激による膝OA進行予防効果は力学的負荷が加わる領域に特異的に生じる可能性がある。
著者
飯島 弘貴 青山 朋樹 伊藤 明良 山口 将希 長井 桃子 太治野 純一 張 項凱 喜屋武 弥 黒木 裕士
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】変形性膝関節症(膝OA)は膝関節痛やこわばりを主訴とする代表的な運動器疾患である。その病態の中心は関節軟骨の摩耗・変性であるが,近年では病態の認識が改まり,発症早期より生じる軟骨下骨の変化が,関節軟骨の退行性変化を助長している可能性が指摘されるようになった。我々も同様の認識から,半月板損傷モデルラットを作成し,その早期から軟骨変性と軟骨下骨嚢胞が共存していることを明らかにした(Iijima H. <i>Osteoarthritis Cartilage</i> 2014)。理学療法を含む非薬物治療は,膝OAの疼痛緩和を目的とした治療戦略の大きな柱であるが,このような早期膝OAの病態を考慮した,OA進行予防策に関する研究蓄積は乏しい。また,病態モデル動物を用いた研究において,歩行運動が関節軟骨の退行性変化を予防しうる,という報告は散見されるが,そのメカニズムは不明であった。そこで,我々はこれらの課題に対して,早期の病態に関与する軟骨下骨変化を歩行運動によって抑制することが,膝OA進行予防に寄与するのではないかと着想し,これまで不明であった,運動による膝OA進行予防メカニズムの解明へと研究を進めてきた。本研究では,我々が報告した半月板損傷モデルラットを使用し,疑似的に早期膝OAの状態を作り出し,歩行運動が軟骨下骨変化に与える影響を評価し,軟骨変性予防効果との関連性を検討した。【方法】12週齢のWistar系雄性ラット24匹に対して,内側半月板の脛骨半月靭帯(MMTL)を切離する内側半月板不安定性モデルを作成した。MMTLの切離は右膝関節のみに行い,左膝関節に対しては偽手術を施行し,対照群とした。その後,術後8週間に渡り自然飼育を行うことで,OAを発症・進行させるOA群(n=8)と,早期膝OAの状態となる術後4週時点からトレッドミル歩行(12m/分,30分/日,5日/週)を行う運動群(n=8)の2群に分類した。時系列変化を評価するため,術後4週まで飼育する介入前群(n=8)を設定した。主な解析対象および群間の比較は,MMTLを切離した全群の右膝関節とし,対照群とも比較した。解析内容は,μ-CT撮影および組織学的手法を用いて,4週間にわたる歩行運動介入の効果を検討した。μ-CT撮影所見より軟骨下骨嚢胞の最大径を評価し,組織学的解析では破骨細胞マーカーである酒石酸耐性酸フォスファターゼ(TRAP)染色とともに,骨細胞死数,軟骨下骨損傷度(0-5点)を評価した。また,軟骨変性重症度(0-24点)を評価し,軟骨下骨損傷度との関連性の評価としてSpearmanの順位相関係数を算出した。【結果】μ-CT所見では介入前から脛骨内側関節面にて軟骨下骨嚢胞が確認されたが,運動群では最大嚢胞径が縮小し,介入前およびOA群よりも有意に低値を示した(<i>P</i><0.01)。組織学的所見では,軟骨下骨嚢胞内にTRAP陽性破骨細胞が多数観察され,直上の関節軟骨が嚢胞内に落ち込む所見が介入前群では30%で確認された。OA群ではその後悪化し,80%で確認されたが,運動群では0%であった。併せて,介入前およびOA群では多数の骨細胞死が観察されたが,運動群ではいずれも軽度であり(<i>P</i><0.01),軟骨下骨損傷度は介入前およびOA群よりも有意に低値を示した(<i>P</i><0.05)。軟骨変性重症度は,運動群で最も低値を示し(<i>P</i><0.05),軟骨下骨損傷との間に強い相関を認めた(<i>P</i><0.01,r=0.91)。【考察】半月板損傷後に発症した早期膝OAに対する緩徐な歩行運動は,骨細胞死の減少とともにTRAP陽性破骨細胞活性に起因する軟骨下骨嚢胞を縮小させることが明らかになった。つまり,半月板損傷後に生じた損傷軟骨下骨は可逆的な状態にあり,自然飼育のみでは進行する一方,歩行運動によって治癒することを示している。軟骨下骨の損傷により形成された陥没は,関節軟骨に加わるひずみを増大させる要因となるだけでなく,関節軟骨-軟骨下骨間の炎症性サイトカインの交通を介してOAを進行させることが知られている。したがって,軟骨下骨の治癒が歩行運動によってなされることで,その直上の軟骨に加わる力学的,化学的ストレスを緩和させ,膝OAの進行予防に一部寄与しうることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】膝OAに対する従来の理学療法は,摩耗・変性した関節面へ加わる応力を,分散あるいは減弱させることを主目的としてその進行予防に寄与してきたため,歩行運動のような運動負荷を治療手段とするという考え方は希薄であった。本研究結果は,半月板損傷後の早期膝OAに対する一定の運動負荷がOA進行予防に寄与する可能性を提示し,そのメカニズムの一部を病態モデル動物を使用して病理組織学的にはじめて明らかにしたものである。
著者
飯島 弘貴 青山 朋樹 伊藤 明良 山口 将希 長井 桃子 太治野 純一 張 項凱 喜屋武 弥 黒木 裕士
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0814, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】変形性膝関節症(膝OA)は膝関節痛やこわばりを主訴とする代表的な運動器疾患である。その病態の中心は関節軟骨の摩耗・変性であるが,近年では病態の認識が改まり,発症早期より生じる軟骨下骨の変化が,関節軟骨の退行性変化を助長している可能性が指摘されるようになった。我々も同様の認識から,半月板損傷モデルラットを作成し,その早期から軟骨変性と軟骨下骨嚢胞が共存していることを明らかにした(Iijima H. Osteoarthritis Cartilage 2014)。理学療法を含む非薬物治療は,膝OAの疼痛緩和を目的とした治療戦略の大きな柱であるが,このような早期膝OAの病態を考慮した,OA進行予防策に関する研究蓄積は乏しい。また,病態モデル動物を用いた研究において,歩行運動が関節軟骨の退行性変化を予防しうる,という報告は散見されるが,そのメカニズムは不明であった。そこで,我々はこれらの課題に対して,早期の病態に関与する軟骨下骨変化を歩行運動によって抑制することが,膝OA進行予防に寄与するのではないかと着想し,これまで不明であった,運動による膝OA進行予防メカニズムの解明へと研究を進めてきた。本研究では,我々が報告した半月板損傷モデルラットを使用し,疑似的に早期膝OAの状態を作り出し,歩行運動が軟骨下骨変化に与える影響を評価し,軟骨変性予防効果との関連性を検討した。【方法】12週齢のWistar系雄性ラット24匹に対して,内側半月板の脛骨半月靭帯(MMTL)を切離する内側半月板不安定性モデルを作成した。MMTLの切離は右膝関節のみに行い,左膝関節に対しては偽手術を施行し,対照群とした。その後,術後8週間に渡り自然飼育を行うことで,OAを発症・進行させるOA群(n=8)と,早期膝OAの状態となる術後4週時点からトレッドミル歩行(12m/分,30分/日,5日/週)を行う運動群(n=8)の2群に分類した。時系列変化を評価するため,術後4週まで飼育する介入前群(n=8)を設定した。主な解析対象および群間の比較は,MMTLを切離した全群の右膝関節とし,対照群とも比較した。解析内容は,μ-CT撮影および組織学的手法を用いて,4週間にわたる歩行運動介入の効果を検討した。μ-CT撮影所見より軟骨下骨嚢胞の最大径を評価し,組織学的解析では破骨細胞マーカーである酒石酸耐性酸フォスファターゼ(TRAP)染色とともに,骨細胞死数,軟骨下骨損傷度(0-5点)を評価した。また,軟骨変性重症度(0-24点)を評価し,軟骨下骨損傷度との関連性の評価としてSpearmanの順位相関係数を算出した。【結果】μ-CT所見では介入前から脛骨内側関節面にて軟骨下骨嚢胞が確認されたが,運動群では最大嚢胞径が縮小し,介入前およびOA群よりも有意に低値を示した(P<0.01)。組織学的所見では,軟骨下骨嚢胞内にTRAP陽性破骨細胞が多数観察され,直上の関節軟骨が嚢胞内に落ち込む所見が介入前群では30%で確認された。OA群ではその後悪化し,80%で確認されたが,運動群では0%であった。併せて,介入前およびOA群では多数の骨細胞死が観察されたが,運動群ではいずれも軽度であり(P<0.01),軟骨下骨損傷度は介入前およびOA群よりも有意に低値を示した(P<0.05)。軟骨変性重症度は,運動群で最も低値を示し(P<0.05),軟骨下骨損傷との間に強い相関を認めた(P<0.01,r=0.91)。【考察】半月板損傷後に発症した早期膝OAに対する緩徐な歩行運動は,骨細胞死の減少とともにTRAP陽性破骨細胞活性に起因する軟骨下骨嚢胞を縮小させることが明らかになった。つまり,半月板損傷後に生じた損傷軟骨下骨は可逆的な状態にあり,自然飼育のみでは進行する一方,歩行運動によって治癒することを示している。軟骨下骨の損傷により形成された陥没は,関節軟骨に加わるひずみを増大させる要因となるだけでなく,関節軟骨-軟骨下骨間の炎症性サイトカインの交通を介してOAを進行させることが知られている。したがって,軟骨下骨の治癒が歩行運動によってなされることで,その直上の軟骨に加わる力学的,化学的ストレスを緩和させ,膝OAの進行予防に一部寄与しうることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】膝OAに対する従来の理学療法は,摩耗・変性した関節面へ加わる応力を,分散あるいは減弱させることを主目的としてその進行予防に寄与してきたため,歩行運動のような運動負荷を治療手段とするという考え方は希薄であった。本研究結果は,半月板損傷後の早期膝OAに対する一定の運動負荷がOA進行予防に寄与する可能性を提示し,そのメカニズムの一部を病態モデル動物を使用して病理組織学的にはじめて明らかにしたものである。