著者
國吉 知子
出版者
神戸女学院大学
雑誌
女性学評論 (ISSN:09136630)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.23-49, 2015-03

母と娘の関係性は身近なテーマであるが、心理学的な複雑さを内包している。近年では少子化の影響を受け、一卵性母娘など母娘の問題が家族の問題としてクローズアップされているが、実は童話や神話の中にも母娘のテーマは表現されている。本稿は、まず娘の母親への生涯にわたる依存性の高さと、62%の女性が母親に依存的であるという質問紙を用いた実証研究を概観した。次に深層心理学的観点から、母と娘に特有の親密性の高さと娘の自立の困難さについて、神話やディズニー素材(「白雪姫」「ラプンツェル」「リトルマーメイド2」「メリダとおそろしの森」「アナと雪の女王」)を取り上げ、それぞれの物語における母娘関係を分析し、これらに共通する興味深いパターンと、母娘の絆がいかに強く分離しにくいかを示した。さらに、母娘関係を深く理解するために、母親が娘をコントロールする無意識的メカニズム、すなわち、抑圧、同一化という自我の防衛機制や「母」役割が持つ献身の問題(斉藤 2008)を紹介した。特に、献身の問題については、マゾヒスティック・コントロール(高石 1997)の観点から論じ、その対処について述べた。その結果、女性の自立を考えるには、従来の男性の自立モデルとは異なる、女性特有の自立スタイルを考えることが重要であることが示唆された。The theme of mother and daughter relationships are familiar,however, these relationships contain many complex psychological factors. Recently, the increasing phenomenon of an overly intimate mother and daughter relationship, which is influenced by the declining number of children, has come into focus as a common family problem. However, we can find the same kind of relationship in many old tales and ancient myths. In this article, I first reviewed two survey-based psychological studies, which suggested that some daughters have a life-long dependency on their mothers,and that 62% of daughters have a tendency to depend on their mothers. Secondly, I assessed the strength of the bonds shared between mothers and daughters from the perspective of Depth Psychology. I also pointed out the difficulty of a daughter's separation and independence in a typical mother/daughter relationship, as can be seen in myths and Disney animations such as Snow White,Tangled,Little Mermaid 2,Brave, and Frozen. Lastly,to understand these phenomena, I introduced the theory of Saito(2008),who explained that mothers use ego-defense mechanisms, such as suppression and identification, to control their daughters.I also discussed the role of a mother's devotion from the theory of the "masochistic-control mechanism", which was developed by Takaishi(1997). I then described a way of coping with this unconscious control from mothers. In conclusion, I emphasized that there is a necessity for a new and more suitable model for a woman's original process of gaining independence, which is rather different from that of most men.
著者
國吉 知子
雑誌
女性学評論 = Women's studies forum
巻号頁・発行日
vol.29, pp.23-49, 2015-03

母と娘の関係性は身近なテーマであるが、心理学的な複雑さを内包している。近年では少子化の影響を受け、一卵性母娘など母娘の問題が家族の問題としてクローズアップされているが、実は童話や神話の中にも母娘のテーマは表現されている。本稿は、まず娘の母親への生涯にわたる依存性の高さと、62%の女性が母親に依存的であるという質問紙を用いた実証研究を概観した。次に深層心理学的観点から、母と娘に特有の親密性の高さと娘の自立の困難さについて、神話やディズニー素材(「白雪姫」「ラプンツェル」「リトルマーメイド2」「メリダとおそろしの森」「アナと雪の女王」)を取り上げ、それぞれの物語における母娘関係を分析し、これらに共通する興味深いパターンと、母娘の絆がいかに強く分離しにくいかを示した。さらに、母娘関係を深く理解するために、母親が娘をコントロールする無意識的メカニズム、すなわち、抑圧、同一化という自我の防衛機制や「母」役割が持つ献身の問題(斉藤 2008)を紹介した。特に、献身の問題については、マゾヒスティック・コントロール(高石 1997)の観点から論じ、その対処について述べた。その結果、女性の自立を考えるには、従来の男性の自立モデルとは異なる、女性特有の自立スタイルを考えることが重要であることが示唆された。
著者
國吉 知子
出版者
神戸女学院大学
雑誌
女性学評論 (ISSN:09136630)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.23-49, 2015-03

母と娘の関係性は身近なテーマであるが、心理学的な複雑さを内包している。近年では少子化の影響を受け、一卵性母娘など母娘の問題が家族の問題としてクローズアップされているが、実は童話や神話の中にも母娘のテーマは表現されている。本稿は、まず娘の母親への生涯にわたる依存性の高さと、62%の女性が母親に依存的であるという質問紙を用いた実証研究を概観した。次に深層心理学的観点から、母と娘に特有の親密性の高さと娘の自立の困難さについて、神話やディズニー素材(「白雪姫」「ラプンツェル」「リトルマーメイド2」「メリダとおそろしの森」「アナと雪の女王」)を取り上げ、それぞれの物語における母娘関係を分析し、これらに共通する興味深いパターンと、母娘の絆がいかに強く分離しにくいかを示した。さらに、母娘関係を深く理解するために、母親が娘をコントロールする無意識的メカニズム、すなわち、抑圧、同一化という自我の防衛機制や「母」役割が持つ献身の問題(斉藤 2008)を紹介した。特に、献身の問題については、マゾヒスティック・コントロール(高石 1997)の観点から論じ、その対処について述べた。その結果、女性の自立を考えるには、従来の男性の自立モデルとは異なる、女性特有の自立スタイルを考えることが重要であることが示唆された。The theme of mother and daughter relationships are familiar,however, these relationships contain many complex psychological factors. Recently, the increasing phenomenon of an overly intimate mother and daughter relationship, which is influenced by the declining number of children, has come into focus as a common family problem. However, we can find the same kind of relationship in many old tales and ancient myths. In this article, I first reviewed two survey-based psychological studies, which suggested that some daughters have a life-long dependency on their mothers,and that 62% of daughters have a tendency to depend on their mothers. Secondly, I assessed the strength of the bonds shared between mothers and daughters from the perspective of Depth Psychology. I also pointed out the difficulty of a daughter's separation and independence in a typical mother/daughter relationship, as can be seen in myths and Disney animations such as Snow White,Tangled,Little Mermaid 2,Brave, and Frozen. Lastly,to understand these phenomena, I introduced the theory of Saito(2008),who explained that mothers use ego-defense mechanisms, such as suppression and identification, to control their daughters.I also discussed the role of a mother's devotion from the theory of the "masochistic-control mechanism", which was developed by Takaishi(1997). I then described a way of coping with this unconscious control from mothers. In conclusion, I emphasized that there is a necessity for a new and more suitable model for a woman's original process of gaining independence, which is rather different from that of most men.
著者
國吉 知子 Tomoko KUNIYOSHI
雑誌
女性学評論 = Women's Studies Forum
巻号頁・発行日
vol.34, pp.1-20, 2020-03-20

本稿は2019年女性学インスティチュート連続セミナー「母なるものの役割」 において筆者が担当した「現代家族の中の母」をもとに加筆修正したものである。まず、現代の子どもと母親の置かれた状況について理解するために、幼稚園教諭から見た子どもの問題行動の実態調査の結果や、親子相互交流療法 (Parent‒Child Interaction Therapy:以下PCIT)に来談する母親が直面する子どもの問題行動への対処の困難感を紹介した。次に、筆者は「母なるもの」すなわち「母性性」について、養育者と子どもの心理的相互作用メカニズムに関する近年の脳科学の知見を援用し「母なるものの本質的機能」を再考し、さらに今井(2009)の研究をもとに父性と母性が、与える親の性別に限定されないことを指摘した。最後に、筆者が2013年から実施しているPCITについて解説し、子どもの共感性や自己制御能力を育成するために親がとるべき役割、行動について、母性・父性、ジェンダーの視点から考察を試みた。結論として、PCITは前半の子どもを受容する母性的機能、後半の子どもへの統制を行う父性的機能が構造化されているが、PCITは養育者の性別を問わないため、PCITを用いることで養育者のジェンダーにかかわらず母性性、父性性双方のバランスがとれた子育てが可能になることを示した。
著者
國吉 知子 Tomoko KUNIYOSHI
雑誌
神戸女学院大学論集 = KOBE COLLEGE STUDIES
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.109-123, 2013-06-20

親子相互交流療法(PCIT:Parent-Child Interaction Therapy)は、米国のEyberg,S.らが1974年に開発した親子関係改善のための心理療法であり、主に2歳~7歳の幼児をもつ親を対象に週1回1時間、12回~20回程度の親子同時プレイセラピーを実施する。PCITは子どもの問題行動、特に外在化した攻撃的行動などの行動障害が改善することが報告されており、エビデンスに基づいたセラピーである。日本では2000年代後半に導入され、主に首都圏で普及しはじめているが、関西での初の導入に向け、本学心理相談室で実施のための準備を進めている。PCITはこどもと遊ぶ親にセラピストがワンウェイミラー越しにトランシーバーでライブコーチングを行う点に大きな特徴がある。またプログラムは、前半のCDI(Child-Directed Interaction;子ども指向型相互交流)と後半のPDI(Parent-Directed Interaction; 親指向型相互交流)の2段階から成り立っており、前半のCDIでは、親のPRIDEスキル(よりより関係づくりのためのスキル)の獲得や望ましくないスキルの低減を目指す。CDI習得後、PDIに進み、親は遊びながら子どもの行動修正に有効な指示の出し方や統制の仕方を具体的に学ぶ。本稿では、PICTの特徴や手順、PRIDEスキルやDon'tスキルなど具体的な内容について解説した。さらにPCITにおける限界設定の意義についてとりあげ、PDIセッションにおけるタイムアウトを子どもにとって安全に進めるためにはCDIセッションでの親子の絆の再構築が重要であることを指摘した。さらに限界設定が三者関係への転回点として機能する点、子どものネガティブ感情に対処しにくい現代の親にとって、限界設定が重要になってきている点などについて論じた。
著者
國吉 知子 Tomoko KUNIYOSHI
雑誌
神戸女学院大学論集 = KOBE COLLEGE STUDIES
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.65-80, 2013-12-20

調整的音楽療法(RMT)とは、受動的音楽療法の一つで、音楽を聴取する間、意識を「音楽」「身体」「思考・感情・気分」に偏りなく向け続けることで、誤った緊張を調整するものである。これまでの研究から、RMTは自己覚知の亢進や脱中心化に有効であることがわかってきている。しかし、RMTは意識の適切な使い方についての一種のメンタルトレーニングであるため、特に初心者にとってMRTの内的課程は複雑で理解されにくいように思われる。本稿では新しくRMTを実施しようと考える実践者に役立つMRT実施上の留意点を含め、実際的な手順について詳細な解説をおこなった。また、これまでのRMTについての研究を概観し、今後のRMT研究についての方向性を示唆した。さらに、RMTの方法や内的プロセスとの比較からマインドフルネス(ヴィパッサナー瞑想)との関連について言及するとともに、マインドフルネス・エクササイズを取り上げ、RMTとの類似性について検討した。